第91話 いきなり式が始まるのか!?
着替えるための部屋らしきところに連れて行かれた俺。
明らかにいつもよりも布地が多い、エウゴ菜繊維と何かの糸を組み合わせた服に着替えさせられた。
そしてウサギの毛皮を貼り合わせたマント!
「このためのマントだったのか……。もったいない……。いや、よく考えたらこれが領民にとっての祭りならば、意味はあるのか」
「領主様のご理解が早くて助かります」
今回の仕掛け人の一人でもあるジェイド。
ホッとしたように笑った。
「殿下の晴れ姿が見られるわけですな。私は大変感動しておりますぞ」
ジムニはふるふる震えているし。
早い、まだ早い。
「ご立派なお姿です! ルナスの島を治める王! 殿下……いえ、陛下!」
「ジムニ、俺は領主なので陛下というのは……」
「陛下!」
「陛下!」
「陛下!」
いかん!
男衆が盛り上がり始めてしまった!
こういうのに水を差すのはやりたくない俺である。
おいおい、ゆっくり訂正していけば良かろう……。
大地母神の女神官の一人がやって来て、俺の髪とか顔をいろいろいじっていった。
なんだ、このペタペタ塗られている油は。
油!?
「お、おい。これ、どこで手に入れたんだ?」
「油が採れる木の実を発見したんです。これは肌にいいんですよ」
「重要な情報じゃないか!! 領内の食文化がまた一段進化するぞ!」
「へ、陛下、興奮なさらないでください~! 油の乗りが……!」
「ああ、すまんすまん」
オリーブオイルみたいなものなのだろう。
肌につけられるということは、人間の体への刺激も少ない。
これは、揚げ物ができるようになるぞ!!
「陛下のテンションが上がった!」
「また俺たちの分からない何かに気付いたんだな」
「これがあると、俺たちの生活がちょっと豊かになるんだよな」
「楽しみだー!」
楽しみにしているといい。
後でこの油の秘密を聞き出さねばな。
ではさっさと結婚式を終えねば……。
俺はそんな事を考えながら、式場の更衣室から出てきた。
そうすると、会場には全領民が集まっているものだから、俺を見て「ワーッ!!」と大歓声が上がるのだった。
うおーっ!
さっさと結婚式を終えられる雰囲気ではない!!
そもそも、今朝まで何も状況を知らなかった俺である。
それが、ネタバラシをされた直後に結婚式が始まるとは一体いかなるスピード感か。
そして領民たちは皆、この事を知っていて隠していたのだ。
努力が今実り、俺が大変王様らしい格好で現れたと。
うーん!
状況は俺がどうこうできるレベルではない感じになっている!
仕方ないので、俺は真面目な顔を作り、領民たちに向けて手を振った。
歓声がさらに大きくなる。
「我らの島が、国になったみたいだ!」
「それじゃあ、領主様は王様だ!」
「王様! 王様!」
「ばんざい! 王様万歳!」
「王様ばんざーい!!」
しまったー!!
さらに盛り上がってしまったぞ。
どうにかならぬものか。
俺が助けを求めるように、もう一方の更衣室を見たら……。
ちょうど扉が開いて、カゴを持ったゼータとラビハが出てくるところだった。
他に、村の女子たちが続いている。
「新婦の入場ですよー!」
ゼータが、歓声にも負けない大きな声を張り上げた。
こ、これは……。
もっと盛り上がってしまうのではないか?
盛り上がった。
ゼータとラビハと女子たちが、カゴに入った花びらを撒きながら道を作る。
そこを歩いてくるのは、白く輝くドレスに身を包んだモネだ。
あっ、目が泳いでいる!!
あいつ、全く状況が理解できていないぞ!!
普段からあまり何も考えずに暮らしてる女だからなあ……。
俺はとりあえず、彼女に向かって小さく手を振った。
おっ、こっちに気付いたな。
頭にはやはり蜘蛛糸を織って作ったのか、輝くベールを被っている。
ベール越しに、モネと目が合った。
「たすけてー」
「お前、新婦がこの状況で助けてって言うな。その、なんだ。似合っているぞドレスが。綺麗なんじゃないか」
「あ、どうも。その、うっす」
うっすってなんだ。
「ハイザット様もなんか、マントしてると凄く強そうです」
「ありがとう」
あまり強そうな見た目をしていると、周りの人間が怖がるから、あえてプレーンな格好をしてたんだがな……。
俺は背丈も高いし。
だが、今日ばかりはそんなことは気にしなくていいだろう。
俺とモネが壇上に立ち、領民を見下ろす。
背後には、大地母神の司祭ヒャクシ。
「それでは! これより、式を行います! 最果ての島ルナス。この地に流れ着いた王子が様々な苦難を退け、未開の恐ろしい大地を切り開き、人々に恵みと未来をもたらしました。外よりいらっしゃった王子を島と結びつけるため、島の娘がかのお方の妻となる、これはこれから……つまり未来とこれまで……つまり歴史との結婚式なのです」
朗々と彼女が語る。
声が通る通る。
司祭ともなると、説法なんかもするだろうから発声方法を知っているのだろう。
これから、というのが外の世界からやって来て島を変えた俺。
これまで、というのが島の中で生まれ、これまで生きてきたモネ。
「皆様、祝いましょう! 今よりルナスは、新たな時代を迎えます! それを、大地母神が見届けます! おお、我らが神よ! 新世界の主とその妻に、大いなる祝福を! そして実りを!」
ヒャクシが天に向かって手を掲げると、天蓋に開いた窓から、一斉に光が差し込んできた。
なんだと!?
この建物の構造的に、そんな多重に光が入ってくることなどあり得ない。
本当に大地母神が来ているのか?
『ミノリー』
なんか聞こえた。
『遠き世界の時代を変える、素晴らしい婚姻を寿ぎましょう』
女の声が響き渡る。
聞いたことのない声だ。
これが大地母神なのか?
ヒャクシは凄いな!
そう思って彼女を見たら、目を見開き、口をポカーンとしたまま固まっている。
えっ、お前も想定外だったの!?
「え、ええと! 大地母神のご加護が今、ありました! 新郎と新婦は神の御前で、誓いの口づけを……!」
「あわわ」
モネはもう何も理解できないようで、目がぐるぐる回っている。
幸い、俺はアドリブに強いのだ。
「よしモネ、目を閉じろ。こっちを向け」
「ひゃ、ひゃいい」
ぎゅっと目を閉じたモネのあごを持ち上げ、俺は唇を重ねた。
『ミノリー』
また声が響き渡り、空から光が降ってくる。
なんだー!?
この結婚式はなんなんだーっ!?
領民はめちゃくちゃに盛り上がり、俺とモネは大混乱なのだった。




