二通の手紙
火雷の城の偵察を終えた阿国、きゅうすけ、しん吉が戻ると、ワイチたちは大吉と勘介から託された二通の手紙を届けるため、骨馬が引く荷車に乗り、緑の狸の里を目指して来た道を引き返した。
漆黒に包まれた根の国を骨馬の荷車で進んでいると、前方に刀を持った屍武者たちが現れ、行く手を塞いだ。
「こんな時に出やがったか。急いでるんだ、さっさと片付けるぞ!」
武蔵が二刀を抜き、正面から斬りかかってきた屍武者の刀を受け止めると、そのまま力で押し返して斬り伏せた。
その横では小次郎が別の屍武者の斬撃をかわし、すれ違いざまに刀を振り抜いた。
「上からも来ます!」
頭上からいくつもの首だけの死霊――屍首が飛んできた。
一体の屍首が大きく口を開けて急降下すると、武蔵が二刀を振り上げて斬り払い、続いて別の屍首が荷車を引く骨馬へ向かって飛び込んだ。
「骨馬を狙ってやがる!」
村正宗が金槌を振り抜き、骨馬へ迫った屍首を横から叩き飛ばした。
さらに二体の屍首が上空から続けて襲いかかると、晴明が印を結んだ。
「光術・光芒!」
放たれた光が一体を捉え、屍首は光に包まれて消滅したが、もう一体はその横を抜けて晴明へ迫った。
そこへ小次郎が踏み込み、屍首を斬り落とした。
前方では残った屍武者たちが一斉に武蔵へ斬りかかり、武蔵は二本の刀で攻撃を受け止めると、強引に弾き返した。
「まとめて来やがれ!」
武蔵が二刀を振るい、一体を斬り伏せると、もう一体へ小次郎が斬り込み、その身体を切り裂いた。
最後に残った屍武者が刀を振り上げて村正宗へ迫ったが、村正宗は金槌で刀を弾き、そのまま屍武者を叩き倒した。
上空を飛び回っていた残りの屍首もワイチたちへ次々と襲いかかったが、武蔵たちが迎え撃ち、やがて周囲から屍たちの姿が消えた。
「ここで時間を食ってる場合じゃねえ。先を急ぐぞ!」
ワイチたちはすぐに骨馬の荷車へ乗り込み、再び根の国を進んだ。
その後も何度か屍武者や屍首に行く手を阻まれ、そのたびに敵を倒しながら進み続けると、やがて伏雷の門へたどり着き、そのまま門を通り抜けた。
さらに来た道を戻って黒雷の門を越え、枯れ木が立ち並ぶ漆黒の根の国を進み続けると、やがて柞雷が待ち構えていた第二の門へたどり着いた。
第二の門を抜け、根の国から黄泉坂へ戻ったワイチたちは、そのまま骨馬の荷車で黄泉坂を進み、魔犬阿吽がいた第一の門を通り抜けた。
黄泉坂を下ったところで骨馬の荷車は突然止まった。
「どうした?急いでいるんだ、頼むよ」
「黄泉の生き物だから、現世に行きたくないんじゃない?」
「あ、そういうことか。ごめんな、ここで降りるね」
ワイチたちは荷車から降りると、急いで緑の狸の里へ向かった。
長い道のりを戻り、ようやく緑の狸の里へたどり着くと、ワイチたちはすぐに三吉のもとへ向かった。
「三吉さん、長老様を呼んでください。急いで渡したいものがあるので」
「火雷の城で大吉という人に会ったの♪この手紙を預かってきたよ♪」
「だ、大吉だって?それは本当ですか?急いで長老を呼んできます」
長老が急いで現れた。
「だ、大吉に会ったというのは本当ですか?」
「これです。大吉さんからの手紙ですよ♪」
阿国が大吉から預かった手紙を渡すと、長老はすぐに手紙を受け取った。
「大吉が生きておったのか!良かった、良かった」
長老の頬を涙が流れていた。
「それで、大吉は火雷の城におるのですか!?」
「私たちが直接会ったから間違いないよ♪火雷に捕まって、城で働かされていたの♪」
長老は大吉から届いた手紙を読み始めた。
手紙には、大吉が火雷に捕らえられ、城の中で働かされていることが書かれていた。
さらに火雷の城では、現世を攻撃するための巨大な大砲が造られており、大吉もその計画のために無理やり働かされていた。
そして大吉と同じように、赤い狐の里の勘介という男も火雷に捕らえられていることが書かれていた。
「赤い狐の里の者まで捕らえられておるのか……」
長老はさらに手紙を読み進めた。
大砲には大量の瘴気を使うつもりらしく、火雷が現世で何か恐ろしいことを企んでいること、大吉たち自身にも計画のすべては知らされていないことが記されていた。
「大吉さんは、うちの里でも特別な薬師なんです。以前お話しした、古文書に残されていた三種類の薬を覚えていますか?あの薬を古文書から再現したのが大吉さんなんです」
三吉から大吉のことを聞き、ワイチは以前見せてもらった三種類の薬を思い出した。
「八手焚瑠是、煮華茶堕眼打、神像緒笹華予……あの三つを作った人なのか」
