早く離れろ!佐助がやってくる
伏雷との戦いから三日が過ぎ、倒れていた空海も自分の足で歩けるまでに回復していた。
「生命力はもう問題ありません。霊力もかなり戻っていますが、まだ絶界を使えるほどではありませんね」
ナリアの診察を受けた空海は身体を動かしながら、
「これだけ動ければ十分じゃ。ここに長居する方が危険じゃろう」
伏雷が倒れたとはいえ、ここはまだ根の国の真っただ中だった。しかも、この先には火雷がいる。
「だったら、隠してある荷物を取って来た方がいいね、俺が行ってくるよ」
「おいらも行くよ、二人ならすぐ運べるしさ。」
きゅうすけとしん吉は伏雷の領域へ入る前、かなり後方へ隠しておいた荷物を回収するため、その場を離れた。
しばらくして二人が戻ってくると、食料や薬、装備の入った荷物を奪った骨馬車へ次々と積み込んでいった。
「これで全部だよ」
「よし、早いとこ離れようぜ。伏雷を倒したことが火雷に伝わってねえとは思えねえ」
武蔵の言葉に、小次郎がこの先へ続く方角を確認しながら、
「ですが、このまま真っ直ぐ火雷の領域へ向かうのも危険ですね。こちらが伏雷を倒した直後だと分かっていれば、待ち構えている可能性もありますしね」
「少し大回りした方がよさそうですね。時間はかかりますが、正面から近づくよりは安全です」
晴明の提案で進路を変え、一行は火雷の領域へ直接向かう道から大きく外れた。
骨馬が荷物を満載した馬車を引き、黒く乾いた大地を進んでいった。
やがて平地を離れ、山側へ回り込むように高度を上げると、伏雷の領域は遠く後方へ離れていった。
しばらく進んだところで一行は骨馬車を止め、火雷の領域へ近づく前に休息を取るため、山の中腹にキャンプを張った。
「ここなら少し休めそうですね。火雷の領域へ入る前に、できるだけ霊力を戻す為にゆっくりして休みましょう」
ナリアが空海の状態を確認していると、遠くの荒野へ向けていた視線が止まった。
「あれ、なんだろ?……何かが動いていませんか?」
ワイチたちが同じ方角を見ると、遥か下方の黒い大地を何かが猛烈な勢いで駆け抜けていた。
「おい、あれ何だ?」
武蔵が目を凝らしたが、距離がありすぎて人なのか魔物なのかさえ判別できない。
その何かは地面を飛ぶように突き進み、見る間に遠くへ離れていった。
「おいおい、相当速えぞ。馬車なんか比べものにならねえじゃねえか」
「向かっているのは……私たちが来た方角ですね」
小次郎の言葉に、一行の視線がその先へ集まった。
猛烈な速度で走る何かは、ワイチたちが離れてきた伏雷の領域へ向かっていた。
「根の国には、あんな速さで走れる奴までいるのかよ」
武蔵が遠ざかっていく影を追っている間にも、その姿はみるみる小さくなり、やがて黒い大地の彼方へ消えて行った。
「もし敵だったら厄介ですね。あの速さでは、馬車で追われても逃げ切れませんよ」
晴明の言葉に、それまで休息を取っていた一行の空気が変わった。
「さて、これからどうする?」
武蔵が遥か遠くの荒野へ目を向けたまま、
「このまま火雷のところまで行くか?それとも、もう少しここで身体を休めるか」
「空海様の霊力も完全に戻ったわけではありませんので、この先で火雷と戦闘になれば、今まで以上に厳しくなると思います」
ナリアの言葉に、晴明が別の案を出した。
「先に誰かが偵察へ向かう方法もありますよ?ただ、先ほどの者が火雷側の者なら、少人数で動くのはかなり危険ですね」
「それなんだよ。あんな速さで追いかけられたら、逃げ切れねえからな、偵察に出た奴なんかひとたまりもねえぞ」
武蔵の言葉に、きゅうすけが先ほど何かが消えていった方角を見た。
「だったら、全員で動いた方がいいのかな?」
