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世界を救ったのは剣豪でもなく陰陽師でもなく薬師?だったんですよ!  作者: 氣愛注入


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熱烈女帝 火雷

火雷の居城。


根の国の荒れ果てた大地にそびえる巨大な城の一室で、火雷は長椅子に腰を下ろしていた。


広々とした室内には赤い絨毯が敷き詰められ、壁際には大きな壺に生けられた真紅の薔薇が並んでいた。


火雷の周囲にも無数の薔薇が飾られ、燭台に灯された炎が花弁を赤く照らしていた。


長い黒髪を背へ流した火雷は、長い煙管を指先に挟み、ゆっくりと煙を吐き出した。


その傍らでは、数人の女の屍将軍が火雷の世話をしていた。


一人が皿を差し出すと、火雷はそこからライチを一つ摘まみ、ゆっくりと口へ運んだ。


「火雷様、本日もお美しゅうございます」


「そのお姿を拝見しておりますと、この根の国に咲く薔薇でさえ霞んで見えます」


女たちの言葉を聞いても、火雷は微笑むこともなかった。


当然のことを聞かされているように煙管を口元へ運び、再び煙を吐き出した。


「おかわりをお持ちなさい」


「はい、ただいま――」


女の屍将軍が皿を持ち上げ、別の女へ視線を向けた。


しかし、すぐにその表情が強張った。


「火雷様……申し訳ございません。ライチは、先ほどのもので最後でございます」


部屋には、炎がゆらめく音だけが響いていた。


長い煙管を持ち上げ、その先を女の屍将軍へ向けた。


コンコン。


煙管を指先で軽く叩いた。


「ヒー」


煙管の煙を屍将軍に吹きかけると


「ぎゃああああああ!」


女の屍将軍の全身が一瞬で炎に包まれた。


燃え上がった女が床へ倒れ、赤い絨毯の上を転げ回る。


それでも火雷は目を向けることなく、皿に残っていた最後のライチを口へ運んだ。


やがて悲鳴が途絶え、黒く焼け焦げた身体だけが床に残った。


「さっさと片づけなさい。汚らしい」


「かしこまりました、火雷様」


別の女の屍将軍たちが、焼け焦げた身体を運び出していった。


「火雷様の炎、本日もなんとお美しい……」


「あれほど美しい炎に包まれて最期を迎えられるなんて、羨ましい限りでございます」


火雷は煙管を口元へ運び、


「妾は美しい、当然でしょう」


そのとき、部屋の扉が開いた。


「姐さん、ただいまー」


場違いなほど軽い声とともに、佐助が入ってきた。


部屋を見回した佐助は、運び出されていく黒焦げの屍将軍を見た。


「あーあ、また燃やしたんか、姐さん燃やしすぎ」


火雷は佐助を見ることなく、煙管から煙を吐き出した。


「それで?伏にはちゃんと伝えたのかい?」


「実は、伏の姉さん、やられとったわ。もうバラバラじゃ、バラバラ。工場もなーんにも残っとらんよ。崩れとるわ、燃えとるわで、まあ、すさまじい有り様じゃったわ」


火雷の煙管を持つ手が止まった。


佐助は気にもせず、そのまま話を続けた。


「ほんでな、ちょっと気になったけぇ、黒の兄貴んとこも見に行ってきたんじゃけど、黒の兄貴は跡形も残っとらんかったわ」


「なんですって……黒雷まで?」


「なんにもない。綺麗さっぱりじゃ」


「あの兄さんがやられていたとはねー、誰がやったんじゃろうね。わしゃ知らんけど」


火雷は煙管を口元へ運び、静かに煙を吸い込んだ。


「伏雷の工場は使い物にならないの?」


「じゃけぇ、なんにも残っとらんって。収容所も駄目じゃ。あれじゃもう屍薬師も増やせんじゃろうな」



