薬の代償!火雷からの連絡
伏雷との戦いを終えたワイチたちは、動けなくなった空海と晴明を連れ、伏雷の館へ向かった。
武蔵が空海を背負い、小次郎が晴明を背負ったまま館の中へ足を踏み入れると、ワイチたちは初めて入る室内を警戒しながら奥へ進んだ。
「ここなら大丈夫そうですね。二人を休ませましょう」
ナリアが安全を確かめると、武蔵が空海を下ろし、小次郎も晴明をその隣へ横たえた。
「悪い……俺もちょっと休ませてくれ。あの技を使うと疲労が半端ねえんだ」
村正宗も壁際へ腰を下ろし、身体を休ませた。
「しかし、酒ばっかりあるな。そして、なんでこんなに扇子を飾っているんだ?それも趣味悪いな」
「晴明さんなら、欲しがるかもですね」
伏雷との戦いで力を使い果たした晴明は眠ったまま動かず、空海は目を開けているものの、指一本動かすこともできず、声すら出せなかった。
「空海さん、聞こえますか?」
空海の目がわずかに動いた。
「意識はあります。でも、身体がまったく動かないようです」
ナリアが回復魔法をかけると淡い光が空海の身体を包んだが、光が消えても手足は動かなかった。
阿国がその様子を見ながら、いつもの笑みを消していた。
「これが……あの薬を使った副作用なの?♪」
「おそらくそうです。私たちの中で実際に使ったのは空海さんが初めてですから、ここまでの反動が出るとは思いませんでした」
「飲む前に危険だとは聞いていたけど……これじゃ、本当に何もできないじゃない♪」
ナリアがもう一度空海の状態を確かめた。
「回復魔法を使っても身体が動かないとなると、普通の疲労とは違います。しばらく休ませるしかありません」
館の隅で、カタカタと小さな音がした。
「ん?♪」
阿国が近づくと、物陰に骨だけの犬が身体を縮めていた。
「あら、こんなところに骨だけの犬がいるわ♪」
阿国が手を伸ばすと、骨の犬がカタカタと震えた。
「怖くない、怖くない♪」
ガブッ。
骨の犬が阿国の手に噛みついた。
「ほら、怖くない♪」
骨の犬が口を離すと、阿国はその頭を撫でた。
「怯えていただけなんだよね♪」
「ふふふふ♪ふふふふ♪ねえ、いいかしら?この子、もらっちゃって♪」
「誰に許可取ってんだよ」
「だって、もう飼い主いないじゃない♪」
「まあ……そうだけどよ」
その時、部屋の奥に置かれていた水晶が淡く光り始めた。
「何だ?」
武蔵が水晶へ近づくと、やがて女性の声が部屋へ響いた。
「伏雷、伏雷、いないのですか?」
ワイチたちは顔を見合わせたまま、誰も返事をしなかった。
骨の犬が尻尾を鳴らすカタカタという音だけが、静まり返った館に響いていた。
「伏、いないの?」
コン、コン。
水晶の向こうから乾いた音が二度響いた。
「なら佐助、私は花を摘んでまいりますの。出るまで話しかけていなさい」
少し間を置いて、今度は妙に甲高い男の声が響いた。
「伏さーん!伏おばさん、おらんのかー?姐さん今、便所じゃけぇ、わしが話しかけてまーす!」
「ぶっ!」
武蔵が堪えきれず吹き出した。
水晶の向こうで佐助の声が止まった。
「……才蔵、お前か?おるんなら返事くらいせぇよ……って言うても、わしとは話さんのよな、お前。いつもカンペで筆談じゃもんな」
武蔵が慌てて口を塞ぐと、佐助の甲高い声がさらに大きくなった。
「お前、わしの声でいちいち笑うんじゃねぇ!前から思うとったんじゃ、お前、わしが喋るたびに笑うとるじゃろ!」
小次郎も笑いを堪えながら、武蔵へ目を向けた。
「ったく……伏さんはおらんし、才蔵に話しかけても会話にならんしのぉ。これ、映像が出りゃ話せるんじゃけどなぁ」
佐助は武蔵がそこにいるとは知らないまま、そのまま喋り続けた。
「あのさー、そろそろ進撃の予定が決まりそうじゃけぇ、それ伝えるために通信しとるんよ。姐さん、待たされるの嫌いじゃろ?出んかったら姐さんに燃やされても知らんぞー。伏さーん、聞いとるー?」
返事はなく、しばらく沈黙が続いた。
「ほんまに留守っぽいのぉ。こっちも便所か?」
「戻りました。佐助、今、便所と言いませんでしたか?」
先ほどの女性の声が戻ってきた。
「いやー、花摘んどるんかな〜と言いました」
武蔵の肩が再び震え、今にも声を漏らしそうになった瞬間、小次郎が武蔵の尻をつねった。
「……っ!」
武蔵は声を飲み込み、尻を押さえながら小次郎を睨んだ。
「まだ、伏は出ないの?」
「ずーっと呼んどるんじゃけど、全然出んのよ」
「仕方ないわね。また連絡し直そうかしら」
コン、コン。
再び乾いた音が二度響くと、水晶から光が消え、館の中に静けさが戻った。
「進撃って言ってたよな。あいつら、どこかへ攻め込むつもりなのか?」
「伏雷があれだけ屍兵を作っていたのも、そのためかもしれませんね」
「だとしたら、工場を壊したことで屍兵の供給は止まってる。火雷が伏雷に連絡してきたのも、それが関係してるのかもしれない」
「でも、どこに進撃するつもりなんだろう?」
「また連絡するって言ってたから、ここにいれば何か分かるかもしれないよ」
