落雷注意報
伏雷と屍兵たちの猛攻に、ワイチたちは押し込まれていた。
屍盾武者が攻撃を防ぎ、その後ろでは屍薬師が傷ついた仲間を回復し、屍陰陽師の影縫が動きを封じてきた。
さらに屍歌舞伎者の演奏が響くたびに敵の力が増し、屍忍者は戦場を駆け回りながら手裏剣や吹き矢を飛ばし、伏雷のオレンジ色の雷が地面を弾けさせ、空海の絶界へ叩きつけられた。
「向こうの連携を崩すために、まず歌舞伎から止めてみる!あいつに強化され続けたら、雷攻撃でこっちが持たない!」
ワイチが霊杭を取り出して駆け出すと、武蔵と小次郎も同時に左右へ散った。
「バカざますか!行かせると思うざますか!」
伏雷の全身から無数の棘が飛び、武蔵が太刀と脇差で弾きながら前へ出た。
「ワンパターンだな、こんなもんで止まるかよ!」
小次郎は飛燕で棘の間を抜け、一気に伏雷との距離を詰めた。
「ざーんねん!キャッチざます!」
弾かれ、かわされた棘が地面へ突き刺さった瞬間、武蔵と小次郎の足元から光が走り、術的な足枷が両足へ絡みついた。
「ちっ、またこいつか!」
「接近を封じられましたか……!」
伏雷の意識が二人へ向いている間に、ワイチは屍兵たちの間を抜けて歌舞伎の背後へ回り込み、背中の流点へ霊杭を打ち込んだ。
歌舞伎が振り返るより早く、ワイチは位置をずらして別の流点へもう一本の霊杭を打ち込んだ。
歌舞伎はすぐに楽器を構え直したが、指に力が入らず、楽器を支えていた手がずるりと滑った。
「これなら演奏できないだろ!」
歌舞伎はもう一度楽器を握ろうとしたが、指が思うように動かず、先ほどまで戦場に響いていた演奏は途切れたままだった。
伏雷は足枷に捕らえた武蔵へ身体を向け、全身にオレンジ色の雷を走らせた。
「美莉尾莉蘇留挫魔蘇!」
伏雷から放たれたオレンジ色の雷が、武蔵へ一直線に走った。
「来やがったか!」
武蔵が二刀を構えた瞬間、雷の軌道が途中で大きく曲がり、その横を通り抜けた。
「何だ!?」
雷はそのまま歌舞伎へ向かい、背中に打ち込まれていた霊杭へ吸い寄せられた。
ドォォォン!!
激しい雷鳴とともに閃光が弾け、歌舞伎の全身をオレンジ色の雷が駆け巡った。
「何ざます!?」
伏雷自身も予想していなかった一撃に、歌舞伎の身体は黒く焼け焦げ、そのまま塵となって崩れ落ちた。
「薬師!何やってるざますか!早くリボーンさせるざます!」
屍薬師が歌舞伎のもとへ向かうと、武蔵が足枷を引きずりながら二刀を振り上げた。
「蘇生なんかさせるかよ!」
その前へ屍盾武者が割って入り、巨大な盾を構えた。
ガァン!!
武蔵の二刀が盾へ叩きつけられ、激しい金属音が響いたものの、屍盾武者はその場から退かず、薬師への道を塞いだ。
「ちっ!こいつが邪魔か!」
盾の後ろへ入った屍薬師は、歌舞伎の残した黒い塵へ両手をかざした。
「ヴェ……ヴェェ……ウゥ……エェェ……」
屍薬師の喉から意味を成さない濁った声が漏れ、途切れ途切れの詠唱が続くたび、足元から黒い光が広がっていった。
「詠唱を止めれば蘇生は止まる!でも、あの盾が……!」
ワイチが薬師へ向かおうとしたが、屍盾武者が巨大な盾を広げ、薬師を背後へ隠した。
「ヴェェ……ウゥゥ……エェェェ……!」
詠唱が続く中、黒い光が歌舞伎の塵を囲み、その中心から瘴気が噴き上がった。
散らばっていた黒い塵が宙へ浮かび、渦を巻きながら一か所へ集まって人の形を作り始め、やがて黒い靄が全身を覆った。
「ヴェェェェェ……!」
最後の濁った声が響いた瞬間、黒い靄が弾けるように消え、その中から歌舞伎が再び姿を現した。
「リボーンコンプリートざます!」
復活した歌舞伎が再び楽器を構える中、ワイチは先ほどの雷が曲がった場所を思い返した。
伏雷は間違いなく武蔵を狙っていた。それなのに雷は途中で向きを変え、歌舞伎の背中へ打ち込んでいた霊杭へ落ちた。
「もしかして……霊杭が雷を引き寄せたのか?」
一体ずつ倒しても、薬師が蘇生させ、その薬師を盾武者が守っていた。この連携を一つずつ崩している間にも、伏雷の雷は容赦なく飛んできた。
でも、その雷そのものを利用できれば、あの邪魔なお供をつぶせるのかも?!
