恐ろしい武器
火雷の城へ潜入していたしん吉ときゅうすけは、三条宗近、大吉、勘介、天国から託された四枚の設計図を持ち、仲間たちの待つ場所へ戻ってきた。
「二人が持ち帰ったのは、粉露煮、蹴萎慈疽瘴砲、瘴気銃、そして蹴萎慈疽瘴砲を骨粗鬆亀へ搭載するための土台に関する四枚の設計図で、どれも火雷が進めている『火の七日間』に関わるものだった。」
赤い狐と緑の狸の里から同行してきた職人たちも集まり、三吉とだいすけが設計図を広げた。
三吉が最初に確認したのは、大吉から託された粉露煮の設計図だった。
「これは……とんでもないものを作ったな」
「三吉さん、何が書いてあるんです?」
「この粉露煮の中には、とんでもない量の瘴気が圧縮されて詰め込まれているんだ。こいつが地面に落ちて殻が割れたら、中に閉じ込められていた瘴気が一気に噴き出して辺り一帯に広がり、その瘴気に侵された草木も生き物も腐っていって、最後には土地そのものが腐海になっちまう。こんなものを現世に撃ち込まれたら、そこにいる人間だけじゃなく、土地まで全部駄目になってしまいます」
「そうか、火雷はこれを現世へ撃ち込んで腐海を作り、その後にすべてを焼き払うつもりなんですね。しかも腐海が広がれば、イザナミも現世で自由に動けるようになり、現世を滅ぼしながら同時にイザナミが動ける場所まで広げていくのが火の七日間っていうことですね」
「三吉さん、この粉露煮一発で、どれくらいの被害が出るんですか?」
「正確な範囲までは分からないが、この圧縮量は尋常じゃないです。一発落ちただけでも、国一つくらい簡単に滅びてもおかしくないと思います」
「え?国一つだって!?工場には三十発くらいあったんだろ?そんなものを三十発も現世に撃ち込むつもりなのかよ!」
次にだいすけが広げたのは、天国から託された蹴萎慈疽瘴砲の設計図だった。
城の近くの高台に置かれていた巨大な大砲は、ワイチたちも偵察の際にその姿を目にしていた。
「だいすけさん、この大砲はどうなんです?」
「やっぱり、あの大砲は粉露煮を遠くまで飛ばすために作られたものですね。この長い砲身で一気に撃ち出して、とんでもない距離まで飛ばす仕組みになっています。ただ、あれだけ巨大な大砲ですから、一発撃つたびに次の粉露煮を装填して、また発射の準備を最初からやり直さなきゃならないので、次を撃つまでには相当時間がかかるはずです」
「連発できねえのはまだ救いだが、一発で国一つが消えるようなもんをそんな遠くまで飛ばせるのかよ。火雷の野郎、とんでもねえもん作りやがったな」
だいすけは続いて、三条宗近から託された瘴気銃の設計図を広げた。
「だいすけさん、こっちの小さい武器は?」
「こっちもかなり厄介ですね。大砲みたいに粉露煮を飛ばすんじゃなくて、圧縮した瘴気そのものを小さな銃から直接撃ち込むようになっています。言ってみれば、持ち歩ける小さな蹴萎慈疽瘴砲みたいなものですよ」
「それならおいら見たよ。アポロンが毒棘竜に撃ってたけど、一発当たっただけで黒い炎みたいなものに包まれて、あのでかい身体がそのまま消えちまったんだ。骨すら残らなかったよ」
「本当に一瞬でしたよ♪あんなものを人が食らったら、どうなっちゃうんでしょうね♪」
「設計図を見る限りじゃ、撃ち込まれた瘴気が身体の中へ入り込んで、内側から一気に焼き尽くすみたいですね。毒棘竜が骨も残らなかったって話なら、人間がまともに食らったら助かるとは思えないですよ」
「しかも、まだ完成してないみたいでしたよ♪アポロンが何度も調整してましたから♪」
「弾の速さに反動、連続して撃ったときの熱、それに照準のズレ……まだこれだけ問題が残ってるのに、もう毒棘竜を一発で消せるのか。完成したうえに量産までされたら、こいつは相当まずいですよ」
「一万の兵士がこんなもん持って現世に出てきたら、向こうの兵隊じゃどうにもならねえぞ」