女の屍将軍たちが口を閉ざし、火雷の様子を窺っていた。


火雷は煙を細く吐き出した。


「誰がやったのか、探してきなさい」


「えー今から?今、戻ったばかりじゃよ?休ませてよ。」


火雷が煙管を佐助へ向けた。


コンコン。


「熱っ!またそれかい!」


佐助の身体を炎が包んだ。


「わし燃やすくらいなら、現世に使えや!」


火雷は燃えている佐助から視線を外し、周囲の女たちへ煙管を向けた。


「あなたたちも早く行きなさい。そして、壊した奴らを連れてきなさい、それは私が美しいから」


「は、はい!」


女の屍将軍たちは一斉に部屋を飛び出していった。


身体から煙を上げた佐助も、その後を追っていく。


「ほんま人使い荒い姐さんじゃのぉ……」


扉が閉まり、部屋には火雷だけが残った。


やがて長椅子から立ち上がり、煙管を手にしたまま部屋を出ていき、廊下を進むと城の外へ出た。


そして、空を見上げた次の瞬間。


巨大な炎の柱が根の国の空へ突き上がった。


轟音とともに大地が揺れ、赤々と燃え上がる炎が城を照らし、炎の柱は遥か上空まで伸び、根の国を覆う暗闇を真っ赤に染め上げた。


それから数時間後。


火雷の居城へ戻ってきた佐助は、真っ直ぐ火雷のもとへ向かった。


「姐さん、今戻ったよー。いやー、あちこち探してみたんじゃけど、やっぱり誰がやったんか分からんかったわ。ただな、馬車が通った跡が残っとったけぇ、それをずーっと追ってみたんよ。じゃけど、勝手に動いたらまずい思うて、一回確認しに戻ってきたんじゃ」


「馬車の跡はどこへ続いていたのですか?」


「伏の姉さんのところから、ずーっと離れていっとったよ。かなり先まで続いとった。追えば何か分かるかもしれんけど、どうする?」


火雷は煙管を口元へ運び、


「いや、もう追わなくて結構です。それより現世への攻撃準備を急ぎなさい。黒雷と伏雷が倒されたからといって、イザナミ様から命じられた計画を遅らせるわけにはいきません」


「ええんか?誰がやったんか分からんままじゃぞ」


「構いません。こちらへ来るのであれば、そのとき始末すればいいだけのこと。それより今は、現世を攻める準備を整えることが先です。なぜなら妾が美しいから」


「はいはい、美しいですよ。しかし、相変わらず怖いのぉ。まあ、わしゃ言われたことやるだけじゃけど」


「それと佐助、アルテミス、オーディン、アポロンを呼んできなさい」


「えー、姐さんの可愛い息子たちを?良いけど、あの子らわしを嫌っとるしのぉ」


コンコン。


「わかった、わかった。そう怒らんでよ、今呼んでくる」


しばらくして、三人の男が火雷の前へ姿を現した。


三人はいずれも二十歳ほどの若者で、火雷と同じ黒髪を持ち、整った顔立ちをしていた。


アルテミスは背に赤く輝く火弓を携え、オーディンは炎をまとった長大な火グングニルの槍を手にしていた。アポロンも二人と並んで火雷の前へ進んだ。


「ママ、呼んだ?」


「何かあったの、ママ?」


「ママ、今日も綺麗だね」


三人から向けられた言葉に、火雷は満足そうに笑みを浮かべ、


「当然でしょう。妾より美しい者など、この世に存在するはずがありません」


その様子を見ていた佐助が、


「お前ら、ほんまママ好きじゃのぉ。二十歳にもなって三人揃ってママ、ママって」


アルテミスが佐助を指差し、


「焼くよ」


オーディンも続けて、


「燻すよ」


「焼くんも燻すんも大して変わらんじゃろ。それに、わしゃ前から気になっとるんじゃけど、お前ら見れば見るほど姐さんに似とるのぉ。父ちゃんは誰なんじゃろうね。もしかして、お前らの父ちゃん、鳴の兄さんじゃないん?」


