第26話 死の世界に咲く純真
エキドナによって創造されたSSランクの軍勢。
奇怪な叫び声と低く腹に響く雄叫びが四方へ轟き、無数の異形が大地を踏み鳴らす地鳴りが、足元から突き上げてくる。
その軍勢へ向かって——〈蝿王の魂装短剣〉を逆手に握り、純真無垢な笑みを浮かべたまま——俺は単騎で駆け出した。
【武芸百般】の内包スキル、【万夫不当】を発動。
効果により、一体討ち取るごとに対象のレベル分、すなわち140ずつ能力値が積み上がっていく。
再使用時間は丸一日を要するが、この手の大軍勢を相手にするなら、これ以上に適したスキルはないだろう。
短剣を握り直し、【斬撃術】を発動。
ユニークスキル【無心斬術《斬れぬものなし》】の効果が上乗せされた斬撃が、軍勢の先頭へ鮮やかな風穴を穿つ。
斬撃の余波が敵陣を縦断し、地上を疾駆していた魔物たちを、まるで紙を裂くように両断した。
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『Lv.152にUPしました』
『魔力が1UPしました』
『筋力が5UPしました』
『頑丈が5UPしました』
『敏捷が1UPしました』
『知力が1UPしました』
『精神が5UPしました』
『器用が1UPしました』
『幸運が5UPしました』
『【風読】Lv.10にUPしました』
今の一閃で、およそ20体が絶命した。
能力値上昇の通知は微々たるものだが、レベルは一気に五も跳ね上がり、【万夫不当】によって全ての能力値が一時的に2,800も底上げされている。
つまり先ほどより、身体強度も移動速度も、確かに一段階引き上げられたということだ。
さらに、【血液支配】——〝血製兵士創造〟を発動。
斃れた魔物から溢れ出す血へ【血液支配】で干渉し、20体の血製兵士を形成する。
しかも一体一体の個体戦力は、SSランク相当。
「……敵を殲滅しろ」
短い命令を受けた血製兵士たちが、周囲の魔物へ一斉に襲いかかった。
「さて、有り余った魔力を消費して、死の世界でも構築するか」
【冥界顕現】発動。
ゴツゴツとした岩肌の大地を這うように、真紅の波動が奔る。波動が通過した場所から順に、フィールドが塗り替えられていく。
地面は冷たく硬質な死土へと変質し、血管を思わせる真紅の亀裂が無数に枝分かれして刻まれ——そして上空には、深紅に燃える月が浮かんだ。
苦痛に歪んだ人面を持つ青白い魂が虚空を漂い、低く耳障りな唸り声が空間全体に満ちていく。
この効果により、不死導師と死黒騎士は不死の存在へと転じた。
毒災百足だけはアンデッドではないため効果対象外だ。
あちらだけ気にかけておけば問題はないだろう。
(……爆撃)
「━━【同時行使】」
指を弾く。
透明な魔力球が魔物たちへ向かって殺到した直後、強烈な爆発光と黒煙が空へ立ち昇った。
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『Lv.160にUPしました』
『魔力が1UPしました』
『筋力が5UPしました』
『頑丈が5UPしました』
『敏捷が1UPしました』
『知力が1UPしました』
『精神が5UPしました』
『器用が1UPしました』
『幸運が5UPしました』
今の【爆発魔法】でレベルが8も上昇し、能力値がさらに5,600積み重なった。
魔物の軍勢は全員【魔法攻撃無効】を所持している。そのため【支配魔法】は通らない。
直接攻撃が可能な魔法は、俺のユニークスキルの中では【爆発魔法】のみ。
攻撃手段は一択に絞られるが、それで十分だ。レベルと能力値が際限なく積み上がる以上、魔法の規模も自然と拡大し続ける。
ここへ来る前の俺の能力値は平均4,300。
【万夫不当】で強化された現在は12,700——約三倍にまで膨れ上がっている。
エキドナとの差は、依然として約十倍。
俺自身の火力に加え、【血液支配】によって血製兵士も増え続けている。
既に形勢は、こちらに傾いていた。
決着は間近——しかし、エキドナが生み出す魔物の軍勢は尽きる気配がない。
倒しても倒しても、黒い円が大地に浮かび上がり、その奥から魔物が這い出てくる。魔力消費を必要としないスキルのようだ。
これもまた、【血液支配】と同様に通常スキルの枠組みを逸脱した、ユニークスキル級の能力だろう。
「……そろそろ決着をつけるか」
永遠にレベルを上げていたい気持ちはあるが、先にはダンジョンボスが控えているし、攻略報酬も気になる。
おまけに、アメリカのSSランクダンジョンにも足を運んでみたい。
今回はここまでにしておこう。
(……爆裂四散)
大きく跳躍し、巨大な魔力球を眼下の軍勢へ向けて【投擲】する。次の瞬間、凄まじい爆発光が軍勢ごと大地を呑み込んだ。
そして——
(……空間転移)
【空間魔法】でエキドナの元へ跳躍し、【斬撃術】で短剣を一閃。
ユニークスキル【無心斬術《斬れぬものなし》】の効果と、強化された筋力値から解き放たれた斬撃が、エキドナへと迫る。
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『Lv.168にUPしました』
『魔力が1UPしました』
『筋力が5UPしました』
『頑丈が5UPしました』
『敏捷が1UPしました』
『知力が1UPしました』
『精神が5UPしました』
『器用が1UPしました』
『幸運が5UPしました』
『【魔物創造】Lv.10を獲得しました』
エキドナの巨躯が真っ二つに両断され、重い地響きを伴いながら、その巨体が大地へ沈んだ。
「いや〜、中々楽しめたな。レベルも結構上がったし、俺にとっては最高のダンジョンだ」
ここへは定期的に訪れなければ。
スタンピード抑止という大義名分もあるが、何より、これほどレベル上げが捗る場所は他にない。
【血液支配】で周囲へ飛び散る血に干渉し、さらに血製兵士を形成する。
両断されたエキドナの死体を〈マジック・ポーチ〉へ収納し、一度、毒災百足たちと合流した。




