表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶の勇気(仮)  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/32

再び彼女の部屋へ

 俺たちは、暗い道を慎重に歩いていた。

 なぜ殺されそうになったのか、わかっていない以上、背の高い男が、再び彼女を殺しにくる可能性はある。

「しばらく俺の部屋でくらそう」

 その間は、いつソウタが帰ってきてもいいように、俺の部屋を使ってもらおう。

「……だとしても、生活に必要なものがあるの」

 下着とか、そういった(たぐい)だろうか?

「それにしたって、今行くのは危険だと思わない?」

「今戻らないと確かめられないでしょ」

「……」

 頑固だ。意思が強いというべきなのか。

 アオイの横顔は、凛々(りり)しく、毅然(きぜん)としていた。

「とにかく部屋に行こう。今度襲われたらおとなしく俺の部屋に」

 というか、落ち着いたらさっさと彼女を女王の元に連れていく。

 それが転生を受けた俺が報いる道なのだ。

 俺は疲れない程度に、周囲にCode探査の手を伸ばして歩いた。

 これで記憶している身体的特徴と、Code探査で引っ掛けた値が一致すれば、すぐに敵だと判別される。

 戦いは可能な限り避けなければならない。

 俺のCode処理はまだまだ未熟だ。

 そして、相手を『殺す』覚悟もない。

 さっきの戦いでは不意をつけたが、今度出会えば、手の内を晒した後の戦いだ。相手の想像を超えないと、男がもつ剣技の上をいくことが出来ない。それが出来なければ死だ。

 女王に報いることも、せっかく転生したこの命も、何もかも失ってしまう。

 坂を登り、道が階段になった。

 そろそろアオイの住んでいる部屋につく。

「待って」

 俺はさらに深くCode探査する為、意識を周囲に広げていく。

 動くもの。ネズミ、猫、ハエ、ゴキブリ……

 いない。人はいない。

「いつまで待てばいいのよ」

「静かに」

 指向を部屋に向け、意識を集中させよう。

 意識は階段を上がり、扉を開け、部屋の様子をCodeとして捉える。

 様々なものが不自然な配置で、重なりあっている。

 つまり、ものが散らかっているのだ。奴が部屋を探し回ったのだろう。

 だが、部屋の中に人はいない。

「大丈夫だ、誰もいない」

「怖くなってきちゃった。さっさと必要なものだけ取って帰りましょう」

「それがいい……」

 言いかけて、俺は彼女の胸元で光るモノに興味を持った。

「それ、何?」

 アオイは胸の前で腕を十字に合わせて隠す。

「エッチ」

「そうじゃなくて、光っているそれのこと」

「ペンダントよ。転生した時に、なぜか掴んでいたの」

 頭を動かし彼女の手の隙間から、そのペンダントを見ようとすると、頭を叩かれた。

「変態」

「それ、光を溜めて光るのではなく、そのものが発光してるよね。放射性物質だったりしたら、やばくない?」

「知らないわよ。気にっているの。これが私を守ってくれたの」

 女王が言っていた。転生先をコントロールできないことがあると。アオイは転生先がうまくコントロールされていなかったのだろう。

 その転生先からリムの街に来るまでに、相当な『何か』があったに違いない。

 俺はそれ以上聞けなくなってしまった。

「大丈夫なら、私、部屋に行くわよ」

「待って」

 俺はアオイの先を進んで、目で部屋の様子を確かめることにした。

 部屋の扉を開ける。

 Codeで感じた通り、衣服や食器が散乱しているのが見える。

 もう一度、Code探査の意識を広げる。

 よし。何もない。

 俺は一歩、踏み込んだ。

「えっ?」

 俺は思わず声を上げてしまった。

 部屋の中央に、男が胡座(あぐら)をかき、目を閉じて座っていた。

 なぜだ……

 同時に、俺は怖くなった。

 あれだけ懸命にやったCode探査で、何一つ引っ掛からなかった。

 これだけ大きなものが存在していたのに……

「!」

 後ろからやってきたアオイが、奴を見て息を呑んだ。

 俺たちに気づいた男が、目を開いた。

 胡座を解いて立ち上がる。

 天井に届くかという身長。

 立ち上がると、ゆっくりと鞘から諸刃の剣を引き抜く。

「なぜ、待ち伏せていた」

「これから死ぬ者に話す言葉はない」

 男は真っ直ぐ突き通す構えをとった。

