第87話 伐採林に謎の建造物を見た
食事が終わったら、みんな仕事に向かっていった。
いや、結構な数が本来の持ち場ではないところに向かったな?
しかも、誰もそれを咎めていない。
「やはり、今朝からみんなの動きが怪しいな。モネ、何か知ってるか?」
「いえ、あたしはなんも知らないです。っていうか、今はハイザット様の家に転がり込んでて、ずっと寝泊まりしてるから他の情報とか全然ですよ」
「そう言えば最近は割とよく一緒にいるもんなあ」
「ですです。そもそもあたしは別に情報に詳しいわけではないので」
そうだった。
彼女は俺相手に物怖じしない、体がデカいの二点を買われて俺のお付きに任命されていたのだった。
どういう選択基準なのだ。
「仕方ない。気にしないことにはしたのだが、領内を散歩して回って偶然何かを見つけてしまうことはあるだろう。ぶらつくが、ついてくるか?」
「行きます行きます。あたし、ハイザット様のおともが仕事なので、実はこれと言った持ち場がないんですよね」
「そうだったの? いつもフリーダムにあちこちにいると思ったら」
モネと二人でターミナルを歩き回る。
子どもたちが、木の板で作った何かを器に集めて、これを握ってはばら撒いている。
「何をしてるんだ」
「あっ、領主様だ!」
「見つかった!」
「だいじょうぶ! まだなにしてるかわかんないよ!」
「ひみつ! ひみつです!!」
「そうか秘密かあ」
領民たちめ、子どもたちまで巻き込んで俺に秘密の何かをやっているらしいな。
地面にばらまかれた木の破片を見る。
なんかギザギザしてるな?
薄切りだから武器にはなりそうにないが。
「なんだあ……? 悪意と言うかむしろ親しみとか敬意みたいなのは感じるが、だったらどうして俺に秘密にしているんだ……?」
「不思議なこともあるもんですねえ」
「モネはこの木の破片、何なのか知らない?」
「いやあ、全然?」
本当に知らなそうだ。
君は一体、何ならば知り得るのだ。
子どもたちからは何も聞き出せそうにないので、伐採林に向かうことにした。
そうしたら、思ったよりも伐採活動は進んでるようで、この間まで木々が生えていたところが綺麗に整地されていた。
こりゃ凄い。
根まで掘り起こして、草も引っこ抜いて土をむき出しにし、そこに立派な木造の土台を……。
「土台を!? なんだこれは!? 明らかにルナス領で最大の建造物の土台が生まれつつあるぞ!?」
「あっ、領主様だ!」
「いかん、見つかった!」
「モネまで一緒じゃないか!」
「誤魔化せ誤魔化せ!」
今、誤魔化せって言った?
ジェイドとメスタが出てきた。
「領主様! 突然建物が作られていて驚かれたことでしょう! これはですね、木材を保存しておく倉庫なのです!」
あっ、それっぽい言い訳……。
流石ジェイド、頭の回転が早いな。
「そうですそうです。ですので何も心配はいりませんよ」
そう言いながら、メスタはウサギの爪を改造したらしい刃物で、木材を綺麗に削っているところだった。
新しい楽器かな?
「お目が高い。僕はこれで、最高のウクレレを作るつもりです。これならば、今作っているウェディングソングを奏でられるというものです」
「なるほどなー。……ウェディングソングって言った?」
ジェイドが目を口を開いて、小刻みにメスタを肘打ちした。
「ウグワー! いたたた! いえいえ、ウェザーソングです! 雨乞い、晴れを呼ぶ、様々な天候の変化を願う歌ですよ!」
「あ、なーんだ、そうか。君たちの土地では、そういう歌があるんだな」
俺はすっかり納得してしまった。
「ははーん、ハイザット様は自分で自分を騙すことができるタイプなんですね。かしこい」
「なんだって」
モネ、どこからどこまで分かっているのだ……?
良く分からない娘だなあ……。
でも、実際に何も知らないのは確からしい。
「じゃあハイザット様、帰りはこっちを通らないようにしましょう。みんなが切り開いたお陰で、ここから果樹園までずっと安全なんでしょ?」
「それはそう。みんな日々頑張って、人間の生息域を広げて行っているんだぞ」
ずっと村近辺に閉じこもっているモネに、案内してやるとしよう。
岸壁にある道を歩く。
季節というものが、初夏と夏と晩夏、かすかに秋っぽい季節、そして初夏……という感じのこの島にあって、今は秋ごろだ。
過ごしやすい季節だと言えよう。
「花が咲いてますね! 真っ赤な花です!」
「本当だ。ここ最近は神殿とターミナルを行き来していたからなあ。この道は通路としての使い道しかなく、他の大半はカメレオンエイプの家なんだが……」
崖から海に突き出した枝に、たくさんの赤い花が咲いていた。
大きさは俺の拳くらいだから、結構大きい。
そこに突然、白い毛皮の大きな猿が現れた。
猿は花を幾つももぐと、キョロキョロする。
俺を見つけて、ペコっと頭を下げた。
俺も小さく手を振る。
「おサルさん、花をもいで何をしようというんでしょう? 食べるのかな?」
「どうだろう? あの猿、かなり文化的だからな」
「ハイザット様は文化的なことにこだわりますよねー」
とか喋っていたら、もう一頭の猿が俺たちの頭上に現れた。
『ウキャ?』
『ホウホウホウ!』
頭上の猿に、花をもいだ猿が呼びかけている。
そして……握りしめた花を、その猿の周りへとバーっと振りまいた。
握りつぶされた花が無数の花びらになり、風に吹かれて舞い踊った。
『ウキー!』
『ムホウホウ!』
『キャキー!』
『ムホー!』
おっ、なんか交渉が成立したっぽい。
頭上の猿がぐんぐん移動して、枝の上に着地。
花をもいだ猿と向き合ったかと思ったら、彼の肩とか背中の毛づくろいを始めた。
なんだなんだ?
「ハイザット様分からないんですかー? あれはあれですよ。求愛です。猿たちが夫婦になったんですよ」
「えっ、そうなの!?」
いかん、こっち方面では、俺は何も分からないぞ。
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