「大吉さんが古文書をもとに再現した薬です。それほど薬に詳しい人なんです」
長老は手紙に書かれていた勘介の名前を確かめた。
「赤い狐の里の者まで同じ城に捕らえられておるのなら、このことは向こうにも知らせねばならんな。それに、現世を攻撃するための大砲となれば、わしらの里だけで話を済ませるわけにもいかんな」
「勘介からも手紙を預かってるよ♪赤い狐の里の長老に渡してほしいって頼まれたの♪」
「ならば、その手紙を一刻も早く届けねばならんな。わしも赤い狐の里へ行くぞ」
「大吉さんが火雷に捕らえられていると分かった以上、長老一人で行かせるわけにはいきません。これからどうするのか一緒に話し合いたいです」
三吉も同行することになり、ワイチたちは緑の狸の里の長老と三吉を連れ、勘介から託されたもう一通の手紙を届けるため、赤い狐の里へ向かった。
赤い狐の里へ到着したワイチたちは、まず長老の息子であるだいすけのもとへ向かった。
「だいすけさん、長老様を呼んでください。急いで渡したいものがあるので」
「何かあったんですか?」
「火雷の城で勘介という人に会ったの♪勘介さんから手紙を預かってきたよ♪」
「勘介さんに会ったんですか!?本当に生きていたんですか!?」
「私たちが直接会ったから間違いないよ♪火雷に捕まって、城で働かされていたの♪」
「すぐに長老を呼んできます!」
だいすけが長老を呼びに行くと、ほどなくして長老が現れた。
「勘介に会ったというのは本当ですか?」
「これが勘介さんから預かった手紙だよ♪」
阿国が勘介から預かった手紙を渡すと、長老はすぐに手紙を読み始めた。
「勘介……生きておったのか……」
勘介が生きていたことを知ると、周囲にいた狐たちからも驚きの声が上がった。
「勘介が生きていたのか!」
「本当に勘介だったのか!?」
手紙には、勘介が火雷に捕らえられ、城の中で働かされていることが書かれていた。
さらに火雷の城では、現世を攻撃するための巨大な大砲が造られており、勘介もその計画のために無理やり働かされていた。
「勘介がそんなものを造らされておったとは……」
「勘介さんは、この里で一番の鍛冶師です。これまで里で作ってきた物にも、勘介さんが関わったものがたくさんあります」
だいすけから勘介のことを聞いたワイチたちは、勘介が赤い狐の里にとって大切な鍛冶師であることを知った。
赤い狐の長老が手紙を最後まで読み終えると、緑の狸の長老も大吉から届いた手紙を取り出した。
二通の手紙の最後には、同じようなことが書かれていた。
火雷が大量の瘴気を使った巨大な大砲を造っている、その大砲を使って現世に災をもたらそうとしている。そのために自分たちは無理やり働かされており、大砲が完成すれば殺されるかもしれないので、どうにか火雷の計画を止めるための良い方法を考えてほしい――二人はそれぞれの手紙に、そう書き残していた。
二通の手紙を確認した二つの里の長老たちは、ワイチたちとともに今後について話し合った。
「大吉と勘介をこのまま火雷の城に残しておくわけにはいかんな。二人を助け出さねばならん」
「それだけではありません。火雷が現世を攻撃するつもりなら、あの大砲も止める必要があります」
晴明の言葉を受け、阿国たちは偵察で確認した火雷の城の様子を伝えた。
「城の前にはたくさんの兵がいたよ♪工場の中にも屍薬師や屍陰陽師がたくさんいたの♪」
「おいらたちが見た大砲は、とんでもなく大きかったよ。あれを現世に向けて使うつもりなら、放っておけないよ」
「でも、僕たちが見られたのは外からと、城の中の一部だけだったよ。どうやって大砲を止めればいいのかまでは分からなかった」
きゅうすけの話を聞き、赤い狐の長老は勘介から届いた手紙へ目を向けた。
「勘介は実際に城の中で働かされておる。大砲についても、わしらより詳しいことを知っておるかもしれんな」
「大吉も同じじゃ。二人に直接話を聞くことができれば、火雷が何をしようとしておるのか、今より詳しく分かるかもしれん」
「だったら、もう一度城に潜って、大吉さんと勘介さんに会うしかないな。二人を助ける方法も、大砲を止める方法も、それから考えよう」
「私たちも協力します。大吉さんは私たちの里の者です。ワイチさんたちだけに任せるわけにはいきません。緑の狸の里からも、城へ向かう者を出しましょう」
三吉の言葉を聞き、だいすけも続いた。
「それなら、赤い狐の里からも出します。勘介さんを助けに行くのに、俺たちが何もしないわけにはいきません。城の中へ入るなら、俺たちの里からも人を出します」