 ダメだ、何も準備が出来ていない。

「エルフ!」

 アオイが叫ぶと、男は体を引いた。

 エルフ? 男がエルフだというのだろうか。

 意味はわからないが、一瞬の間が出来た。

 俺は急いでCode探査を行う。

 何か奴の力を下げる、意思を変える方法がないか……

 だが、探査が伸びない。

 奴のCodeに触れるどころか、見つけることすら出来ないのだ。

「死ね!」

 伸びてくる剣は、俺の胸の直前で止まった。

「!?」

 俺は奴のCodeに触れられない代わりに、床板を変質させて靴を固定したのだ。

 だが、奴はバランスを崩しながらも、倒れない。

「逃げよう!」

 俺は彼女に部屋を出るように指示した。

「必要なものがあるって言ったでしょ!」

「アオイ!」

 指示とは逆に、彼女は部屋の奥へと走り込む。

 男が伸ばす手は届かない。

 俺が男に近づこうとすると、剣を振ってくる。

 だが、足が固定されて、剣に力がこもっていない。

「!」

 突然、男は剣を自らの靴へ向けた。

 俺は再び、床板のCodeを書き換えた。

 突いた剣がその勢いのまま、床深く潜っていく。

 奴も床の変質に気づいて、剣を引き抜く動作に切り替えた。

 俺は急いで床のCodeを書き換える。

 剣が引き抜かれる前に、床が硬化した。

 足と剣が固定され、男は完全に動けなくなった。

 俺は男に近づく。

 男の耳の先が、熱で溶けたように変質しているのが気になる。

「ほら、しばらく死なないぞ。なぜ、彼女を狙うのか言え」

「殺すなら、早く殺せ」

 言いながら、男はもがいている。

 質を変化させるCodeがいつ迄持つかわからない。

「アオイ! まだか!」

「もうちょっと」

 変質している床板の色が、元の色に戻っていく。

「早くしてくれ!」

 俺は部屋の中を見まわし、ロープを見つけると、固定されている男の足を縛った。

 この歩幅で縛ってもあまり意味はないかも知れないが、時間は稼げるはずだ。

 奥の部屋から大きなバッグを背負って、アオイが戻ってくる。

「急ごう!」

 俺たちが部屋を出ると、中からバキバキと床板が割れる音がした。



 俺たちは坂を下り、リムの街に戻った。

「もう追ってこないな」

 アオイは荷物が重くて、息を切らせている。

「何を持ち出したんだ」

「言わない」

 それだけ言って、またハァハァと呼吸を整え始めた。

「命を賭けて取りに行ったものなんだから、他人に何を言われようが恥ずかしくないものなんだ。アオイ。これは君を守る上で必要なことだと思う。お願いだ。話してくれ」

「……」

 俺たちはとにかく、部屋に戻った。

 やっぱりソウタは戻っていない。

 アオイは荷物を開けて、何かを手に持つと、俺を見てきた。

「取りに行ったのは、私が生きていく上で必要なものだから」

 アオイのところへ行くと、彼女の手には転生前の世界から持ってきた本が握られていた。

「それって、悪役令嬢ものの小説……」

 転生してから気にもしていなかったことを、突然意識し始めた。

 そうだ。何故俺はこの世界の言語が話せているのだろう。

 アオイも俺も、同じ世界からここへ転生してきた。今、アオイが持っている小説に書かれている文字、言語を使って生活していたのだ。なのに、バカオナモミの草原に転生した俺は、いきなり女王と会話ができていた。リムの街の看板も、街の人との会話も、学ぶことなく理解できていた。

「この世界に小説を翻訳して売っているのよ」

 転生した時、俺は裸ではなかった。かといって、この世界の様式にあった服を着ていた訳でもない。

 つまり転生前に身につけていたものが、この世界に持ち込まれているのだ。

 と言うことは、アオイは彼女が転生する前、つまり大学の入学式の直後、ここにある小説を背負っていたというのか。

 俺の表情を見て、彼女は何か感じたらしい。

「やっぱり話すんじゃなかった」

 そう言ってアオイは肩を落とした。

「……いや、引いたとか、そういうんじゃないから」

 俺は必死に否定する。

「だって、この世界の文化とか、そういうのにも合わせなきゃいけないから、簡単な翻訳じゃないなって、苦労するだろうなって。そう思ったんだ」

「わかってくれる!? 私、この世界に『悪役令嬢』ブームを起こしたいのよ」

 力強く主張してくるアオイを見て、俺は嬉しくなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