「杭を打てば、伏雷の雷をまとめて引き寄せられるかもしれない!」
ワイチは戦場を駆け回る忍者を追ったが、分身を残しながら位置を変え続ける動きには狙いを定められなかった。
「忍者は速すぎる……でも、他の奴らなら杭を打てるな!」
ワイチは新たな霊杭を取り出し、次の屍兵へ向かって駆け出した。
ナリアは武蔵と小次郎の足元へ絡みついた光の足枷へ両手を向けた。
「ディスペル!」
淡い光が二人の足元を包み、術的な足枷がほどけるように消えていった。
武蔵は自由になった両足で地面を蹴り、薬師を守る屍盾武者へ一気に迫った。
「今度こそ、そこをどいてもらうぜ!」
太刀と脇差が左右から振り下ろされ、屍盾武者が巨大な盾で受け止めた。
ガァァン!!
激しい金属音が響き、盾武者の身体が後ろへ押されたものの、両足を踏ん張って薬師の前から退かなかった。
武蔵が二刀を押し込み、盾武者が巨大な盾で受け止めている間に、ワイチはその横を抜けて背後へ回り込んだ。
「そこだ!」
ワイチは屍盾武者の背中の流点へ霊杭を当て、その頭を掌で叩いた。
カンッ!
霊杭が背中へ打ち込まれた。
「一本!」
ワイチが離れた直後、伏雷が四本の脚で地面を蹴った。
「さっきから変な小僧が近くまで来てるざます!何をコソコソしてるざますか!」
伏雷の全身にオレンジ色の雷が走り、ワイチへ身体を向けたところへ武蔵が二刀を振り抜いた。
「こっちを忘れてんじゃねえぞ!」
伏雷が前脚を振り上げ、迫った二刀を弾き返した。
ガキィン!!
武蔵の足が地面を削りながら後ろへ滑り、伏雷がさらに追おうとしたところへ小次郎が踏み込んだ。
「瞬燕流――飛燕!」
小次郎が一気に加速し、伏雷の横を駆け抜けながら刀を振り抜いた。
伏雷が四本の脚で地面を蹴ってかわし、そのまま小次郎へ身体を向けた。
「次から次へと邪魔ざます!」
伏雷が武蔵と小次郎へ意識を向けている間に、ワイチは屍薬師へ向かった。
薬師が盾武者の後ろへ戻ろうとしたが、その横から屍陰陽師が印を結び、術式を展開した。
黒い塊がワイチへ撃ち出され、ワイチが横へ飛ぶと、直後に地面が爆ぜて土砂が舞い上がった。
屍陰陽師が二発目を放とうと再び印を結んだ。
「瞬燕流――飛燕!」
小次郎が伏雷から離れ、一気に屍陰陽師へ向かって駆け抜けた。
その進路へ手裏剣が次々と飛び込んだ。
キンッ!キキンッ!
