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世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


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火の七日間

火雷の城。現世への侵攻に向けた作戦会議は、凍りついた静寂の中で開かれていた。


広間には、火雷、佐助、オーディン、アルテミス、アポロンが揃っていた。


火雷は無言のまま冷徹な眼差しを巡らせ、長キセルを吸っていた。吐き出された煙が淀み、息の詰まるような重圧が広間を満たしていく。


「オーディン、粉露煮コロニーの製造はどうなっている?」


「製造は進んでいますが、火の七日間を始めるにはまだ数が足りません。伏雷様の工場がすべて破壊されたことで屍薬師と屍陰陽師の数も足りず、現在の人数では必要な数を揃えるまでかなり時間がかかります」


「その必要はありません。今から工場を建て直している時間などない。今いる者たちで急ピッチで粉露煮を作らせなさい」


「……分かりました」


火雷の視線がアルテミスへ移った。


「アルテミス、対魔溶痢死摩利砲たいまとりしまりほうは?」


「形はほぼ完成していますが、まだ一度も試射していません。移動に使う骨粗鬆亀にも問題があり、骨が足りずうまく動くことができません。すぐに骨を欲しがるため、この状態では対魔溶痢死摩利砲を運ばせることができません」


「アポロン、瘴気銃は?」


「まだ試作段階で、銃そのものも安定しておらず、瘴気を弾として使える大きさまで小型化することもうまくいっていません。この状態では大量に作ることはできません」


火雷は手にした長キセルを灰皿へ、コン、コンと打ちつけた。


「それで、いつになったら攻撃段階へ移れるの?」


「イザナミ様のお力が満ちる時は、もう間近まで迫っています。それまでに、すべての準備を整えなさい」


「オーディン、粉露煮の製造を急がせなさい。アルテミスは対魔溶痢死摩利砲と骨粗鬆亀、アポロンは瘴気銃の開発を進めるのです」


「現世へ渡る日が、ようやく来るのですね」


「イザナミ様は長い年月をかけ、現世との境を破るためのお力を蓄えてこられました。その力は間もなく満ち、根の国と現世をつなぐ大きな道を開くことができます」


「道が開けば、一万の軍勢も対魔溶痢死摩利砲も現世へ送り込める」


「ですが、道が開くだけでは足りません。今の現世は、イザナミ様がお過ごしになるには適していないのです」


「イザナミ宮の周囲には腐海が広がっている。今の現世とはまるで違うからな」


「だからこそ、現世そのものを変える必要があります。人間たちが築いた国も町も、そこに暮らしている者たちも、私たちには必要ありません」


「全部消してしまうつもりか」


「現世を一掃するには、いらない者たちを排除しなければなりません。そのために――粉露煮落としを実行します」


「七日間にわたり粉露煮を落とし続ける。いよいよ始まるんですね」


「粉露煮によって現世を燃やし尽くし、放たれた瘴気で焼けた大地を腐海へ変えていきます。七日間が終わる頃には、国も町も人間も消え、今とはまったく違う世界になっているでしょう」


「イザナミ宮の周囲と同じ腐海が、現世に広がっていくのですね」


「現世をイザナミ様が過ごしやすい世界へ作り変えるのです。人間たちの世界を奪って支配するのではありません。今あるものをすべて消し去り、私たちの世界として作り直します」


「人間たちが取り戻そうにも、元の国も町も残っていない。それなら奪い返す場所すらなくなるな」


「残す必要などありません。人間たちのための世界ではなくなるのですから」


「七日間も粉露煮を落とせば、腐海はかなり広がりそうだな」


「それでも終わりではありません。粉露煮落としが終わった後は、私の邪悪な炎で仕上げます」


「腐海になった大地を、さらに火雷様の炎で変えるのですね」


「イザナミ様がお過ごしになる世界に、中途半端なものを残すつもりはありません」


「七日間で現世を燃やし尽くし、腐海に変え、最後は邪悪な炎で仕上げる……」


「これが――火の七日間です」


「火の七日間が終わる頃には、現世は完全に別の世界になっているな」


「そしてイザナミ様のお力が完全に満ちれば、根の国と現世をつなぐ大きな道が開きます。その先に広がっているのは、もう人間たちが暮らしていた現世ではありません。イザナミ様のために作り変えられた新しい世界です」


