第25話 怪物の母の切り札
"怪物の母"━━エキドナが、吹き荒れる暴風すら消し飛ばすほどの【咆哮】を上げた。
大気が軋みを上げるほど激しく振動し、その衝撃が俺と毒災百足達を正面から襲う。
耳を劈くその【咆哮】は、精神値に大きな差がある相手であれば最悪行動不能に陥らせる効果を持つ。
しかし俺と毒災百足達には、問題なかった。
次に襲来したのは、エキドナの【咆哮】に呼応するように噴火した火山だった。
轟音とともに無数の燃え盛る岩石が打ち上がり、エキドナを越えて俺達の頭上へと降り注ぐ。
直撃コースの火岩に向けて〈蝿王の魂装短剣〉を振り抜き、真っ二つに両断する。
毒災百足は尾で粉砕し、不死導師は魔法で、死黒騎士は大盾で防ぎ、各々が難なく切り抜けていた。
もっとも、たとえ迎撃しなかったとしても、この攻撃はエキドナの筋力値や知力値に依存しない。
【物理攻撃無効】を所持する俺はもちろん、毒災百足達も直撃を受けたところで大した問題はなかっただろう。
俺達が無傷で状況を打破したことに、エキドナが眉間へ深く皺を刻む。
直後、頭上に強烈な魔力の動きを感知した。
見上げると、上空を覆い尽くすほどの巨大な魔法陣から、無数の稲光が牙を剥いていた。
一目見て看破する。【雷魔法】━━"雷雨"。しかも【黒雷化】で強化している。
瞬時に【空間魔法】━━"転送"を発動し、頭上へ降り注ぐ黒雷の雨を、すべてエキドナの頭上へと転送した。
直後、自ら放った黒雷の雨がエキドナの頑丈な身体を貫く。しかしエキドナは知力値よりも精神値が高いため、瀕死の重傷を負うには至らなかった。
エキドナの瞳から、桃色の波動が放たれる。
これは、ロシアのSランク上位のダンジョンボス━━〈血鬼女王〉カーミラも所持していた【魔眼:魅了】だ。
だが、この状態異常攻撃は無意味に終わる。
俺はエキドナと同様【状態異常無効】を所持しているし、毒災百足達は〈反逆抑止の鎖〉を身に纏っているため、アイテムやスキルによる精神干渉は無効化される。
「次はこっちの番だ!」
(……爆撃)
「【同時行使】━━」
(……転送)
【爆発魔法】と【空間魔法】を同時に行使し、指で弾いた透明な魔力球を、エキドナのすぐ側へ転送する。
次の瞬間、エキドナが連鎖爆発に呑み込まれた。
濛々と立ち昇る爆煙が晴れると、出血こそしていないが、全身をボロボロにした満身創痍のエキドナが、力なく佇んでいた。
【爆発魔法】と【空間魔法】は、どちらもユニークスキル。格の劣る【魔法攻撃無効】では、無力化は不可能だ。
それにしても、流石はSSランクの魔物。
4,000を超える知力値から放たれた魔法の直撃を受けながら、血の一滴すら流さないとは。
出血さえあれば【血液支配】で形勢を有利に運べたのだが……。
満身創痍のエキドナが、これまで以上に濃い殺意を込めて俺を睨みつける。
すると、エキドナの周囲に無数の黒い円が出現した。
黒い円から這い出てきたのは、多種多様な魔物達だ。
その中には、俺がこれまで討伐した魔物━━エンペラー・センチピードやアモルタス・マギア、スリーピー・ホロウ、カーミラなど、従魔の元となった魔物の姿もある。
すぐに【看破】を発動し、魔物のステータスを確認する。
「……これは驚いた」
最低ランクのゴブリンでさえ、レベルも能力値もエキドナと同等だった。つまり、SSランクの魔物が無数に存在しているということだ。
ただ一つ、気になる点があった。
所持スキルがエキドナと完全に一致しているのだ。
本来、最低ランクのゴブリンは【棍棒術】しか所持していないし、〈血鬼女王〉カーミラに至っては【眷属化】や【血液支配】など、主要スキルを所持しているはずだ。
「……これはどういうことだ?」
疑問が湧き上がるが、今は戦闘中だ。考えるのは後でいい。
「こんなに上質な経験値を用意してくれるとは……最高だぜ!」
気分が高揚し、強く地面を蹴り上げ、勢いよく駆け出す。SSランクに強化された魔物達も、それに呼応するように一斉に動き出した。
直後━━
たった一人の〈狩猟王〉と、SSランクの軍勢が激突した。
目標2,000PTを目指しています!
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