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水晶の勇気(仮)  作者: ゆずさくら


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夜襲

 アラタは女王の紹介で借りた部屋にいた。

「とにかく無事で良かった」

「途中で寝ちゃって、記憶ないのよね」

「それは俺も同じだよ。あの大男に追われた時に寝てしまったから、死んだと思った」

 アラタは路地を曲がった瞬間に琴切れたように寝てしまったことを思い出した。

「城に行こうとするところで待ち伏せされると厳しいな」

「どのみち誰かに捕まるなら、ずっと逃げ続けるしかないかも」

「捕まる誰かによっちゃ、酷い目に遭うかもしれないじゃないか」

「女王が優しくしてくれる保証はないでしょ」

 アラタは腕を組んで首を傾げた。

 悪意があるようには思えなかったが、本人が行きたくないのに連れていくのはどうなのだろう。

 俺一人で城に行って女王にアオイを連れてくる理由を確かめた方がいいのだろうか。

「俺が女王のところに行ってどうして探しているの聞いてくる」

「電話でもあればいいのにね」

「そうだな」

 アオイは淹れたお茶を、俺のところに持ってきてくれた。

「けど、待ち伏せしている連中の前をどうやって通過(パス)するの?」

「それなら、Code書き換えて、顔を変えてしまう」

「また、今日みたいに寝てしまうんじゃない?」

 それには答えず、俺はもらったお茶を口に含んだ。

「今日、本当なら城に行くところだったんだから、明日も一緒に変装して城に入った方がいいんじゃないかと思うんだが」

「イヤ」

 アオイはテーブルに向かって翻訳作業をしながら、そう言った。

 元の世界から持ってきた『悪役令嬢もの』の小説をこの世界に向けて書き直しているのだ。

 翻訳した本が、どれくらい売れているのかはわからない。

「わかったよ」

 俺はお茶を飲み終わると、食器を洗った。

「俺はもう寝るよ。あんまり根をつめると体を壊すぞ。日中、Code変更してかなり体を酷使してるからな」

「ありがとう」

 俺は少しソファーを動かして、食堂の明かり当たらないようにして、横になった。

 彼女も寝たくなったら、俺の部屋で寝るだろう。

 今日、城の前にいた公安と、背の高い男は何か関係しているのだろうか。

 いや、関係しているなら、もっと連携していたかもしれない。

 俺に頼んだ女王も含め三者がそれぞれ彼女(アオイ)を探して回っている。

 彼女に対しての目的は同じなのだろうか。

 明日、女王にあったらそこをきこう。目的がわかれば説得もしやすいだろうし、奴らの狙いが分かれば彼女を守る上でも有効に作用するはずだ。

 俺はそんなことを考えながら、寝てしまった。


 夜半を過ぎていた。

 テーブルに置いた紙に、ペンで文字を走らせる。

 時折、傍に置いた小さな異世界の本を開いて、確認する。

 そうかと思うと、大きな辞書を開いて適切な表現を探していた。

 辞書以外にも、最近出版されたと思われる新しい本も開く。

 この世界、この時代に合わせて翻訳しているということだ。

 彼女はいつしか、疲れたようにテーブルにうつ伏せになっていた。

「……」

 住人ではない誰かが、アラタたちがいる部屋の扉を開けた。

 岩のような体格の男が、その扉から中に入ってきた。

 太っている男は、部屋の外で待っている。

 さらに建物の入り口周辺にも一人、逃げられた場合を想定して立っていた。

 中に入った岩のような男が、明かりがついている食堂を覗き込むと、テーブルに突っ伏している女を見つけた。

 男はその女が目的の人物であることを確信すると、口に布を噛ませた。

 そのまま軽々と女性を持ち上げた。

 気づいた女性が、声を上げようとするが、布がかまされていて声にならない。

 女性がどれだけ暴れても、岩のような男はバランスを崩す様子すらなかった。

 素早く扉の外に出ると、太った男と顔を見合わせ、頷いた。

 太った男が扉を閉め、女性の足を縛る。

「よしうまくいった」

 二人は素早く階下におり、外で待っていた男に女の顔を見せる。

「上出来だ。行くぞ」

 近くに隠していた二輪の荷車を引っ張り出すと、女性と建物の外で待っていた男を荷台にのせ、岩のような男が引っ張り、太った男が後ろから押す形で走り出した。

 彼らは荷台に乗せた女性を、一体どこへ連れていくのだろう。


 俺は食堂の明かりが消えていないことに気づき、目が覚めてしまった。

 ソファーからゆっくり起き上がると、食堂を覗き込む。

「!」

 書きかけの原稿。

 開いたままの、大きな辞書。

 机に放り出した何度も読み返してページが膨れた文庫本。

「アオイ!」

 俺は背後に気配を感じた。

「何よ。うるさいわね」

「えっ?」

「さらわれたか、と思った?」

 俺は頷いた。

 おそらく俺の顔が驚いている事を見て、アオイは笑った。

「無能なあなたと違って、ソウタが私をしっかり守ってくれたわ」

「ソウタだって? どういうこと?」

 俺は明かりを持って、ソウタの部屋に入った。

 ベッドに寝ている姿を明かりで照らす。

 毛布がめくれて足が出て、胸元も開いている。

 だが、それらはいつも見ている『ツインテールの美少女』のソウタではない。

 毛むくじゃらの中年のおじさんだった。

「げっ」

 俺が声を上げると、ソウタが反応した。

「いやっ!」

 いつものダミ声が、今は妙にしっくりくる。

 ソウタは毛布を慌てて引き寄せ、体を隠す。

 かえって、そんな可愛い仕草の方が似合わない。

「ノックぐらいしてよ!」

「アオイを救ったって、何をしたんだ!?」

 アオイが俺の腕を取って、引っ張ってきた。

「乙女の部屋にノックなしで入るのはルール違反よ」

 俺はソウタの部屋を引き摺り出された。

「説明してくれ」

「あのね……」

 アオイはソウタが公安が襲ってくることを察知して、Code変更で見かけ上は『アオイ』に見える身代わり人形を作ったと説明した。

「ただ、Code変更で重量をかさ増しするのは難しいらしく、私の体重に相当するものをてきとうに袋に詰めたの」

「そんな重いものどこにあったんだ」

「失礼ね。軽いわよ」

 ソウタの部屋の扉が開いた。

「女性の心理を理解できてないから、アラタは彼女いない歴と年齢がイコールなのよ」

 ソウタのダミ声。

「余計な説明しなくていいから」

「アラタって、さ。もしかして……」

 やばい…… まさか、このタイミングでバレたか?

 俺はアオイから目を逸らした。

「アオイ、逃げる準備しなさい。さっきの『アレ』はあくまで時間稼ぎなの」

 ソウタが話をずらしてくれて、俺はほっとした。

「アラタ、当然あなたも同じよ」

「そ、そうだよ」

 この世界に転生してそんなに日が経っているわけではない。

 俺の荷物などたかが知れている。

 素早く袋に荷物を詰め込むと、肩にかけた。

 結局、支度が一番遅かったのはソウタだった。

「さあ、出発するわよ」

 と、ソウタが掛け声をかけるが、方向音痴のソウタが先導できるわけもなく、地図を片手に俺が先頭を進んだ。




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