「ですが、全員で火雷の領域へ踏み込んで、そのまま火雷と戦闘になるのも危険ですよ。八雷に対峙するとどんどん強くなってる気がします」
ナリアの言葉に、ワイチは悩んでいた。
「ここでもう少し休むか、それとも全員で慎重に進むか……」
そのとき、しん吉が遠くの荒野を指した。
「あっ!さっきの奴が戻ってきた!」
全員が一斉にそちらを見ると、先ほど伏雷の領域へ向かっていった何かが、今度は反対方向へ凄まじい勢いで走っていた。
「おい!もう戻ってきたのかよ!」
「早すぎるだろ!俺たち、まだそんなに時間はたってないぞ!」
武蔵が目で追う間にも、その影は荒野を猛烈な勢いで横切り、伏雷の領域から火雷のいる方角へ向かっていった。
「あいつ……もしかして、水晶で話してた奴じゃねえか?」
武蔵の言葉に、小次郎が走り去る影を追った。
「佐助……でしたっけ?火雷と一緒にいて、調子良く話をしていた奴ですよね。」
「伏雷のところへ話をしに行くと水晶で言ってましたよね」
「なら、あの状態を見たら伏雷が倒されたのを報告する可能性は高いですね。」
「ますます真っ直ぐ行くわけにはいかねえな。」
遠くを走る影はさらに小さくなり、やがて火雷の領域へ続く荒野の彼方へ消えていった。
「あんな奴とも戦わなきゃならねえのかな」
武蔵の声が落ちた、その直後だった。
ドゴォォォォォォン
遥か彼方で、突然、明るくなった。それは、地面から巨大な炎が一気に湧き上がり、一瞬、根の国が見渡せたのだった。
「な、何だ!?」
炎はさらに膨れ上がり、黒い空を赤く染めながら巨大な火柱となって立ち昇った。
一瞬遅れて凄まじい轟音が山肌を震わせ、衝撃が空気を伝ってキャンプまで押し寄せた。
「何だ、あの大爆発は!?」
武蔵が火柱の上がった方角を見たまま声を上げた。
「場所から考えると、火雷の領域で何かが起きたのでしょうね」
晴明の言葉に、ナリアが、
「このまま近づくのはやっぱり危険ではありませんか?何が起きているのか分からないまま進むのは危険です」
「だったら、誰か見に行くか?」
武蔵の言葉に、小次郎が、
「先ほどの佐助がいるとすれば、少人数で近づく方が危険かもしれませんね。」
「かといって、このまま何も分からず火雷のところへ行くわけにもいかねえよな」
きゅうすけが遠くで燃え上がる炎を見ながら、
「みんなで近づいて、危なそうだったらすぐ離れるのは?」
「それがよさそうですね。もし火雷本人と遭遇しても、一人や二人で偵察している時よりは対応できます」
「では、全員でゆっくり近づきましょう。今は戦うことより、何が起きたのか確認することを優先した方がいいと思います」
ワイチたちはキャンプを片づけ、荷物を骨馬車へ積み直すと、火雷の領域へ向けて移動を始めた。
先ほどの爆発地点へ真っ直ぐ向かうことはせず、山側を回りながら少しずつ距離を縮めていった。
遠くに見えていた炎は進むにつれて山や岩陰に隠れ、骨馬の蹄と車輪の音だけが薄暗い山道に続いた。
「この辺りからは、いつ何が出てきてもおかしくねえぞ、みんな気をつけろよ」
武蔵たちが周囲を警戒しながら進んでいると、前方を見ていたしん吉が、
「あれ、何だろう?」
骨馬車の速度を落とし、一行がその先へ近づいていくと、道から少し外れた場所にいくつもの墓が並んでいた。
「墓……?」
ワイチたちは骨馬車を止めた。
「なんでこんなところに墓があるんだ?」
【次回予告】
ナリアです。
火雷の領域へ向かう途中、なぜかこんな場所でお墓を見つけたんですけど……いったい誰のお墓なのでしょうか?
それに、あの大爆発も気になります。これから先、何が待っているのか分かりません。
次回、第104話「九つの墓、その先に待つ者」。
このお墓、何かありそうですね。