最後にだいすけが広げたのは、蹴萎慈疽瘴砲を骨粗鬆亀の甲羅へ搭載するための土台の設計図だった。
そこには巨大な大砲を甲羅の上で支える台座と、移動中や砲撃の衝撃でずれないよう固定する仕組みが細かく描かれていた。
「こっちは蹴萎慈疽瘴砲を骨粗鬆亀の甲羅に載せるための土台ですね。あれだけでかくて重い大砲を運ぶんだから、ただ甲羅に載せるだけではなく、専用の台座でしっかり支えて、移動してもずれないように固定してあるし、撃ったときの衝撃にも耐えられるようになっていますね」
「そういや天国が言ってたぞ。骨粗鬆亀は骨を食わせないと動かないんだって。だから、なかなか運べなくて、骨を集める部隊がいるみたいだよ」
「それで偵察したとき、骨馬を食べてたんですね♪」
「おいらたちが潜り込んだとき、骨を集めてる連中がいたから、あいつらを止めて骨が届かないようにすれば、骨粗鬆亀も動かせなくなるんじゃないか?」
「それなら蹴萎慈疽瘴砲も運べなくなるな」
四枚の設計図から火雷が用意していた兵器の仕組みが明らかになり、話は火の七日間をどう阻止するかへ移った。
「三吉さん、粉露煮はどうします?あれは殻が割れたら、中の瘴気が一気に広がるんですよね?」
「そうなんだ。あれだけの瘴気が詰まってるんだから、下手に壊したらこっちまで巻き込まれかねないしね、中の瘴気を撒き散らさずに処理する方法を考えないと駄目ですね」
「だったら粉露煮は安全に処理する方法を探すしかねえな。蹴萎慈疽瘴砲はぶっ壊して、瘴気銃は試作品だけじゃなく武器工場ごと潰し、骨粗鬆亀には骨を届けさせないようにする、そこまでやれば、火の七日間は止められるんじゃねえか?」
「でも、それで終わりじゃないですよね。火雷の城には、まだ一万を超える軍勢がいるんですよ」
「そうだぞ。おいらたちが潜り込んだときも、城の中にも外にもウジャウジャいた」
「一万以上か……さすがにそいつら全部をまともに相手にするのは無理だな。火雷のところへたどり着く前に、こっちが力尽きちまうよ」
「ちょっと待ってください。この大砲、利用できませんかね?」
「利用する?」
「あの一万を俺たちだけで相手にするのは無理ですけど、これだけ巨大な大砲なら火雷の軍勢へ向けて撃てば、一気に数を減らせるかもしれませんよ」
「敵が作った大砲を奪って、そのまま敵にぶっ放すのか!そいつは面白えじゃねえか、うまくいきゃ一万の軍勢をまともに相手にしなくて済むぞ!」
「しかしワイチさん、その大砲から撃つのは粉露煮ですぞ。根の国であんなものを撃ったら、火雷の軍勢だけじゃなく、広がった瘴気で周りの土地まで腐海になってしまいます」
「……そうか。大砲は使えても、粉露煮をそのまま撃つわけにはいかないのか」
蹴萎慈疽瘴砲を利用すれば、一万を超える火雷の軍勢を一気に減らせる可能性はあったが、砲弾となる粉露煮を根の国で使うことはできない。
火雷の軍勢を突破するためには、別の方法が必要だった。
「粉露煮の中にある瘴気をどうにかするなら、殻を開けずに浄化するしかないですよね。だったら霊水を使いませんか?」
「霊水ですか?」
「霊水なら瘴気を浄化できる可能性がありますよね。どう思いますか、ワイチさん?」
「使えると思います。ただ、普通の霊水で国一つを滅ぼすほど圧縮された瘴気を浄化できるかとなると、かなり厳しいでしょうね」
「それなら三種の神器を使うのはどうでしょうか?天照様から授かった勾玉、つなぎの剣、鏡には強い浄化の力があります。三種の神器で水を浄化することはできませんかね?晴明さんどう思います?」
「可能性は十分にあると思います。黄泉川の水に三種の神器を入れれば、かなり強い霊水に変えられるかもしれません」
「それなら試してみる価値はありますな。黄泉川ならここへ来る途中にありますし、必要な分だけ水を汲んで試せばよいでしょう」
「でもよ、霊水ができたとしても、粉露煮の外からかけるだけじゃ中まで届かねえんじゃねえか?一番どうにかしなきゃならねえのは、中に詰まってる瘴気だろ」
