第8話 石碑を探せ
石碑とは言うものの、俺が知っている石とは少々違う材質のようだった。
スベスベしており、内側からの光を透過する。
これならば、発見すれば見間違うことはない。
「ええと、半径500メートルをカバーするわけですから、そうすると……」
ゼータが宙を見て、何か考えている。
俺には思いつかない、いいアイデアでもあるのだろうか。
「おじさま! ひとまず、森の中を直進しましょう! 500メートル……いいえ、半ティタンほど!」
「あの中を直進するのか! まあいいけど。どうしてなんだ?」
「かつてこの島は安全な世界だったはずなんです。それがこうなってしまったのは、石碑の機能が失われたからじゃないですか? だとしたら、石碑が発動したらまんべんなく島は安全になるはずなんです」
「ふむふむ、なるほど。だから、この村の境界ギリギリくらいが範囲になるよう、石碑が置かれていると考えたわけだな」
「そういうことです! おじさまも頭がいいですね!」
「伊達に読書してないぞ」
こうして、再びゼータを後ろにくっつけて森に踏み込んでいくのだ。
「ご無事でー!」
ジムニの声に手を振って応える。
さて、ここからは直進だ。
「底なし沼も沈む前に駆け抜けるからな。しっかり掴まっていろよ」
「はい! これは魔法のおんぶなのでバッチリです!」
原理はよく分からないが、確かに俺が動き回ってもずっと背中にくっついていたもんな。
「よし、出番まではのんびりしててくれ」
「はい! 私がやることもあるかと思ったんですけど、おじさまがやたらと強いので本当にやることがなくてびっくりしました」
「剣術はかなり得意だからね」
「かなり得意という次元では無いと思います」
森の中を、軽快に走る俺。
一歩踏み込んだ瞬間、足裏の感触が底なし沼のそれになる。
そこで、足元に放鷹をぶちかまして、まずは泥沼の表層を吹っ飛ばす。
少しだけあらわになった地面を走り、泥が押し寄せてくる前に駆け抜けるのだ。
「力技ですねこれ! わっ、骨になった生き物!」
「足場になってちょうどいいね」
これらをトントンと蹴って、ジャンプする。
再び地面に降り立った時、背後はまた底なし沼に戻っていた。
周囲の森には、俺達を狙っている怪物たちが多くいたようなのだが……。
俺が沼をぶっ飛ばして中を駆け抜けたので、これを見て度肝を抜かれたらしい。
みんな森から出てこない。
平和的でいいじゃないの。
こうして、一息に1/3ティタンほどを走った。
そして立ち止まる。
「あれ? おじさま。まだ半ティタンではないのではないですか?」
「ああ、それだ。石碑がカバーする範囲は円形なんだろう? だったら、ギリギリ離れてしまうと円と円の隙間の地域が安全にならない。つまりだ。石碑はカバーする地域が重なり合い、隙間がなくなるように配置されていると思うんだよ」
「あ、なーるほど! おじさま、頭いい!」
「伊達に読書してきていないぜ」
二人でわあわあ盛り上がった後、俺とゼータで手分けして、周囲に石碑らしき物が無いかを探すことにした。
明らかに人工物であろう、四角い形をしているのだ。
そのまま残っていればすぐに分かる。
それが見当たらないということは……。
「まず、光を取り込もう。放鷹!!」
周囲の木々を吹き飛ばす!
それに巻き込まれて、怪物たちが『ウグワーッ!?』と散らされていった。
俺達を囲む周囲に、木々の枝葉がなくなる。
燦々と差し込む真昼の日差し。
後少しすれば、傾き始めるだろう。
つまり夕方だ。
俺も腹が減ってきた。
さっさと片付けたいところだ。
「んーっ。どうでしょう。私の感覚だと……あっちの方から感じますけど」
ゼータが見ているのは、俺達の右手側。
背の低いツタが絡まり合っているところだ。
ツタ植物が寄り集まって樹木のようになっていたのだろうが、放鷹で破壊してしまったので根本のツタが剥き出しになったというわけだ。
「どれ、じゃあ剣で散らしてみるか」
「おじさま、さっきのはなしですよ? 威力が大きすぎます。もっと繊細な剣を使って下さい」
「なるほど、放鷹だと石碑ごとぶっ壊す可能性があるわけね。では……飛燕!」
飛ぶ斬撃で、細かく削り取っていく。
ツタを幾重か剥ぎ取ると、それらは茶色に枯死したものへと変わった。
半分は土と同化している。
枯れた植物は、この森の中ではすぐに分解されて土になっていくのだな。
そして、土の部分を細やかに吹き飛ばしていく……。
「おじさま、近くで剣を振るえばいいのではありませんか? どうして距離を取っているのです?」
「それはね。俺が今まで読んできた物語では、こういうポイントポイントで、どでかい邪魔者が現れるからなんだよ。物語の節目を締める、言わばそこのボスだ」
俺の予想通りだった。
吹き飛ばされた土の中から、うっすらと石碑のシルエットが見え始めたかと言う頃。
ツタをかき分けながら、巨大なシルエットが出現したのだ。
『フシュシュシュシュシュシュ』
地面そのものが起き上がったかと思うほどの大きさ。
そいつは扁平で、地に伏せていたのだ。
そしてツタは、こいつの体から伸びていた。
起き上がった怪物は緑色の体を、ぐんと裏返らせた。
真っ赤な色に染まる。
こいつは……花だ。
巨大な花の怪物だ。
花弁の中央に口がついており、無数の牙がガチガチと打ち鳴らされている。
「おじさまー! かなりあれ、大きいんですけど!」
「大丈夫大丈夫。姿を現してくれたということは、倒せるってことだから。ゼータ、俺が戦っている間に、石碑の起動を頼む。このままぶっ倒してもいいが、ありゃあ倒しても倒しても再生したり、本体が根の部分だったりとか大変面倒くさそうな怪物だ」
「おじさま、博識ですねえ! 確かに、石碑を起動してこの辺りを安全にしてしまえば、昔の環境が蘇ります。そうしたら、今の森で育ったあの怪物は、本領を発揮できなくなるでしょうし」
「だな! っと!」
伸びてくるツタを、次々に切り払う。
先端に生物の肉を食いちぎる、牙付きの口が生えているな。
「それであいつはなんなんだ?」
「私、ちょっと思い出したかもです。あれは、クリーピングヴァインです!」
『キョキョキョーッ!!』
その名を呼ばれ、クリーピングヴァインは高らかに雄叫びをあげるのだった。
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