「あのアホが父なわけあるか!」


アルテミスが即座に言い返し、


「ママと鳴雷様を一緒にするな。ママに失礼だ」


オーディンまで声を上げると、アポロンも、


「そもそも、どう考えたら鳴雷様が僕たちのパパになるの?」


三人から一斉に責められても、佐助は、


「そこまで言わんでもええじゃろ。鳴の兄さん、悪い人じゃないで。ちょっと変わっとるけど。まあ、本当のところは……秘密だけど」


「僕らをバカにしてるの?」


「あいつとの繋がりなんてあるわけがない!」


「ママはとても高貴な方だ、筋肉バカを相手にするはずがない!」


「お前ら、鳴の兄さんに厳しすぎじゃろ!」


「佐助、いつまでくだらない話をしているのですか。行きますよ」


火雷は三人の息子を従え、城の奥から外へ続く巨大な回廊を進んでいった。


分厚い石壁に囲まれた回廊を抜け、巨大な城門の先へ出ると、そこには根の国の荒れ果てた大地を埋め尽くすほどの軍勢が広がっていた。


城の正面から遥か彼方まで、屍武者、屍盾武者、屍忍者、屍陰陽師をはじめとする兵たちが幾重にも隊列を組み、その数は一万を超えていた。


最前列には刀や槍を携えた屍武者たちが横一線に並び、その後方には巨大な盾を構えた屍盾武者の部隊が何列にもわたって続いている。


さらにその奥には屍陰陽師の大部隊が控え、左右に大きく広がった屍忍者たちは、戦場で敵の側面へ回り込むための陣形を組んでいた。


数百の兵で構成された部隊が広大な大地の至るところに配置され、それらがいくつも連なりながら巨大な一つの軍を形成していた。


訓練場では、現世への侵攻に備えた訓練が続けられていた。


号令が響くと、何百本もの槍が同時に前方へ突き出され、その後方から盾の部隊が巨大な壁を作りながら前進する。


ドン!ドン!ドン!


無数の足が乾いた大地を踏みつけるたびに地面が震え、巻き上げられた土煙が軍勢の上を覆いながら城壁の高さまで立ち昇っていく。


別の一角では屍陰陽師たちが一斉に術を放ち、赤や青、黄色の光が大地の上で次々と炸裂していた。


その間を屍忍者たちが駆け抜け、前方に立てられた無数の標的へ手裏剣を放ち、さらに奥では屍将軍たちがそれぞれ数百の兵を率い、隊列を崩さず進軍する訓練を繰り返していた。


城の正面には軍勢を一望できる巨大な高台が築かれていた。


火雷がアルテミス、オーディン、アポロンを従えて高台へ姿を現すと、それまで各所で続いていた訓練が止まり、一万を超える兵たちの視線が高台へ集まった。


次の瞬間。


「火雷様!」


「火雷様!」


「火雷様!」


一万を超える兵たちの声が一斉に響き渡った。


地鳴りのような歓声が城壁へぶつかり、根の国の荒野へ広がっていく。


刀を掲げる者、槍を突き上げる者、盾を打ち鳴らす者。


ドン!ドン!ドン!


巨大な盾を叩く音まで重なり、城の周囲を埋め尽くした軍勢の熱気が一気に膨れ上がった。


火雷は高台から眼下の軍勢を見渡し、


「現世へ進軍する日は近い。妾に仕える者たちよ、準備を怠ることは許しません。現世に生きる者たちへ、妾の炎がどれほど美しいものなのか、存分に教えてあげなさい」


「火雷様!」


再び一万を超える声が轟いた。


「火雷様!」


「火雷様!」


無数の武器が一斉に掲げられ、刀身や槍の穂先が赤い炎の光を受け、軍勢の上で波のように輝いた。


「いやー、よう集めたのぉ。これ全部、現世に連れていくんか?」


高台から果てしなく続く隊列を眺めた佐助に、火雷は、


「当然です。この程度では、まだ足りません。現世を妾の炎で覆い尽くすのですから」


「一万以上おって、まだ足りんのか。欲張りじゃのぉ」


「ママなら、このくらい当然だよ」


アルテミスの言葉にオーディンも、


「これだけの兵がいても、ママの炎には遠く及ばない」


「全部燃えたら、もっと綺麗になるね」


アポロンの言葉に、火雷は煙管から細い煙を吐き出し、


「そうね。妾の炎に包まれれば、現世も少しは美しくなるでしょう」


一万を超える軍勢の歓声が、再び根の国の大地を震わせた。


火雷は眼下を埋め尽くす兵たちを見渡し、


「兵は十分に揃いましたね。それで、例の準備も順調なのですか?」


高台の下に控えていた屍将軍が、


「順調に進んでおります。ただ、まだ予定数には至っておりません」


「そうですか。とにかく急がせなさい」


「はっ!それと、移動手段の方ですが、こちらは少々問題が起きております。なかなか思うように動いてくれず……」


「現世へ進軍する日までに、必ず間に合わせなさい」


「かしこまりました!」


火雷は煙管を口元へ運び、一万を超える軍勢を見渡しながら煙を吐き出した。


「すべての準備が整えば、いよいよ始まります」


火雷の口元に笑みが浮かんだ。


「現世を、妾の炎で美しく染める日がね」


【次回予告】


佐助じゃ。


姐さん、まだ何かとんでもないもん隠しとるみたいじゃのぉ。


予定数がどうとか、移動手段がどうとか……わしゃ嫌な予感しかしとらんよ。


なんでも、現世にあれを落とすらしいぞ。怖い怖い。


次回、第106話「火の七日間」。


わしゃ巻き込まれんように、遠くから見とくけぇの。

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