「武蔵さん、それなら中まで霊水を通す道を作るのはどうです?」
「真ん中に穴の開いた短い杭を何本か作るんです。それを粉露煮の周囲に刺して、穴から霊水を少しずつ流し込めば、表面からかけるだけより中へ浸透させやすくなると思います」
「なるほど♪何人かで小瓶を持って、それぞれの杭から霊水を流し込むんですね♪」
「表面にも霊水をかけながら、十人くらいで周囲から流し込めば、中と外の両方から浄化できます」
「でもワイチさん、杭を刺して大丈夫なんですか?粉露煮の中には大量の瘴気が圧縮されているんですよね。深く刺しすぎたら、その場で破裂する可能性もありませんか?」
「そこは俺が実物を確認するしかないですね。外装がどれくらいの厚さなのか、中の瘴気がどこまで来ているのかを見て、どれくらいまでなら安全なのかを調べます」
「その深さが分かってから、杭を作るということですか?」
「最初から安全な深さまでしか入らない長さにしておけば、間違って深く刺しすぎることもありません、それならだいすけさんに伝えれば大丈夫ですよね?」
「そのくらいなら作れると思います。ただ、問題はどこで作業するかですね。杭を作るにしても、道具や材料が必要になりますから」
「なら、どこで作業すればいいんですかね?」
「これだけ巨大な蹴萎慈疽瘴砲を作ったんですから、城の中には大きな工房があるはずです。そこなら杭を作るための道具や材料も揃っているかもしれません。ただ、実際に使えるかどうかは潜入して確かめないと分かりませんね」
「それなら工房がどこにあるのかも調べないといけませんね♪」
「でもワイチさん、粉露煮が置かれている工場にはどうやって入るんだ?おいらたちが潜り込んだとき、あそこにいたのは屍薬師と屍陰陽師ばっかりだったぞ」
「俺はきゅうすけたちみたいに姿を変えられませんから、屍薬師の格好を手に入れるしかないでしょうね」
「だったら一人になった屍薬師を見つけて、服を奪えばいいだろ。ワイチが着るんだから、服は傷つけねえようにしないとな」
「新しい粉露煮の改良をするために薬師を連れてきたことにすれば、工場へ入る理由にもできますな」
「俺が粉露煮の実物を確認して、安全な深さを調べて、その寸法を工房へ持っていって、中空の杭を作ってもらいましょう」
「杭を作るなら、村正宗さんも連れていった方がいいんじゃないですか?鍛冶仕事なら力になってくれると思います」
「俺も行くのか?俺はこいつらみてえに姿を変えられねえぞ」
「ワイチさんと同じように、村正宗さんも屍薬師の格好をすればいいんじゃないですか?」
「俺まで薬師かよ。こんなごつい薬師がいて大丈夫なのか?」
「服が入れば大丈夫じゃないですか?♪」
「そこかよ。まあ、杭を作るなら俺もいた方がいいだろうし、屍薬師でも何でもやってやるよ」
「職人たちは二手に分けた方がいいと思います。中空の杭を作る班と、蹴萎慈疽瘴砲を改造する班です。どう思いますか、ワイチさん?」
「亜吼志酴を作ることができても、大砲が火雷の軍勢へ向かなければ撃てませんからね。両方を同時に進めた方がいいと思います」
「でも、あの骨粗鬆亀を反対に向けるのは無理ですよね♪」
「だいすけさん、骨粗鬆亀を動かさずに、大砲だけ反対へ向けることはできませんか?」
「実物を見ないと分かりませんが、土台を改造して新しい支点を作ればできるかもしれません。一度砲身を上へ起こして、そのまま反対側へ倒せるようにシーソーみたいな仕組みにすれば、骨粗鬆亀を動かさなくても砲身だけ百八十度反転させられると思います」
「普段は今まで通り固定しておいて、必要なときだけ動かせるようにはできませんか?」
「固定する部分と、それを解除する仕組みをうまく隠せればできると思いますが、そこも実物の土台を確認してからですね」
「問題は、あんなでけえ大砲を誰が動かすかだな。俺でもさすがに無理だぞ」
