第84話 料理においても指導を受けるぞ
獲物が捕れたということで、ルナス領は大騒ぎになった。
人間だけで、狩りに成功したのだ。
これは即ち、島の厳しい大自然に人は挑めるということの証左だった。
だけど、頼むから無茶な挑戦はするなよ?
これ、全員で訓練して、ちょっと入ったとこまででやめたから全員生還できたんだからな?
俺の心配をよそに、住民たちのテンションは高かった。
ここで大いに役立った大地母神の女神官たちへ、男たちからの信頼がかなり厚くなっている。
仕事ができるところを見せたのだから仕方ない。
新住民の女性陣も少しずつ認識を改めてくれたまえ。
さて、次なる女神官たちがやって来た。
お料理担当である。
俺が見るところ、やって来た三人の女は凄腕の料理人だ。
しかも、大人数用の料理に習熟している。
「これから! 皆さんに野菜で美味しいスープを作るやり方を伝授します! 先日私たちがお教えした香味野菜がありましたよね? あれをメインで使用していきます」
「私は新しく捕獲された獣を調理していきます。えっ、大きいミミズを獲ったんですか!? これは……うーん。どうしたものかなあ……」
「肉食のミミズみたいだから、臭みがありますね。この臭いを抜ければ美味しく食べられそうですね。細かく切り刻んで色々試してみましょう」
一人がゴリゴリと野菜を調理し始めた。
野菜の旨味を100%引き出すやり方だからな。
ルナス領のスープのレベルが跳ね上がるぞ!
そしてミミズは……。
茹でるのと焼くのとを同時進行でやっているようだ。
どっちが美味いかな?
薄切りにしているから、すぐに結果が出た。
茹でたのはこう……牛の皮みたいで固い。
薄切りならいけるが……味がないな。
「では焼いた方は……?」
「ちょっとハイザット様! なんで率先して食べてるんですか! あたし! あたしが先に食べます!! ほらー!」
「あっ、俺の焼きミミズ!」
モネが割り込んできて、焼いたミミズをむしゃむしゃ食べた。
「あっ、これ割といけますよ。カリカリしてて美味しいです!」
「ほんと!? なんで茹でると固くなって味がなくなり、焼くとカリカリになって食べやすくなるんだ……?」
モネに倣って食べてみた。
あ、いけるわ。
このサクサク食感はくせになりそう。
分厚いとやはり固いだろうし、火が通るのも遅いだろう。
ヌメヌメは海水で洗い流せるようなので、その後に薄く薄く肉を削いで焼く。
これがアースワームの食べ方になりそうだ。
手間はかかるが、アースワームはでかい。
一匹狩ったら村人全員の一食分になる。
首刈りウサギの方は……これはあまり食いでがないな。
ふたまわりほど大きなウサギくらいのサイズでしかない。
ただ、こいつの場合は後ろ足についた巨大な鉤爪がキモだ。
ミミズ焼きをパリパリ食べながら、鉤爪を検分する。
「この硬度……。金属そのものだ。こいつら、金属を食って体に生やしてるんじゃないのか? そしてウサギがキックをすると……刃が前を向いて、対象の首をスパッとやるわけだ。どういう構造だ、こりゃあ? だが、武器に活かせそうだ」
「おじさまが何か発見したんですね?」
「ああそうだぞ。狩りの道具が増える。これを使って、さらに効率的に狩りができるようになる。ただ、狩りそのものが極めて危険なので、武器ばかりつよくしてもなーという話にだな」
「防具が必要なのです? ルナス領にも戦う技術と武装が生まれていくのですねえ」
俺がウサギの足を調べている間に、残りの部分は料理されていた。
焼きウサギだな。
これは真っ当に美味い。
そして野菜スープだが……今まさに完成しようとしていた。
新住民の女性陣は不本意ながらも、大地母神教団の卓越した調理技術を見て盗むべく、集まって調理風景を見つめている。
いい匂いがしてきたなあ。
次々に領民が集まってくる。
「凄くいい匂いじゃないか!」
「こんな匂い嗅いだことがない!」
「スープを作ってるのかい?」
「あ、この間、領主様が連れてきた女の人だ!」
住民たちが、スープの香りで盛り上がっている。
あれ、本当に美味しいからな。
ついに出来上がった。
みんな、器を手にしてずらりと並ぶぞ。
「スープの量はたっぷりありますからね。順番に差し上げますからね」
女神官がそう告げて、三人が横並びになった。
ミミズの調理に一段落がついたので、これは他の住民に任せたらしい。
それよりも、スープを全住民に盛るのだという情熱を燃やしている。
これが各地で救貧院をやっていた女たちの心意気だ。
頼りになる。
240人の住民も、三列になると80人ずつ。
素晴らしい速度でスープの配布は終わった。
「うまい!」
「おいしい!」
「いつも食べてるエウゴ菜なのか!?」
「それに香味野菜が加わっただけで、こんな味に!」
「すげえ、野菜のスープすげえ」
みんなが感心しているのだ。
女神官たちはニコニコ。
心の底から、人々に今日の糧を提供できて嬉しいのだろう。
裏表がない。
そういう人々だ。
「たった一つの行いが邪教認定されてしまうというですね。世の中は無情ですね」
ゼータがなんか大人っぽいことを言った。
そして焼きミミズをサクサク食べている。
「それ気に入った?」
「悪くないです。でも水気がないから、飲み物が欲しくなる味ですよね」
「飲み物が欲しくなるということは……。酒のアテにもいいということか……」
「おじさま、お酒が開発されてから、いっつもおつまみのことを考えてますよね?」
「だってつまみが美味いと酒も美味しくなるんだよ。これは仕方のないことなんだ」
ゼータと言い合いながら、俺たちもスープをよそってもらうために並ぶのだった。
領主と言えど、順番を抜かすようなことはしないぞ。
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