「しかし、大勢で向かうのは危険です。あれだけの兵がいる城です。こちらが大人数で近づけば、潜入する前に気づかれる可能性があります。大吉さんと勘介さんに接触することが目的なら、人数は絞った方がいいでしょう」
晴明の意見を聞き、赤い狐の長老はだいすけに伝えた。
「ならば、里の者を大勢連れていくのではなく、少人数に絞るしかないな。だいすけ、城へ向かえる者の中から腕の立つ者を選んでくれ」
緑の狸の長老も三吉に伝えた。
「三吉、お前も里へ戻り、少人数で動ける者を選んでくれ。大吉を助け出すためじゃ」
二つの里から少人数の精鋭を出し、ワイチたちとともに火雷の城へ潜入することが決まった。
まず大吉と勘介に接触し、城の内部で何が行われているのかを詳しく聞き出す。そして二人を救出する方法と、現世を狙う巨大な大砲を止める方法を探ることになった。
しばらくして、赤い狐の里と緑の狸の里から選ばれた精鋭たちが集まった。
「これで全員です。赤い狐の里から選んだ者たちです」
「緑の狸の里からも集まりました。大吉さんを助け出すために、みんな協力してくれます」
二つの里から集まった者たちを前に、晴明が今回の目的を伝えた。
「城へ潜入し、大吉さんと勘介さんに接触します。二人から城の内部と大砲について詳しい話を聞き、救出する方法と火雷の計画を止める方法を探すのが目的です」
「城には大勢の屍兵がいたよ♪工場の中にもたくさんいたから、見つからないように入らないと駄目だよ♪」
「おいらたちが前に入った時、大吉さんと勘介さんがどこにいたのかは分かってるよ。そこまでは案内できる」
「でも、前と同じ場所にいるとは限らないから、城に着いたらもう一度様子を見た方がいいね」
しん吉ときゅうすけは、前回の偵察で確認した城の様子を二つの里の精鋭たちへ伝えた。
「大吉さんと勘介さんのほかにも、三条宗近さんという人が捕まっていたよ♪」
「その者も火雷に働かされておるのか?」
「三条宗近さんは銃を造らされていたよ♪大吉さんや勘介さんと同じように足枷をつけられていたの♪」
「ならば、その者からも話を聞ければ、城の中で造られておる武器について何か分かるかもしれんな」
「ただし、救出を急いで騒ぎを起こせば、火雷に気づかれる可能性があります。まずは接触して情報を得ることを優先しましょう」
赤い狐の里の長老と緑の狸の里の長老は里に残り、だいすけと三吉を含む二つの里の精鋭たちがワイチたちとともに火雷の城へ向かうことになった。
一行は赤い狐の里を出発し、黄泉坂へ向かった。
黄泉坂を進むと、現世へ向かうことを嫌がって止まった骨馬が、荷車とともに待っていた。
「待たせたな。また頼むよ」
ワイチたちは再び骨馬の荷車へ乗り込んだ。
骨馬の荷車で黄泉坂を上り、魔犬阿吽がいた第一の門を越えると、さらに先へ進み、柞雷が守っていた第二の門を通り抜けた。
根の国へ入ったワイチたちは、周囲を警戒しながら火雷の城を目指した。
黒雷の門を越え、さらに伏雷の門を通り抜けると、火雷の城がある領域へ戻った。
「ここから先は火雷の城に近づいていきます。敵に見つかれば、こちらが戻ってきたことを知られる可能性があります」
「前に偵察した時も、城の周りにはたくさんの兵がいたよ♪ここからは気をつけた方がいいね♪」
ワイチたちは周囲を警戒しながら進み続けた。
やがて遠くに火雷の城が見え始めると、一行は骨馬の荷車を止めた。
「馬車でこれ以上近づくのは目立つね」
「ここからは歩いて近づきましょう。まず城の周囲を確認して、大吉さんたちがいる場所まで入れる道を探します」
ワイチたちは骨馬の荷車をその場に残し、赤い狐と緑の狸の精鋭たちとともに火雷の城へ近づいていった。
巨大な城と、その周囲に広がる施設が徐々に近づいてきた。
城の周囲では多くの屍兵が動き回り、前回の偵察で確認した工場も稼働を続けていた。
「ここから先は、見つかったらまずいよ♪」
大吉と勘介に接触するため、ワイチたちは二つの里の精鋭たちとともに、火雷の城を目前にしていた。
【次回予告】
きゅうすけだよ。
火雷の城には、とんでもない数の屍兵がいたんだ。
あの中にもう一度入るのは危険だけど、大吉さんと勘介さんを放っておくわけにはいかないよ。
今度は赤い狐と緑の狸の仲間たちも一緒だ。
見つからないように、慎重に行かないとね。
次回、第109話「敵陣の奥へ」。
絶対に二人に会って、詳しい話を聞いてくるよ。




