城への道
自宅で襲われたアオイを助けた翌朝。
俺は居間で目を覚ました。
ソウタが突然帰ってきた時を想定し、アオイは俺の部屋で寝てもらったからだ。
朝食を準備して、アオイを起こす。
食事が終わったら、女王の元にアオイを連れて行こう。
それまでにアオイが俺のことを思い出さなければ……
まあ、やっぱり、それだけの関係だったということだ。
「今日、君を城に連れていく」
「……そう言えば女王のこと、言いかけて寝ちゃったわね」
俺は記憶がなかった。
自身のCodeを大幅に書き換えた後、反動で強い眠気がくることがある。
だとするとアオイの部屋にいた男から逃げ出した後だろう。
「女王に『君を探して連れてくるように』と言われていたんだ」
「まさか私が『悪役令嬢もの』で女王のことを書いた件じゃないでしょうね……」
「どんなこと書いたの!?」
余計なことを言ったとばかりにアオイは自らの手で口を押さえた。
「なんか言ってた?」
「いや、特に怒っているとかそういうことではなさそうだけど」
「……行きたくない。拷問されるかも知れないし」
いや、待て、それは俺が困る。
「もし、アオイが拷問を受けるようなことをしたとして、そのアオイを女王の元に連れて行かなかった俺はどうなるのかな?」
アオイはニヤリ、と笑った。
「やっぱり拷問を受けるんじゃない?」
「ウソ!? それは困る」
「冗談抜きで、私を探している意味がわからないんだけど、どうしよう」
アオイは腕を組んで指を顎に当て、何か考えている。
俺としては、どうしても連れて行かなければならない。
だが、連れて行ったら、アオイは城で過ごすことになり、もう二度と会えなくなるかも知れない。
「本当に何も言ってなかった?」
「聞いておけば良かった……」
理由を言ったら連れてこない場合だってあるだろう。
俺が理由を聞いても女王は話さなかったに違いない。
自らのCodeを書き換えて、アオイの手首を掴んだ。
「あっ! またそれ……」
「うん。外れないよ。俺と一緒に来てもらわないと」
アオイは自分自身に言い聞かせるように言う。
「何もやましいことはない。小説の件なら、フィクションだからって言えばいい。言論の自由ぐらい認めろって言い返す」
俺たちは部屋を出て街にでた。
城に向かうなら、リムの中央広場に出て、大通りを真っ直ぐ北に向かえばいいのだが、昨日のことがある。
大通りは相手もこっちも相手を認識出来ない。Code探査を使うなら、付近に人が少ない方が有利だ。
あまり街の道に慣れてはいないが、俺たちは一本西側の道を使うことにした。
中央広場を回り込み、西側の道を北へと進み始めた。
「アラタ、私も『Code探査』できるのかな?」
「女王に聞いた時、転生者は多かれ少なかれ、Codeに触れることができると聞いたよ。きっと転生そのものがこのCodeに関係しているからじゃないかと思う。きっと特殊能力が使えるよう、書き換えられてこの世界に来ているんだよ」
「それやられるのは気分が悪いのよね」
そうだ、最初に出会った時、カフェで俺がCode探査すると、すぐに気づいて文句言ってきた。
「気持ち悪い、ということはないけど」
「そこが、男性と女性の違いなのかも」
俺は昨日のことを思い出して、立ち止まった。
「待って。確か、昨日の晩……」
奴はCode探査をすり抜けた。
つまり、俺がいくら頑張ってもわからない可能性がある。
アオイは俺の気持ちを読み取って、言った。
「そうね。私は頑張って目視で警戒する」
俺はどちらかというと女性の方が視線を感じる力が強い気がしている。
科学的根拠はないし、酷い偏見なのかも知れないが、ちょっとした視線に気づかれているのは女性の方が多かった。
「お願いします。俺は本人ではなく何か靴とか、剣とか、そういった持ち物とか雰囲気から見つけられないか頑張るんで」
二人で力を合わせ、通りを進んでいく。
怪しい人影がある場合は、回り込んで確認した。
あまり立ち止まるのも周囲に気づかれる可能性があり、警戒しつつも立ち止まらないように動いた。
城が近づいてくると、道が次第に繋がり一つにまとまっていく。
城からすれば、あちこちを警戒しなくていいようになっているわけだ。
俺とアオイは繋がった、その大きな道にでる直前で建物に入った。
「この上の階から、一度、通りを眺めてみよう」
「そんなに警戒する意味ある?」
俺はアオイの問いには答えず、無言で階段を登っていた。
そして建物の下、城の前の広場を眺める。
城の門は閉ざされていた。
門の前、広場にいるのは、地面にものを広げて商売をしている人たちや、集まって話している女性たち、何かを探すかのように各々が異なる方向を見ている男三人がいた。
俺は男三人を指さした。
アオイは男たちを見てから言う。
「部屋にいた人とは違うじゃない」
「けど、連中、誰かを探してるみたいだ」
「警戒しすぎじゃない?」
俺は目を閉じて気持ちを集中した。広場まで一気にCode探査の範囲を広げる。
見た目の特徴とCodeに現れる値が一致した。
侵入してさらに奥底の状況を確認する。
出会った日にソウタがやってみせたように、他人の考えを知ることさえできる。
『女、光る石を身につけた、女……』
繰り返し視覚情報から女を探している。
光る石、それは昨日俺も気づいたアオイの持っているペンダントのことではないか?
もしそうなら、広場にいる三人組はアオイを探していることになる。
俺はアオイの胸を指さした。
「それ。連中はそれをつけている女を探しているみたい」
「……」
彼女が転生した時に握っていて、お守りのように身につけている光る石のペンダント。
「部屋に戻って、それを置いてこようか」
「いやよ」
「じゃあ、光っているのがわからないように奥に隠す、とか」
アオイは俺を睨んだ。
「私の胸に谷間がないって言いたいの?」
俺は想像して顔が熱くなった。
「ち、違う。奥って、そういう意味じゃなくてさ」
「置いていくのも、隠すのも嫌。これで私は生き延びたんだから」
昨日確かにそう言っていたが、石が何をしてくれたというのだろう。そこは聞いてない。
「その石、一体何ができるの?」
「逃げたい、と思った時、願い通りになったわ」
「石のおかげじゃないんじゃないの?」
彼女はムッとして拳を作り、俺の腹に押し当ててきた。
「そんなこと絶対ない。この石のおかげなんだから」
まさかアオイの方からボディタッチしてくるとは…… 俺は興奮した。
そのせいか分からないが、左の手の甲がやたらムズムズする。
「えっ?」
俺は左手の甲を見た瞬間、声を上げてしまった。
そこには墨で描かれたような文字が浮かんでいた。
『敵意を持つ相手の意思を書き換えるのさ』
「誰? 何?」
俺が騒いでいるとアオイが俺の手の甲を覗き込んできた。
同時に、手の甲の文字が消え去った。
「えっ? どういうこと?」
「何があったの?」
「今ここに文字が書かれていて」
もしかして、彼女の下げている『石』は転生者と同じようにCodeを書き換えれるのではないか。だからこの手の甲を通して会話ができる。
『そうだ。だが出来ることは限られている』
「わっ、また字が浮き出た!」
このインターフェースは、記憶がある。
俺が前の世界で死んだ時も、こんな風に手の甲に文字が現れた。
もしかしたら、これがこの世界の汎用インターフェースなのかもしれない。俺はそう思った。




