第88話 えっ、俺無しでエリアを解放したの!?
通路になってるところをモネとてくてく歩いているのだが、まあそれなりに距離があるよなあ。
直線なら1ティタンほどなのだが、これが真っすぐ行ってちょっと曲がって果樹園側に向かっていくのだ。
足場もあまり良くない。
お陰で、到着が昼過ぎになってしまった。
「ハイザット様! あたしお腹が減りました!」
「俺もだ。だが何も持ってきてないぞ」
「その辺で動物をスパッと狩って食べさせてくれたりしないんですか?」
「生はやめたほうがいい。腹を壊すぞ。悪い虫がいるらしいからな」
「えーっ、あたしは平気ですよー」
「俺が腹壊すの。もうちょっと行けば果樹園だから、酸っぱいクアットロの実をもらうとしよう」
「酸っぱいやつかあ……。まあ何も食べないよりはいいかなあ……」
贅沢を言う娘だなあ。
まあ、その良い性格なところがモネなのだが。
この人格は領民の誰とも似てないよな。
「あたしの性格ですか? そりゃあ、子供の頃から飢えたことは無かったですからねー。みんなが食べられない毒だってパクパクいけたし。ちょっとくらい腐ってても全然平気なんですよね」
「モネの内臓は人間離れしてるんだなあ。やっぱり魔人の血が混じってない?」
「さあ……? でも、あたしの肌って光沢が青いし、確かに村の誰とも似てないですからねえ。遠いご先祖様に魔人がいたのかも!」
話を聞いてると、魚なんかはまずモネに食べさせて毒かどうか確認するのが常になってたようで、彼女は村では重宝されてたそうだ。
お陰で村の女の誰よりも大きく育ったと。
そして、体が大きいのでお腹が減るわけだな。
「ああ~、喋ってたらますますお腹が……」
とか言うので、これをサルたちが聞きつけたらしい。
『ウキャウキャ!』
横の林から飛び出してきて、木の実を差し出してくるのだ。
「えっ、くれるの!? ありがとー!!」
これを屈託なく笑いながら受け取り、モネはすぐにモリモリ食べる。
正体不明の黒い実だが、カメレオンエイプが食べられるんだから毒ではないんだろう。
「おっ、甘酸っぱい! でもちょっと毒があるかも!」
「毒があるのか!」
『ウキャキャ、ムキャー』
「なに? 気分を盛り上げたい時に食べる実? 夜に食べると興奮して眠れなくなるから、本当は昼までしか食べちゃいけない?」
「ハイザット様、ナチュラルにおサルと会話してません?」
「前にゼータの魔法を受けてな。ちょっとだけなら猿の言葉が分かるんだ。あとは人生経験で、おサルの表情とジェスチャーを読み取っている」
「すっごい」
感心しながらも、黒い果実を食べきってしまうモネなのだった。
ちょっと落ち着いたらしい。
そのおサルは途中まで一緒にトコトコ歩いて、果樹園近くで手を振って林の中に飛び込んでいった。
ありがとうな!
さあ、果樹園に到着だ。
「俺だ」
「あっ、領主様!」
「領主様こんにちはー!」
「すくすくとクアットロの木は育ってますよ!」
真面目に手入れをする住民たちなのだ。
そこのところは信頼している。
クアットロは枝ぶりもよく、赤くツヤツヤした果実が実っていた。
酸っぱい系だから、これはどれだけ綺麗でも繁殖はしないんだよな。
このままだと酸味が強いので、スープにしたら漬物にしたりして食べる。
最近、この酸っぱいクアットロ……サワークアットロの新しい食べ方を大地母神の神官たちが編み出した。
煮詰めてソースにして、パンや魚に掛けて食べるのだ。
スープにしてパンや魚を付けるのではなく、その真逆!
発想の展開だなあ。
確かに、酸っぱいソースで素晴らしい味変になり、魚が幾らでも食べられる感じだった。
「ううー、すっぱーい」
モネが目を口をギューッと閉じてぶるぶる震えている。
毒には強いのに、酸味には強くないのか。
俺も一口かじって、酸っぱさに顔をギューッとしかめた。
そんな事をしていると、果樹園のずっと向こうでワーッと突然賑やかになったではないか。
なんだ?
何か起こった?
「すごい!」
「成功したんだ!」
「見ろよ、あの真っ白な果実!」
真っ白な果実だと!?
それって、アレコの実!?
驚いた俺がそっちを見たら、ゼータを先頭に、武装した領民とファースにプラシア、さらに魔法担当の神官がやって来るではないか。
みんなボロボロだが、槍の先端に白い果実をぶら下げ、実に誇らしげだ。
「おーい!」
「あっ、おじさま! やりましたよー!」
「まさか君ら、俺なしでアレコの実までのルートを切り開いたのか!?」
「はい、そうです! 大地母神教団のご助力全開でしたし、みんなあちこち怪我はしましたけど、脱落なし! 全員で道を切り開き、アレコの実の場所から転送装置を発見しましたよー! まさか果樹園に繋がっているとは思いませんでした」
「ひえー、凄いなあ」
そして、領民たちの成長ぶりに強い感慨を覚えている。
みんなは俺を、
「どれだけ領主様が凄いのか分かりました!」
「あんな恐ろしいところを、ゼータ様と二人きりで無傷で突破してたなんて」
「いや、本当に凄い……!」
「私たち、魔法をもう一発も撃てないくらい出し切ったんですよ」
「剣一本でここを抜けたって本当ですか!?」
「端的に化物だと称賛します!」
持ち上げてくれてはいるが、剣術ができるわけでもないのに突破したみんなの方が凄いぞ。
「俺はほら、剣が得意だから突破できるんだ」
「いやいやいや」
みんなに否定されてしまった。
なにーっ。
あまり持ち上げるんじゃない。
「それにしても、みんななんで危険を冒してまでアレコの実のルートを切り開いたの? そんなにお酒が飲みたかったわけ? あたしはお酒飲む時は、意識して毒消しの力をセーブしてるけど」
毒に耐える力、自分でコントロールできたのかモネ!
この言葉には、ゼータがニヤッと笑った。
「それはもう。おめでたいことにはお酒が必要じゃないですかー」
「それはそうだが。おめでたいこと……? んん?」
なんだか今日は、何から何まで、俺の知らないところで物事が進行しているように感じるぞ!
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