女王の目的
俺はCode変更で顔を作り変え、アオイが持っていた服を着て城に出かけた。
アオイはソウタの知り合いの髪結の家に匿ってもらっていた。
顔の変化は、基本的には肌につける深いしわやシミで、Code的には簡単だった。これだけで年齢が二、三十ぐらい多く見られるだろう。
もし公安に出会ったとして、顔の変更で騙せるとして、城に入ろうとした時にこの顔で入れるのかは謎だった。
身分証代わりに、女王からもらった紙を持っていけば入れるはずと、俺はかなり安易に考えていた。
城の前の広場に着くと、公安を探すが、例の三人はいなかった。
まだソウタがCode変更してアオイに見せかけた、ただの『ずだ袋』にまだ騙されているのだろう。
ソウタがいて助かった。
アラタは昨日の出来事を思い出していた。
自らの肉体のCodeを書き換え、建物の屋根と屋根を飛び移れるようになった彼に、Code書き換えと、書き換えられた肉体の酷使により、強烈な眠気が襲っていた。
だが合流地点である中央広場に向かう途中、アオイを狙っている背の高い男に遭遇してしまう。
アラタは必死に逃げるが、ついに眠気が体の制御を奪ってしまう。
道端で寝てしまったアラタ。
奇異の目で見られる彼が、見つかってしまうのは時間の問題と思われた。
その時、ゴシックロリータを身に纏った美少女が、アラタの足に躓いて尻餅をつく。
彼女の全体重を受け止めたアラタは体が変なふうに曲がってしまう。
ゴシックロリータの美少女は、慌ててその男のCodeを確かめる。
というより、顔を見ればすぐわかる話だった。
『アラタ?』
ソウタはアラタが書き換えの反動で寝ていることに気づく。
そして敵に見つからないように、ボロ布を寄せ集めてアラタの体をゴミに擬装するのだった。
超方向音痴のソウタが、背の高い男より先にアラタを見つけるという奇跡。
これがなければ、今こうやって城に向かうことすら出来なかった。
アラタは城へ続く橋を渡ると、そこで兵に止められた。
名前を尋ねられ、身体検査を受けた。
俺は女王にもらって、部屋を借りる時に使った紹介状を見せて、女王に会いたいといった。
「そこで待っていろ」
とにかく、人づてで情報を流し、女王の仕事の隙間、隙間で問い合わせるらしく、すごく時間がかかるらしい。
城の庭でずっと座り、数えきれないほどのあくびをした後、女王の従者がやってきて行った。
「女王がそこでお会いしたいと」
俺は指示された部屋に入ろうとしたその時、後ろから女王がやってきた。
「アラタ!? なぜ顔を書き換えているの?」
俺は振り返ったが、そのまま女王に部屋に入るように押し返された。
女王も転生者だ。そういう意味では、転生者の中の転生者と言っていい。俺の簡易なCode変更などお見通しなのだ。
「しばらくこの部屋には誰も入れないで」
従者は返事をすると、頭を下げた。
従者の手で扉が閉まると、俺は言った。
「アオイを見つけたんですが、彼女、狙われてるんですよ。なぜですか? 先に教えて欲しかった」
女王は俺から視線を逸らした。
「それで顔を変えてやってきたわけね」
「しかも、狙っているのは『公安』です。女王の差金ですか?」
「それは違うわ」
俺は少し間を置いた。
「そもそも、女王は『なぜ』彼女を探しているんです?」
「悪いけど、答えられない」
「ここでは誰に聞かれているかわからないから? それとも彼女の命に関わるようなこと?」
女王は、俺を睨んできた。
「言えないことはあるの」
俺はため息をついた。
「もう一人、公安と関係しているかはわからないのですが、背の高い男もアオイを狙っています」
「背の高いエルフが?」
ちょっとした違和感を覚えた。
確か、アオイも奴のことを『エルフ』と叫んだ。
女王は背が高いと言っただけで『エルフ』と決めつけてきた。
「あの男はエルフなんですか? それにしては耳が普通……」
いや、奴の耳は爛れていた。もしかしてそのままだと普通じゃないから耳を『切った』のだろうか?
「見つけたのなら、早く連れてきなさい」
「ここに連れてきて、アオイをどうするつもりなんですか? 彼女に危険が及ぶなら、俺はアオイを渡せない」
「それは言えません」
ダメだ、これでは話にならない。
「せめて危険か危険じゃないかぐらい」
女王は、部屋の扉に戻り、開けた。
「この男を城の外に出して」
従者が頷き、兵に指示する。
チェインメイルのガシャガシャした音が響き渡り、俺は兵士に両腕を掴まれた。
「な、なんで? 女王! 質問に……」
「早く追い出して」
俺はそのまま城の外、広場まで連れ出された。
「……」
一人になった。
俺はしばらく城を睨みつけていたが、公安がいる前でCode変更の効果が切れることを恐れ、ソウタの知り合いの家に向かって歩き始めた。
路地を歩いていると、Codeがリセットされそうなのを感じた。
下を向いて、あまり顔を見られないようにして端を歩く。
指で顔を確認する。Code内容を見てもそうだが、触った感覚でも元の顔に戻ったようだった。
しばらくそこで立ち止まり、様子を見て再び歩き出した。
少し道を遠回りして、ソウタの知り合いの髪結の店についた。
髪を手で触りながら、あたかも客のように店に入ると、アオイが俺のところに駆け寄ってきた。
「ソウタがさらわれた」
「そんなバカな」
「これを見て」
アオイは後ろの壁を指差す。
そこには『ソウタを返して欲しければアオイを連れてこい アット・べオーミング』と書いてある。
「アット・べオーミング。わざわざ自分から名乗ってきたわね」
「この地図がさしている場所って……」
アラタの質問に、ソウタの知り合いが答える。
髪結いをしている男性だ。
「ここはインターセンと旧市街の間の川岸、岸壁の上だろう。確か、城がある。古い城だ」
「……」
「ソウタをさらって行ったのって、公安?」
「背の高い男よ」
俺はその『背の高い男』が誰なのか、というよりエルフなのかが気にかかっていた。
「あいつは、エルフなんだろ?」
「耳は変で人間のフリしてるけど、おそらくエルフ。たまにああやって紛れて暮らしているエルフを見かけるわ」
しかし、エルフとは言えソウタほどの経験があれば、俺と同じように周囲のCodeを書き換えることで、アットに対抗出来ただろう。
それが連れ去られたということは……
Code書き換えをさせないうちに、ソウタが気を失ってしまったか、周囲も含めてCode書き換え出来なくしたのではないか。
「とにかく一筋縄ではいかないな」
「ところで、あんたとソウタって出来てるの?」
「いやいやいや」
俺は手を振って否定する。
「えっ、昨日見たろ、あれは『おっさんだぞ』」
「おっさんなのはあまり意味はないでしょ。おっさんと若い男が出来てしまうことだってありでだし? アラタって、彼女いない歴イコール年齢なんでしょ」
「すまんが、そういう感じではないんだ」
ソウタを助けるために、アオイを危険な目に合わせるのか、ということを言いたいのか。
「そういう意味では、俺とソウタは無関係の関係だ。俺がソウタを助ける義理はない」
「それはそれで、人としてどうなのよ」
「助けに行くよ、転生者はチート能力があるんだからな」
だが、そのチート能力の親玉みたいなソウタが捕まっているのだ。
相当、作戦を練っていかないと、簡単にやられる。
「すぐ、そこへ向かう準備をしよう」