「晴明さん、酒呑童子なら動かせませんか?」
「一体では難しいでしょうね。二体同時に召喚して、両側から力を加えれば動かせる可能性はあると思いますが……」
「二体同時となれば、晴明殿への負担も相当なものになりますぞ」
「それでも一万を超える軍勢をまともに相手にするよりは、試す価値はありますね」
「でもさ、杭を作って、大砲まで改造するんだろ?そんな大掛かりなことを火雷の城の中でやってたら、さすがに怪しまれないか?」
「だったら、堂々とやればいいんじゃないですか?」
「どういうこと?」
「火の七日間で使う粉露煮の威力をさらに上げるための改良だってことにするんですよ。杭を刺して液体を流し込んでいるのも、粉露煮を強化するための新しい処理だと言ってしまうんです。大砲の改造も、火の七日間に向けた改良ってことにすればいいんですよ」
「屍将軍に化けた者が命令している形にすれば、大勢の職人が集まっていても不自然には見えませんな」
「それなら浄化に時間がかかっても、作業を続ける理由にはなりますね♪」
「ただ、赤い狐と緑の狸のみんなが敵の姿になったら、誰が味方なのか分からなくなるよ。ワイチたちから見たら、本物の屍将軍もおいらたちも同じに見えるだろ?」
「それは確かに困りますね。しん吉や他のみんなが簡単に見分けられる方法はありませんか?」
「だったら、左の手首の内側に小さく×を書いておこうよ。普段は見えないし、仲間かどうか分からなくなったときだけ見せればいいんじゃないかな」
「それなら敵にも気づかれにくいですね♪」
赤い狐と緑の狸の潜入部隊は、全員が左手首の内側に小さな×印を付けることになった。
「ところで、霊水を作るための三種の神器はどうします?城の中まで持っていくんですよね?」
「勾玉もつなぎの剣も鏡も、鍵の形のまま袋に入れて隠して持っていきましょう。黄泉川で必要な量だけ水を汲んで、そこへ三種の神器をそのまま入れて霊水にするんです」
「できた霊水は小瓶に分けておけば、何人かで持ち込めますな」
「霊水を作った後の三種の神器は、そのまま大砲のところまで持っていくんですか?」
「粉露煮を装填する場所の周囲に、三種の神器を置けるところを三か所作ってもらいましょう。勾玉、つなぎの剣、鏡で粉露煮を囲んで、外からも浄化の力を当て続けるんです」
「中空の杭から霊水を流し込みながら、外から三種の神器でも浄化すると、中と外の両方から瘴気を消していけますな」
「問題は、完全に浄化するまでどれくらい時間がかかるかですね。国一つを滅ぼすほどの瘴気が圧縮されている以上、すぐに終わるとは限りません」
「そこは実際にやってみないと分かりません。ただ、粉露煮の威力を上げるための作業だと思わせておけば、その間も堂々と作業を続けられると思います」
「最後に完全に浄化できたかどうかは、どうやって確かめるんです?」
「それも俺が確認します。中に瘴気が残っているうちは絶対に撃てませんし、完全に瘴気が消えて、粉露煮が亜吼志酴に変わったことを確認してから発射します」
火雷が現世を滅ぼすために作り出した粉露煮を浄化し、一万を超える屍の軍勢へ撃ち返すために、ワイチたちは、まず火雷の城へ潜入し、粉露煮の実物と城内の工房を確認することにした。
同時に別の仲間たちは、三種の神器を取りに向かい、手に入れた神器を持って黄泉川へ向かい、粉露煮の浄化に必要な霊水を作ることになった。
火の七日間を阻止するための作戦は、いよいよ実行へ移ろうとしていた。
【次回予告】
おいら、しん吉だよ。
いよいよ作戦開始だ。今度はワイチたちも一緒に火雷の城へ潜り込むことになったけど、敵にバレたら一万以上の兵士に囲まれちまう。
変装も準備も失敗できないし、考えただけでも緊張してきたよ。
次回、第111話「火の七日間阻止計画開始」。
頼むから、いきなり見つかったりしないでくれよ!




