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水晶の勇気(仮)  作者: ゆずさくら


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平和な日々とカフェ

 俺は女王から『アオイを守れ』と命ぜられたらしい。

 女王から直接聞いたのではなく、アオイからそう聞いた。アオイは別に守ってくれなくてもいいんだからね、と付け加えた。

 ツンデレか、と思ったが、そんな感じのキャラじゃないことは知っていた。

「アラタ、カフェに行くから付き合って」

 彼女は元の世界からもってきた悪役令嬢モノの小説を翻訳して売っている。

 完全にオリジナルのものではないのだが、文化の違いで理解できない部分は大幅に考え直す必要があるらしく、時に執筆に行き詰まる。

 そう言った時はカフェに行くのだ。

 資料をたくさん持って行く方が、何か思いついた時に便利なので、俺は彼女の資料持ちをするのだ。

「あなたも何か仕事しなさいよ」

「君を守りながら? 君を守るのが仕事なのかな、とぼんやり考えてた」

「仕事していても私を守ること出来なくはないでしょ? 例えばカフェの仕事に戻るとか」

 いや、カフェをクビにされたのはアオイが店長に言いつけたからなのに……

「ああ。カフェは私のクレームでクビになったんだっけ?」

「今度、城に行って女王からお金もらうよ。命じられた責務を全うしているんだから」

「城に行くのは嫌。ちゃんと仕事してよ。そうだ。私からもう一度店長に掛け合ったらいいんじゃない? 私のクレームでクビにしたんだから、逆もしてくれるでしょ?」

 店長は一癖も二癖もある人物だからなぁ、と俺は思った。

 クビにする方向は簡単に動くが、再び同じ人間を採用するとなるとまた面倒なことになるんじゃないだろうか。

 俺たちはそんなことを話しながら、カフェに着いた。

 正面に座られると仕事ができないとアオイが言うので、俺は横に座る。

 何度も元の世界からもってきた小説を読み返しながら、考えている。

 俺はお茶を一口飲んでから、気になっていたことを口にした。

「ソウタって、部屋にいるんだよね」

「ちょっと、考えてるんだから話しかけないでよ」

「ごめん」

 思い返すと、途中まで着いてきていたような気もする。

 極度の方向オンチのソウタは、俺かアオイのどちらかが、必ず手を繋いでいる必要があった。

 部屋にいるなら問題はないのだが、もし一緒に部屋を出て、今、ここにいないと言うことはどこかを彷徨っていることになる。

「……」

 アオイを残してソウタを探しに行くわけにもいかない。

 まずはアオイの仕事が一段落することが先だ。

 そんなことを考えながら、カフェで過ごしていると、奥から店長が近づいてきた。

 店長のリリーは美女だが、少々性格に難があった。

 リリーは俺たちのテーブルの前にくると、立ち止まった。

「お客様。執筆するのは構わないのですが、混んできたら席を譲ってほしいのです」

 アオイはリリーの言葉を無視した。

 俺は周りの様子を見て言った。

「まだ混んでいると言う感じではなさそうですけど」

 知らない仲でもないのに、彼女は今まさに俺がいることに気づいたようだった。

 そしてリリーは舌打ちした。

 表情を作り直すと、言った。

「こちら、お連れの方ですか? ええ、その時はお声掛けさせて頂きますわ」

 そしてリリーは店の奥へ戻っていく。

 なんだろう。と思いながらも、俺は再びソウタのことを考え始めていた。


 ソウタはうっかりアオイの手を離してしまった。

 アオイも何か考えごとをしていたようで、そのことに気づかなかったようだ。

 するとあっという間にどこを歩いているのか、分からなくなっていた。

 ソウタが思い出す道の通り歩いていると、どんどん暗くて狭い道へ進んでいた。

 昼前だと言うのに、薄暗い通りで、ソウタは立ち止まった。

 正面に、建物の下、トンネルになった道から一人の男が出てくる。

「……」

 その姿を見てソウタは身構える。

「ハルバルド!」

 ハルバルドは、右目にかかる眼帯をしていた。

「残念だがここでやり合うつもりはないよ。リムの街では、俺の立場は警官だ。わかるな」

 ソウタを捕まえるつもりはなさそうだったが、何をしていたのか気にはなる。

「そこを通してくれるかな」

 ハルバルドが横を通過していく。

 女王も、決定的な証拠がなく、ハルバルドを拘束することができないようだった。

 ソウタは、方向オンチながら、ハルバルドが潜んでいた場所を探り始めた。


 カフェで過ごすうちアオイの執筆が順調に進みだし、彼女の表情も明るくなってきた。

 アオイの感じから、話しかけても大丈夫だと思い、俺は話しかけた。

「ソウタはどうしたんだっけ?」

「……あっ」

 アオイは急に口を手で塞いだ。

「途中で手を離しちゃったんだ!」

「まずいな。悪いけど、切りのいいところでソウタを探しにいかないか?」

「あら、大丈夫よ。四六時中一緒にいなくても、最近襲われたことはないじゃない」

 アオイの言うことも嘘ではない。

 住んでいる部屋はバレているはずだが、あの三人やハルバルドが襲ってきたことはない。

 どうやら、公安の三人には、女王からの勅命で圧力がかかったらしい。

 城前の広場からもいなくなった。

 問題なのはハルバルドだ。

 公安の三人の剣があるから、表向き大人しくしているだけかもしれない。

 やる気になれば、警察権力を利用して、手を回してくることはありそうだった。

「けど……」

 俺の仕事はアオイを守ることなのだとしたら、一瞬でも気を許していはいけない。

「今調子がいいからもっと進めておきたいし」

「待つよ」

「あの方向オンチの酷さは、どっか違う街に出ても気づかないんじゃない? 追いかけるなら早い方がいいでしょ?」

 アオイは俺だけで探して来いと言いたげだ。

 俺は悩んだ。

『大丈夫だ。俺もいる』

 俺はアオイのペンダントに言われ、決意した。

「わかった。見つかっても、見つからなくても、すぐ戻ってくるから」

 俺は立ち上がると、カフェを離れた。




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