小次郎が刀で手裏剣を弾くと、屍忍者が白い煙を噴き上げた。
煙の中から複数の忍者が飛び出し、小次郎が一体へ斬り込むと、その身体が白い煙となって消えた。
「分身ですか!」
別の忍者が背後から手裏剣を投げ、小次郎が振り返りざまに刀で弾いた。
忍者と小次郎が斬り結ぶ中、屍陰陽師も小次郎へ術の狙いを変えた。
その隙にワイチは屍薬師との距離を詰めた。
薬師が逃れようと身体を返したところへ背後から霊杭を流点へ当て、その頭を叩いた。
カンッ!
「二本!」
霊杭を打ち込まれた薬師が振り返ったときには、ワイチはすでに屍陰陽師へ向かっていた。
「また刺したざますね!あの小僧をストップするざます!」
伏雷がワイチへ向かおうとしたが、武蔵が正面から踏み込んだ。
「行かせるかよ!」
太刀と脇差が続けざまに振るわれ、伏雷は前脚で一撃を弾き、身体を沈めて二撃目をかわした。
「しつこいざます!」
伏雷の身体から無数の棘が飛び、武蔵が二刀を振るって次々と弾いた。
その間に屍陰陽師が小次郎から距離を取り、ワイチへ印を結んだ。
黒い術式から二発の塊が撃ち出された。
ワイチは一発目をかわしたが、二発目が足元へ着弾した。
ドンッ!
弾けた土砂に押され、ワイチの身体が横へ転がった。
屍陰陽師が三発目を撃とうと印を結んだところへ、小次郎が忍者の手裏剣を刀で弾き飛ばした。
「瞬燕流――飛燕!」
小次郎が一気に間合いを詰め、屍陰陽師へ斬り込んだ。
陰陽師は結んでいた印を変え、黒い塊を至近距離から小次郎へ撃ち出した。
小次郎が飛燕の勢いのまま横へ抜け、黒い塊が背後の地面へ叩きつけられた。
ドォン!!
屍陰陽師が小次郎を追って身体を向けた。
ワイチはその瞬間に起き上がり、背後へ駆け込んだ。
「もらった!」
流点へ霊杭を当て、掌を振り下ろした。
カンッ!
「三本!」
屍陰陽師が振り返ったときには、ワイチはその場から離れていた。
そのとき、阿国の尺八が戦場へ響いた。
伏雷の全身を走っていたオレンジ色の雷が弱まり、光が少しずつ薄れていった。
「その雷、少し大人しくしてもらうわよ♪」
復活した歌舞伎がすぐに楽器を構え、阿国へ対抗するように演奏を始めた。
歌舞伎の音色が重なるにつれ、弱まり始めていたオレンジ色の雷が再び強さを取り戻していった。
「せっかく下げてるのに、邪魔しないでほしいわね♪」
阿国が尺八を吹き続け、歌舞伎も演奏を止めずに対抗した。
二つの音色がぶつかる中、ワイチは歌舞伎の背後へ回り込んだ。
演奏に集中していた歌舞伎が気づいて身体を返そうとした瞬間、ワイチは背中の流点へ霊杭を当てた。
カンッ!
「四本!」
歌舞伎の指から力が抜け、奏でていた音が大きく乱れた。
ワイチは最後に屍忍者を追った。
忍者が白い煙を噴き上げ、四体の分身が一斉に別方向へ走り出した。
「どれだ……!」
一体へ向かおうとした瞬間、その姿が白い煙となって消え、横から手裏剣が飛んだ。
ワイチが身体を伏せると、手裏剣が頭上を掠めて飛び抜けた。
さらに別方向から二体の忍者が走り込み、ワイチが霊杭を構えた瞬間、二体とも白い煙となって消えた。
「さすがに、あいつは無理だな……!」
屍盾武者、屍薬師、屍陰陽師、歌舞伎。
忍者を除く四体には霊杭を打ち込めた。
伏雷は武蔵の二刀を弾きながら、屍兵たちの背中から突き出した霊杭へ目を向けた。
「さっきから何を刺してるざますか……?」
ワイチは答えず、伏雷の全身を走るオレンジ色の雷を見た。
あとは、もう一度雷を撃ってくるのを待つだけだった。
伏雷は武蔵の二刀を前脚で弾き返すと、四本の脚で地面を蹴って大きく距離を取った。
「いい加減にするざます!まとめてビリビリにしてやるざます!」
伏雷の全身をオレンジ色の雷が駆け巡り、身体の棘から火花が激しく弾けた。
ワイチは屍盾武者、屍薬師、屍陰陽師、歌舞伎の背中に打ち込んだ霊杭を見た。
「来る……!」
伏雷が身体を沈め、オレンジ色の雷を一気に放った。
その瞬間、四本の霊杭が同時に青白く光った。
ワイチたちへ向かって走っていた雷が途中で枝分かれし、四方向へ軌道を変えた。
「何ざます!?」
バァァァン!!
