チェイサー
公安の三人のうち、Code探査ができない男は、俺たちが最初に上がった屋根に立って、こっちを睨んでいた。
そして大声で、残りの二人に指示した。
「南東の建物へ向かえ」
俺は建物を下を覗き込む。
路地を走る岩のような男が上を見上げると、目が合った。
奴らを撒くには、そこの屋根にいる男の死角に入らないといけない。
ジャンプで高い屋根の建物に移ることは無理だ。
だが、順番にジャンプして回り込むことは可能なはずだ。
俺たちには書き換えたCodeが動いていられる制限時間がある。
Codeが元に戻れば、Codeを書き換えていた間の無理な活動の反動として、眠気がやってくる。
それまでに安全な距離を取らなければならない。
「とにかく、急ぐぞ」
『わかった』
再び助走すると、俺は屋根から飛んだ。
着地すると、後ろにアオイが着地して来た。
背後を確認すると、公安の男も俺たちとは違う、近くの建物の屋根に飛び移っていた。
「別れよう」
石に操られているアオイは答える。
『西へ』
「わかった、俺は東へ行く。中央広場で待ち合わせよう」
奴らの目的は彼女のはずだ。
俺は東側の建物へ飛んだ。
そして路地を覗き込むと、
下を走り回る岩のような男と、太った男、二人の公安はアオイの進んだ西側へと向かっていく。
俺は南の建物に飛び移ると、さらに南の建物の窓に向かってジャンプした。
体を丸めて、その窓から建物に入る。
俺は建物の階段を降りると、路地にでた。
このまま地上を走る二人の公安に背後から近づいて足止めしよう。
西に向かって走り、分かれ道で顔を振って公安を探す。
Code書き換えで体の機能は向上している。
現時点なら、岩のような男にも、太ったもう一人にも勝てるはずだ。
路地を走りながら、耳を澄ませると、声が聞こえてきた。
「左の建物だ!」
俺は声のする方へ進むと、太った公安が建物の屋根を見上げながら、走っているのを見つけた。
俺はさらに加速すると、公安の背中に足を向けて飛んだ。
公安の背中に足が届く直前、俺は足を伸ばす。
強く蹴り飛ばされた公安は、激しく路地に叩きつけられ、転がっていく。
弾かれたように着地した俺は、Codeを探査して公安の意思に触れた。
『お前は、今追っている事件を忘れろ』
倒れている太った公安の顔を確認する。
虚ろで、どこに視点を合わせているのかわからない。
Code変更の効果だ。
俺はもう一人の公安を追って走り出した。
路地から空を見上げると、建物の間をアオイが飛んだ。
「!」
どこかで公安を追い越している……
俺は周囲をCode探査した。
『右に飛べ!』
操られたアオイの声に、俺は反応して左足を蹴った。
硬い警棒が鋭く振り下ろされた。
公安に後ろに回り込まれていたのだ。
俺は振り返ると、岩のような体の公安に首を絞められた。
俺は直接、首を絞めてくる男のCodeに変更をかける。
俺が気を失うのと、書き換え終えるのと、どちらが早いかの競走だ。
首が締まるだけでなく、男の怪力で足が路地から浮いてしまう。
視界がボヤけていく。
その中でも正確に公安のCodeがオーバーレイして表示される。
最後の書き換えが終わった。
奴の指の力が緩まない……
自重で死ぬ…… 俺は必死に絞められている奴の指を引き剥がす。
足がつき、しまっていた首が開放され、路地に倒れ込むと同時に咳き込んだ。
奴は、目を見開いたまま固まったように動かない。
書き換えたCodeと残った意思がせめぎ合って動けないのだろう。
『大丈夫か?』
屋上から声をかけられる。
「ああ。作戦通りに」
屋上に向かって『行け』という意味を込めて手を振り、示した。
俺は立ち上がると、直線的にならないように路地を進んだ。
太った公安と岩のような体格の公安は、Code変更しているから、しばらく追ってこないだろう。問題はCode探査出来ない残りの公安だ。
俺は前後を何度も確認し、中央広場を目指した。
自らの体のCode変更の期限が迫って来ている。
変更したCodeで酷使された体が、限界を迎えると俺は眠ってしまう。
めまいがして、建物の壁に手をついた。
「!」
突然、建物の角から出てきた男が、こちらに気づいて振り返る。
背が高く、耳の先が溶けたようになっている。
アオイの部屋で待ち伏せしていた奴だ……
男は、周囲に人がいないことを確認すると、剣を抜いた。
今なら、まだ、体が動く。
俺は振りかえり、道を走った。
追ってくる奴から、見えないだけの距離を作って、角を曲がればいい。
奴の接近をCode探査で気づけないだけで、俺が逆に探査されることはないからだ。
俺は後ろを振り返り、奴の姿が見えないことを確認して、角を曲がった。
もう一つ、二つ先まで行けば、選択肢が多くなり探せまい。
そう思った時、足が鉛、いや、劣化ウランのように重くなった。
足が上がらないのだ。
壁にしがみついてでも進もうとする意識に、眠気が襲って来ていた。
アラタはそのまま路地で倒れてしまった。