「どちらにしても、今すぐここを離れるのは難しいです。空海さんはまだ身体をまったく動かせませんし、晴明さんも休息が必要です」
「空海さん、いつ頃動けるようになるのかしら♪」
「今のところ分かりません。回復魔法でもこの状態が変わらない以上、身体が戻るまで待つしかありません」
「だったら、しばらくここにいるしかねえな」
「その間に、また向こうから連絡が来る可能性もありますね」
「それに、あの佐助って奴なら、黙って聞いてるだけでも色々しゃべりそうだしな」
「次は絶対に笑わないでくださいね。今度こそ気づかれますよ」
「分かってる、ただよ、あの甲高い声は、笑わずにはいられないんだよな。頑張って次は絶対に笑わねえように我慢する」
それから二日が過ぎた。
空海はまだ身体を動かせず、晴明と村正宗も休息を続けていた。
阿国が館の中を移動するたび、骨の犬もその後ろをついて回り、阿国が止まれば足元へ座って骨の尻尾をカタカタと鳴らした。
「もう二日もずっとついてきてるじゃない♪」
阿国が頭蓋骨へ手を伸ばすと、骨の犬はその手へ頭を押しつけた。
「最初はあんなに怯えてたのにな」
「ふふふふ♪もうすっかり懐いちゃったわね♪」
きゅうすけが骨の犬へ手を伸ばそうとすると、骨の犬はすぐに阿国の後ろへ回り込んだ。
「やっぱり阿国がいいみたいだね」
「どうして私なのよ♪」
その時、部屋の奥に置かれていた水晶が再び淡く光り始めた。
やがて、聞き覚えのある甲高い声が館の中へ響いた。
「伏さーん!そろそろ連絡くれんと、こっちもまずいんじゃけどー!」
武蔵が吹き出しそうになった瞬間、小次郎が武蔵の尻をつねった。
「……っ!」
武蔵は声を押し殺した。
「もう何人か八つ当たりで燃やされとるんよ!姐さん、だいぶ機嫌悪うなっとるけぇ、このまま連絡つかんかったら、次は誰が燃やされるか分からんぞ!」
「才蔵、おるんじゃろ?忙しいんなら、わしがそっち行ってもええけぇ、用件だけでも伝えてくれん?」
「あのな、こっち屍薬師が足りんのよ。粉露煮作るんに、もうちょい送ってくれんと間に合わんのじゃって」
ワイチたちから笑いが消えた。
「それと進撃に使う屍兵も、もうちょい欲しいんよな。屍忍者も何体かこっちに回してくれん?何体送れるか分からんと、進撃の日ぃ決められんじゃろ?」
「粉露煮……?」
武蔵が小さく漏らした瞬間、小次郎が武蔵の尻をもう一度つねった。
「いって……!」
「ん?才蔵、おるんか?」
武蔵は慌てて口を塞いだ。
「おるんなら何とか返事せぇよ!ったく、伏さんは出んし、才蔵は喋らんし……こっちは屍薬師も足りん、屍兵も足りん、進撃の日も決められんで、姐さんの機嫌だけ悪うなっとるんじゃけぇ!」
「佐助、まだ伏は出ませんの?」
火雷の声が聞こえた。
「全然出んのよ。もう、わしが向こう行った方が早いんじゃない?」
コン、コン。
「もう一日だけ待ちますわ。それでも伏から連絡がなければ、あなたが直接行ってきなさい」
「じゃあ明日までじゃの。伏さーん!聞いとるー?屍薬師と屍兵、どんだけ送れるか教えてくれんと進撃の日ぃ決められんけぇのー!明日も出んかったら、わしがそっち行くぞー!」
「佐助、もう結構ですわ」
「じゃけぇ最初からわしが行った方が早いって言うとるのに」
コン、コン。
「分かった分かった。もう黙るけぇ、キセル叩かんでええって」
水晶の光が消えた。
「粉露煮って何だ?」
「屍薬師を使って何かを作っているようですね」
「それに進撃って言ってたよね。屍兵を集めて、どこかを攻めるつもりなのかな?」
「伏雷の工場から送る屍兵の数が分からねえから、日を決められねえってことだろ」
「でも、あの工場はもうありません。これ以上、伏雷から屍兵が送られることはないはずです」
「ってことは、火雷のところにはもう送られた屍兵がいるんだよね?」
「それだけじゃねえ。明日になっても返事しなかったら、あの佐助がここへ来るって言ってやがる」
「今来られるのはまずいですね。空海さんはまだ身体を動かせません」
「晴明さんも完全には回復してねえしな」
「なら、明日までにどうするか考えねえとな」
骨の犬が阿国の足へ頭蓋骨を押しつけ、尻尾をカタカタと鳴らした。
「あなたは呑気でいいわねぇ♪」
阿国がその頭を撫でると、骨の犬はさらに身体を寄せてきた。
「そういえば、この子の名前って何なのかしら♪」
「伏雷が名前らしきものを呼んでた気はするけど、この犬のことかは分からねえしな」
「名前が分からないと呼ぶ時に困るわねぇ♪」
骨の犬は阿国の足元をぐるりと回り、再びその隣へ座った。
【次回予告】
きゅうすけだよ!
やっと空海さんたちも動けるようになってきたけど、のんびりしてられないよ。明日になったら、あの甲高い声の佐助がここへ来るんだよね。
その前に館を離れて、置いてきた荷物も取りに行かなくちゃ。骨馬の馬車があるから、全部積んだらすぐに出発できるよ。
それに、火雷たちが言ってた進撃も粉露煮も気になる。このまま何も知らずに進むのは危ないよね。
次回、第103話「早く離れろ!佐助がやってくる」。
でも武蔵さん、佐助が来ても今度は絶対笑っちゃダメだからね!