一本目の雷が屍盾武者の背中の霊杭へ落ち、巨大な盾ごと全身をオレンジ色の閃光で包み込んだ。
ドォォン!!
二本目が屍薬師へ落ち、薬師が雷に包まれた。
続けざまに三本目が屍陰陽師、四本目が歌舞伎の霊杭へ吸い寄せられ、激しい雷鳴が立て続けに戦場を揺らした。
「やっぱりだ!霊杭が雷を引き寄せてる!」
オレンジ色の閃光が四体を包み、屍盾武者の盾が地面へ落ちるより早く身体が黒い塵へ変わった。
屍薬師、屍陰陽師、歌舞伎も次々と崩れ、霊杭ごと黒い塵となって地面へ散った。
残った屍忍者が白い煙とともに後方へ飛び退いた。
「やった!まとめて倒せた!」
「ノォォォォォ!!何してくれてるざますか!」
伏雷が四本の脚で地面を踏み鳴らした。
「せっかく揃えたミーのエリートたちが、また全滅ざます!」
伏雷は黒い塵となった四体を見回すと、慌てて黒の雫を取り出した。
「こうなったら全員リボーンざます!」
四本の小瓶が地面へ叩きつけられた。
パリンッ!パリンッ!パリンッ!パリンッ!
黒い液体が地面へ飛び散った瞬間、地の底から無数の絶叫が噴き上がった。
「ギャァァァァァァッ!!」
「助けてくれぇぇぇ!!」
「早く成仏させてくれぇぇぇ!!」
黒い地面から半透明の亡霊たちが次々と這い上がり、天へ向かって必死に手を伸ばした。
「お願いだぁぁ!!もう離してくれぇぇぇ!!」
その足元から無数の黒い腕が噴き出し、亡霊たちの足首、腕、胴体へ次々と絡みついた。
「いやだぁぁぁ!!」
「助けてくれぇぇぇ!!」
亡霊たちが地面へ爪を立てても、黒い腕は容赦なくその身体を地の底へ引きずり込んだ。
最後に伸ばされた無数の手が地面へ沈むと、亡霊たちの身体が黒い靄へ変わり、四つに分かれて渦を巻いた。
黒い靄が膨れ上がり、その中から巨大な盾が現れた。
続いて屍盾武者の身体が立ち上がり、別の靄から屍薬師、屍陰陽師、歌舞伎が次々と姿を現した。
「リボーンコンプリートざます!」
復活した歌舞伎が楽器を構え、屍盾武者が再び薬師の前へ巨大な盾を構えた。屍陰陽師は印を結び、屍忍者もその横へ戻った。
ワイチが打ち込んだ霊杭は、四体のどこにも残っていなかった。
「くそっ……全部元通りか!」
伏雷は四体の屍兵が戻ったのを確認すると、扇子を広げた。
「これで最初からやり直しざます!今度は変な杭なんて打たせないざますよ!」
ワイチたちの前に、盾、薬師、陰陽師、歌舞伎、忍者、そして伏雷が再び並んだ。
崩したはずの陣形が、もう一度目の前に立ちはだかっていた。
【次回予告】
伏雷ざます
「ノォォォォォ!!せっかくミーのエリートたちをリボーンさせたのに、まだ向かってくるざますか!しつこいにもほどがあるざます!今度こそ全員まとめてビリビリにして、二度と立てなくしてやるざます!」
「次回、第101話『青筋立てて、やってやるぜ』」
「木の葉丸ちゃん、ママはもうすぐ帰るから、いい子で待ってるざますよ〜!」




