山奥の城
陽がのぼると同時に、俺たちは出発の準備をした。
公安がここに来ていると言うことは、俺たちがこれから山奥の城に行く事が筒抜けになっていると言うことだ。
ソウタの知り合いがバラしたのか、それともべオーミングが公安と通じているのか。
だが、べオーミングが公安と通じているなら、一緒に襲ってきてもいいはずだ。
ソウタの知り合いが俺たちのことを金で売ったとは考えがたいから、公安が脅しを掛けたのだろう。
つまり、城に着くまでの間にも、何かあるかもしれない、ということだ。
「気を引き締めていこう」
アオイは黙って頷いた。
城の近くは山道になる。
餌がある場所で、早めに多足虫に食事を取らせた。
いよいよ山道へと入る。
多足虫のスピードを上げず、慎重にコントロールする。
カーブの多い山道を進むと、城が見えてきた。
俺は多足虫を一旦止め、二人で城を見上げた。
抜けるような青い空。
そこに古ぼけた城がある。
集まった権力を象徴するかのように大きく、複雑に作られた建物。
「素敵なお城ね」
アオイはそう言った。
俺は軽く頷いたが、城から受ける印象は全く違っていた。
城からは、強く、重く、そして暗い圧力を感じていた。
Code探査を仕掛けたわけではない。
この感じだと、アット・べオーミング以外にも、誰かいるのではないか。俺は勝手にそう考えた。
徐に多足虫に『進め』の指示を出した。
しばらく山道を登ると城の入り口についた。
おそらく木製の門扉がついていたのだろうが、朽ちて何もなかった。
多足虫を止め、繋ぐところを探した。
「ここからは歩くぞ」
アオイは頷いた。
どこで待ち伏せされているかわからない。
単純に人質交換をするとは思えないからだ。
べオーミング側からすれば、アオイさえ手に入れば目的は果たせる。こちらはアオイを奪われないようにし、かつ、ソウタを取り返さねければならない。
だが俺は一つの望みを持っていた。
べオーミングは剣の使い手で、しかもエルフだ。
こちらの世界に馴染むためにエルフ特有の耳を切ったが、それでもプライドは高いと思われる。
だから、まともに人質交換してくるのではないか、と考えた。
人質交換さえすれば、自由になったソウタと俺のCode改変能力でアオイを取り返すことも可能だ。加えて、アオイには『ペンダント』の力がある。昨晩の謎の炎の壁があったように、そう簡単に連れ去られない、はずだ。
俺たちは、城の庭を抜けて窓から建物に入った。
陽が高く、城の中には灯がない。
外から入ってきた俺たちは、目を慣らすためにしばらくその部屋にどどまった。
目が慣れてくると、中へと進んでいく。
窓の外から聞こえてくる鳥の鳴き声以外は、何も聞こえない。
一階を見回り何もないことを確認すると、俺たちは階段を上がった。
警戒しながら階段を進んでいるとアオイに裾を引かれ、立ち止まる。
「ねぇ、Code探査してる?」
「いや、していない」
「まずそこからでしょ?」
俺は城の壁に手を当てて、Code探査を始める。
あまり遠くまでの探査はしない。べオーミングと戦う為の力が必要だからだ。
「特に何もないな」
「……」
そこで俺は気づいた。アオイも同時に気がついたようだった。
互いに顔を見合わせると、言った。
『べオーミングはCode探査出来ない』
いや、だからと言ってCode探査しないでいいのか?
少なくともソウタの存在に関してはCode探査でわかる筈だ。
俺たちは一階と同様に見て回ることにした。
二階の全ての部屋を覗くが、何も変わったことはない。
本当に何も残されていない。盗賊すら入らないと言うのは本当のようだ。
再び階段を上がり、途中で三階を探査する。
「一部屋だけ、全く見えない場所がある」
「そこにべオーミングがいるんだわ」
「……」
いや、部屋の中全てが見えないのだ。部屋にいる存在が見えないのではない。そう伝えたかった。だが、その部屋が怪しいのは間違っていない。
俺たちは三階にあがると、問題の部屋に向かった。
この部屋だ、と俺は指で合図する。
アオイが頷いた。
朽ちた木製の扉。
あちこちが脆く落ちていて、穴が開いている。
俺は扉から離れて立つと、隙間から中を覗いた。
隙間から覗いた様子では、中には誰も見えない。
だが、その壁の横に隠れているかもしれない。
「……」
俺は持ってきた鉄の棒を握った。
そして、Code変更をかけて剣に仕立てた。
諸刃で軽く、扱い易い剣。
剣があっても俺に剣術の心得はない。
戦ったら勝てる見込みはない。ただ、丸腰では話にならないから握っているに過ぎない。
「!」
ドン、と大きな音がすると、朽ちた扉が俺たちの方へ倒れてきた。
扉の枠に入りきらないアット・べオーミンングが、そこに立っていた。
「入ってこい。入ってきたら取引を始める」
この部屋の中がなぜ探査できないのか。
俺たちが入って何も起こらないのだろうか。
俺は警戒した。
べオーミングは、こちらを見ながら後ろに下がっていく。
「……お前とは一度、まともに話がしたいと思っていた」
「なぜ?」
そう言うと俺は部屋に向かって一歩進んだ。
「転生者は、俺を殺す気で抵抗してくる。だが、お前には殺意がなかった」
殺意がなかったかと言われると疑問だ。
だが、死んだ俺を生き返らせてもらった身で、他者の命を簡単に奪おうと言うのはあまりに自己中心的だと思っていた。
「俺自身にCode変更が聞かないとわかると、持っているフォークを巨大化させて突いてきたり、土を海に変えて溺れさせようとした」
言いながら、さらに部屋の奥へと下がっていく。
俺は言葉の意味を考える。
まさか、このべオーミングは、他の転生者を手にかけてきたのか?
自然と怒りが湧いてきた。
俺の表情を見て、
「やる気になったか?」
と言うと、べオーミングは徐に剣を抜いた。




