最悪の瘴気銃
屍将軍に化けたきゅうすけとしん吉は、三条宗近のもとへ向かった。
部屋へ入ると、突然のことで、宗近が驚き、身構えた。
「宗近さん、俺たちだよ、きゅうすけとしん吉だよ」
「な、なんだ、お前たちか、その姿で来られると心臓に悪いぞ」
「しょうがねえだろ、この格好じゃねえと城の中を歩けねえんだから、それより何か俺たちにできることはないか?」
「それなら、ぜひともお前たちに渡したいものがあるんだ。」
宗近は一丁の瘴気銃を取り出した。
「こいつが今使われている最新型だ、前に渡した設計図から少し手が加えられているから、天国たちと一緒に来た鍛冶屋に現物を見せてくれ、こいつのヤバさがわかるから」
「分かった、必ず届けてくるよ」
しん吉は瘴気銃を受け取り、きゅうすけとともに宗近のもとを離れ、皆がいる所へ急いだ。
城内を進み、武器や資材を運ぶ屍兵たちが絶えず行き交い、二匹もその流れに紛れて奥へ進んでいった。
工場から響く金属音が大きくなり、資材を満載した荷車の脇を抜けようとしたときだった。
「おい、そこの二人!こんなところで何をしている、油を売ってる暇があるなら、さっさと仕事へ戻れ!」
「す、すみません、急いで戻ります!」
しん吉がビクッと跳ねた拍子に、腰から狸の尻尾が飛び出した。
「しん吉、尻尾が出てるよ!」
「えっ、うわっ!」
慌てて隠そうとしたしん吉につられ、きゅうすけの腰からも狐の尻尾が飛び出した。
「お前ら……屍将軍じゃねえな!何者だ!!!」
アルテミスが弓を引き絞り、炎をまとった矢を放った。
「まずい、逃げろ!」
炎の矢が二匹の間を抜け、その先に積まれていた木箱を直撃した。
ドォンッ!
爆炎とともに木箱が弾け飛び、燃えた破片が通路へ降り注いだ。
二匹が走り出した直後、二本目の炎の矢が頭上を越え、前方の荷車へ突き刺さった。
ドォンッ!
荷車が横倒しになり、積まれていた資材が一気に通路へ崩れ落ちた。
「前が塞がったぞ、こっちだ!」
きゅうすけが脇道へ飛び込み、しん吉も瘴気銃を抱えたまま続いた。
「貴様ら、待て!」
「待てって言われて待つ奴がいるかよ!」
目の前を歩いていた、屍武者が両手を広げ行く手を阻んだ。
「うわっ、こっちはダメだ!」
アルテミスの炎の矢が渦を巻いて飛んできた。
しん吉が紙一重でかわすと、その炎の矢は屍武者に直撃した。
「ガァァァァ」
断末魔を叫ぶと一瞬にして消し炭となった。
「あの弓矢の威力、尋常じゃないぞ!」
無数の炎の矢が脇道へ飛び込み、壁を爆炎が走った。
「きゅうすけ、どこ行くんだよ!」
「俺だって分かんねえよ、とにかく走れ!」
狭い通路を駆け抜けた先には、木箱や樽が並ぶ作業場が広がっていた。
二匹がその間へ飛び込んだ直後、背後から炎の矢が突っ込み、柱を爆炎で包んだ。
作業をしていた屍兵たちが一斉に逃げ出し、倒れた樽が転がり、積み上げられていた木箱が崩れた。
「城へ潜り込んで何をしていた!」
「今しゃべってる場合じゃねえだろ!」
アルテミスが放った炎の矢が木箱を吹き飛ばした。
炎と破片を避けながら、きゅうすけが柱の間を駆け抜けた。
「しん吉、こっちだ!」
「待ってくれよ、これ持ってるから走りづらいんだよ!」
しん吉が瘴気銃を抱えて追いかけたところへ、次の炎の矢が迫った。
「危ねえ!」
しん吉が咄嗟に横へ逃れ、足元を転がっていた木片を踏んだ。
「うわっ!」
身体が前へ投げ出され、瘴気銃を抱えたまま石床を転がった。
バシュッ――!