「そうなれば、俺たちも根の国を出られる」


「一万の軍勢も屍将軍たちも、すべて現世へ移します。もう根の国に留まり続ける必要はありません」


「ようやく、この暗い世界から出られるんですね」


「イザナミ様とともに現世へ渡り、私たちも太陽の下で暮らすのです」


「太陽か……根の国にはないからな」


「現世へ行けば、毎日のように太陽の光を浴びることができます」


「どんなものなのか、一度見てみたいですね」


「私も楽しみにしています。何より、太陽の光を浴びれば、私の美しさも今よりさらに輝きを増すことでしょう」


「世界を丸ごと作り変える話をしとるのに、結局そこへ行くんですのう」


「佐助、何か言いました?」


「何も言うとりませんけえ!」


「なら結構です。佐助、あなたも他人事ではありません。火の七日間が始まれば、現世にいる者たちが黙って見ているとは限りません」


「ワイチらのことですかいの?」


「伏雷と黒雷を倒し、ここまで近づいてきた者たちです。私たちの準備が整う前に、好き勝手に動かれては困ります」


「そっちはわしが探っておきますけえ」


「オーディンは粉露煮の製造施設へ向かい、必要な数がいつ揃うのか確認しなさい。アルテミスは対魔溶痢死摩利砲の完成状況と骨粗鬆亀の問題を確認するのです。アポロンは瘴気銃の開発を急がせなさい」


「イザナミ様のお力が満ちるまでに、すべてを間に合わせなければなりません」


「粉露煮落としが始まれば、七日間で現世のすべてが変わります」


「火の七日間を始めるその時までに、すべてを完成させなさい」


作戦会議を終えたオーディンは、粉露煮の製造施設へ向かった。


城の裏手に造られた巨大な施設では、屍薬師と屍陰陽師たちが粉露煮の製造を続けていた。


いくつもの製造区画が並び、その中には完成した粉露煮も置かれているものの、伏雷の工場がすべて破壊されたことで人手は大幅に不足し、使われないまま止まっている設備も多かった。


その製造を任されていたのが、緑の狸の里から捕らえられてきた大吉だった。


大吉は、かつて里で伝説となった薬を作り出した本人で、その知識を利用するため火雷のもとへ連れてこられ、両足を大きな鉄球のついた足枷につながれたまま粉露煮の製造を強いられていた。


「大吉、ママから命令が出た。今いる屍薬師と屍陰陽師を動かせる設備へ集中させろ。火の七日間までに必要な粉露煮をすべて揃えるんだ」


「そんな無茶な……今でも手いっぱいですぞ。伏雷の工場がなくなってから人手が足りず、使いたくても動かせん設備まで出ておるんです」


「工場を建て直している時間はない。今いる人数で作れ」


「人数が増えんのに急げと言われても限界がありますわ。粉露煮は簡単に作れるものではありませんぞ」


「それでも製造を止めるな。一つでも多く作れ」


「簡単に言ってくださるのう……」


「火の七日間を遅らせることはできない。間に合わせろ」


「……分かりましたよ。やれるだけやりますわ」


オーディンの命令によって、屍薬師と屍陰陽師たちは稼働している製造区画へ集められ、大吉も足枷につながれたまま粉露煮の製造を続けた。


その頃、アルテミスは城から離れた高台へ向かっていた。


高台には巨大な対魔溶痢死摩利砲が据えられ、その長大な砲身が根の国の荒野へ向けられていた。後方には、大砲を運ぶための巨大な骨粗鬆亀が待機していた。


対魔溶痢死摩利砲を作らされていたのは天国あまくに。その隣には、赤い狐の里から捕らえられてきた伝説級の鍛冶屋、勘介がいた。


二人とも火雷の兵器を作るために捕らえられ、両足には大きな鉄球のついた足枷がはめられていた。


「天国、ママから命令が出た。対魔溶痢死摩利砲を試射できるところまで仕上げろ。粉露煮が届いたらすぐに撃つ」


「そんな無茶な……まだ一度も粉露煮を撃っとらんのですぞ。形はできておりますが、あれほど巨大なものを本当に撃ち出せるかどうかは、実際に試してみなければ分かりませんわ」


「だから試射するんだ。問題が出たら直せ」


「簡単に言ってくださるのう。粉露煮を撃ち出すために作った大砲とはいえ、何か問題が起きたからといって、すぐ直せるとは限りませんぞ」


「それでも完成させろ。火の七日間まで時間がない」


「……分かりましたよ。試射できるところまでは仕上げますわ」


アルテミスは続いて勘介へ命じた。


「勘介、対魔溶痢死摩利砲を骨粗鬆亀に載せろ。実際に運べるか確認する」


「今からですか?こいつは何も載せておらん状態でも、すぐに骨を欲しがりますぞ」


「現世へ運んでから動かないでは使い物にならない。今ここで確認するんだ」


「……分かりました。やってみますわ」


天国と勘介が屍兵たちへ指示を出すと、巨大な対魔溶痢死摩利砲が骨粗鬆亀の背へ載せられ、動かないよう固定された。大量の骨を与えられた骨粗鬆亀はそれを次々と食らい、対魔溶痢死摩利砲を背負ったままゆっくりと動き始めた。


