第2話 握手と思惑
中国へ行く準備を整えて待っていると、ギルド長から電話がかかってきた。
「向こうのハンターギルドから許可が下りた。十分気をつけてくれ」という短い言葉に、緊張感が滲んでいた。
「分かりました」と電話を切り、最後に忘れ物がないかチェックする。
ギルド長の忠告を胸に刻み、気を引き締めた俺は家を出て、羽田空港へ向かった。
約四時間のフライトを経て上海空港に降り立ち、入国手続きを終えた俺を出迎えたのは、左右に整列し大型カメラのフラッシュを焚きまくる記者集団と、A〜Sランク相当の護衛に固められた、眼光の鋭い男だった。
何故こんな大仰な歓迎を受けているのか訝しんでいると、男の傍らに控えていた秘書とおぼしき男性が小走りで近づき、流暢な日本語で話しかけてきた。
「我が国へようこそ、松原ハンター」
「あ、はい」
まだ困惑の最中だったため素っ気ない返事になってしまったが、秘書の男性は愛想笑いで受け流し、こちらへ歩み寄ってきた眼光の鋭い男へ手を向けた。
「こちらはハンターギルドの会長━━リー・ウェイです。会長は松原ハンターの来訪を、大変楽しみにしておりました」
「あ、ありがとうございます」
俺の返事を聞いた秘書の男性は、会長の耳元へ顔を寄せる。
中国語で耳打ちされた会長は、穏やかな笑みを浮かべながら手を差し出した。
俺も手を差し出して固く握手を交わした瞬間、一斉にフラッシュが焚かれる。
フラッシュが落ち着いたタイミングで、秘書の男性が口を開いた。
「松原ハンターのご滞在にあたり、こちらでホテルと車をご用意しております。それと、こちらの者をサポートスタッフとしてお側に同行させます。日本語が話せますので、何なりとお申し付けください」
ホテルや車を用意してもらえるのは素直に有難い。だが、ギルド長の忠告もある。常に警戒を怠るな。
それに、親切心でサポートスタッフを同行させるにしても、Sランク相当はやり過ぎだ。
表向きはサポートスタッフとして行動を共にしながら、本当の狙い━━俺の動向監視と戦力分析のために、側に置いておこうという腹積もりじゃないのか。
「お心遣いありがとうございます」
どんな思惑が潜んでいるか分からないが、一応感謝を伝えておく。
「それでは、私どもはこれで失礼いたします。我が国を存分にお楽しみください。後のことは頼みましたよ、ジン」
「承知いたしました」
会長と秘書の男性が護衛を連れて去っていくと、ジンと呼ばれたサポートスタッフが静かに口を開いた。
「まず、自己紹介させていただきます。私の名前はジン。普段は会長の護衛を務めております。どうぞよろしくお願いいたします」
「俺は松原唯人です。よろしくお願いします」
「では、ご滞在のホテルへご案内いたします」
「お願いします」
その後、空港の外に停車していた車に乗り込み、ジンの運転でホテルへと向かった。