「えっ?」
黒い弾丸がアルテミスへと飛び、胸元に食い込んだ!
「ぐああああああっ!」
胸を撃ち抜かれたアルテミスから黒い炎が噴き上がり、
「な、なんだこれは!熱い!うああああああっ!」
黒い炎が全身を包み込んだ!
「うああああああああっ!」
絶叫とともに黒い炎が激しく燃え上がり、肉片一つ残らず消え去った。
カラン――。
炎が消えた石床を、アルテミスの弓が滑っていった。
「……きゅうすけ」
しん吉の手の中で瘴気銃がガタガタと揺れた。
「俺……殺しちゃった……俺、人を殺しちゃった……どうしよう……」
「俺に聞くなよ……俺だって、こんなの初めてだよ……」
瘴気銃がしん吉の手から滑り落ちかけた。
「落とすな!それは宗近さんから預かったんだろ、天国たちのところまで持っていかなきゃならねえ」
「でも……これで殺しちゃったんだよ……」
「分かってるって……俺だって怖えよ、でもここには置いていけねえだろ」
きゅうすけは足元まで滑ってきた弓を拾った。
「これも持っていくぞ。ここに残したらアルテミスに何かあったってすぐバレるからな、それに炎の矢を撃てるなら使い道があるかもしれねえ」
作業場の向こうから複数の足音が響いてきた。
「誰か来る、行くぞ!」
二匹は工場へ急いだ。
天国たちと一緒に来ていた鍛冶屋を見つけると、しん吉は瘴気銃を差し出した。
「宗近さんから……これ、最新型だって……前に渡した設計図から変わってるところがあるから、現物を見てくれって……」
瘴気銃が鍛冶屋の手へ渡ると、二匹は急いでワイチたちのもとへ戻った。
阿国たちが待つ場所までたどり着いたしん吉は、その場にへたり込んだ。
「おぬしら、何があったんじゃ!」
きゅうすけも声を震わせながら話し始めた。
「俺たち……とんでもないことしちまった。宗近さんから瘴気銃を預かって、天国たちのところへ持っていく途中でアルテミスに見つかったんだ。最初は何も疑われてなかったんだけど、しん吉がびっくりして尻尾を出しちまって、俺まで出ちまってさ、それで炎の矢を撃たれて逃げてたら、しん吉が転んで、その拍子に引き金を引いちまったんだ……」
「俺……殺しちゃった……」
しん吉の両手が震えていた。
「殺すつもりなんかなかったんだよ……転んだだけなんだ……でもアルテミスに当たって……俺、人を殺しちゃった……」
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃから、もう何もせんでいい」
阿国がしん吉をなだめ、ナリアも二匹のそばについた。
「ここから先は私たちがやりますから、二人ともここにいてください」
きゅうすけは持ち帰った弓を差し出した。
「これ、アルテミスの弓だ。あそこに残したら何かあったってすぐバレると思って持ってきたんだ。それに炎の矢を撃てるなら、何かに使えるかもと思って。」
「予定を早めます。アルテミスがいなくなったことに気づかれる前に、蹴萎慈疽瘴砲を撃てるところまで一気に進めましょう」
小次郎と村正宗がワイチたちのもとへ戻り、それ以外の者たちは阿国とナリアのもとへ集まった。
きゅうすけとしん吉を残し、ワイチたちは蹴萎慈疽瘴砲へ向けて動き出した。
その頃、城の別の場所では――。
「姉上!どこにいるんだ!」
アポロンはアルテミスの部屋から工場へ続く通路まで探し回っていた。
「姉上!」
さらに奥へ進み、別の通路を探した。
「姉上!どこに行ったんだ!」
アポロンの声だけが城内に響いた。
【次回予告】
阿国です♪
あの二匹、無事に戻ってきたと思ったら、とんでもないことをしでかしてくれましたね♪
でも、ここから先は私たちの仕事です。あの二人には、もう十分すぎるほど働いてもらいました♪
次回、第113話「炎の戦士、アポロン」
さて、ここからは私たちの出番ですよ♪