「動きましたな」


「このまま進ませろ」


しばらく進んだところで骨粗鬆亀の動きが鈍くなり、そのまま止まってしまった。


「もう止まったのか?」


「だから言ったでしょう。もう骨を欲しがっとりますわ」


「さっきあれだけ食わせたばかりだぞ」


「大砲を背負わせれば、それだけ余計に骨が必要になるんでしょうな。この調子では、現世へ運んだ後も相当な量の骨を用意せんとまともに動かせませんぞ」


「必要な骨はこちらで用意する。勘介、対魔溶痢死摩利砲を載せた状態でどれだけ動けるのか調べろ」


「そんな無茶な……どれだけ食わせれば足りるのかも分かりませんわ」


「だから調べるんだ。火の七日間までに運べる状態にしろ」


「……分かりましたよ。やれるだけやってみますわ」


「天国は対魔溶痢死摩利砲を仕上げろ。粉露煮が届いたら試射する」


「分かりました」


屍兵たちは再び骨を運び始め、天国と勘介は対魔溶痢死摩利砲と骨粗鬆亀の調整を続けた。


一方、アポロンは城内に設けられた瘴気銃の開発施設へ向かった。


施設内には鍛冶道具や試作品が並び、作業台の上には拳銃の部品と、黒い瘴気を収束させて作られた大小さまざまな塊が置かれていた。


瘴気銃の開発をさせられていたのは三条宗近だった。三条宗近も火雷に捕らえられ、その鍛冶の技術を利用するため、両足を大きな鉄球のついた足枷につながれたまま開発を強いられていた。


「宗近、ママから命令が出た。瘴気銃の開発を急げ」


「急げと言われましても、まだ粉露煮を拳銃で使える大きさまで小型化できておりませんぞ」


対魔溶痢死摩利砲から撃ち出す巨大な粉露煮。その強大な破壊力を兵士一人ひとりが使えるようにするため、粉露煮を小さな弾へと小型化し、それを拳銃から撃ち出す兵器。それがアポロンの考えた瘴気銃だった。


「対魔溶痢死摩利砲から撃ち出す粉露煮は、一発で広い範囲を焼き払い、瘴気を撒き散らすほどの力を持っている。その粉露煮を小型化して兵士たちに持たせるんだ。瘴気銃が完成すれば、現世でどんな敵が出てきても簡単に倒せる」


「考えるだけなら簡単でしょうな。粉露煮はあの大きさだから瘴気を収束させた状態を保てておるんです。それを拳銃に入るほど小さくしようとすると、瘴気が安定せず形が崩れてしまいますわ」


「なら、小さくしても崩れないようにしろ」


「そんな無茶な……今それを何とかしようとしておるんですぞ」


「瘴気弾が完成すれば、あとは拳銃から撃てるようにすればいい」


「そこも簡単ではありません。仮に小さな粉露煮を作れたとしても、それだけでは瘴気銃にはならんのです。これほど強い瘴気を収束させた弾を小さな拳銃から撃ち出そうとすれば、うまく発射されなかったり、銃の中で爆発してしまったりします」


「なら、その問題も解決しろ。小型の粉露煮と、それを安全に撃ち出せる拳銃、その二つを完成させるんだ」


「……本気で言っておるのですか?」


「当たり前だ。対魔溶痢死摩利砲だけでは、一度に攻撃できる場所は限られる。瘴気銃なら兵士一人ひとりが同じ力を持って戦える。数を揃えれば、どんな敵が現れても押し潰せる」


「一丁完成させるだけでも難しいというのに、それを兵士たちに持たせる数まで作るつもりですか」


「そのためにお前を連れてきたんだ。まず一丁完成させろ。完成したら同じものを作れるだけ増やす」


「そんな無茶な……火の七日間までにそこまでやれと言われても、間に合う保証などありませんぞ」


「間に合わせろ。ママの計画を遅らせるわけにはいかない」


「……分かりましたよ。やれるだけやってみますわ」


三条宗近は再び、粉露煮を拳銃で扱える大きさまで小型化するための作業を続けた。

【次回予告】


武蔵だ。


あの先に見える城……どうにも嫌な感じがするぜ。


ここまで来た以上、引き返すつもりはねえが、あの城に何が待ってるのかは分からねえ。


次回、第107話「炎の城の脅威」。


何が出てこようが関係ねえ。まとめてぶった斬ってやるぜ!


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