第78話 見せよ、大地母神教団の底力(料理パワー)
「我々は男女のまぐわい以外にもいいところがたくさんあるんですよ」
「どうしたヒャクシ、堂々と俺の家を訪れたかと思ったら、やぶからぼうに」
「ここは領主様にプレゼンをして、私たちの存在意義をアッピールしておこうと思いまして」
「君難しい言葉知ってるね」
あまり文化的な物言いを知らない民が多いから、難しい言葉遣いを聞くとびっくりして嬉しくなってしまうんだよな。
「俺は機嫌が良くなったので、何でも言ってみなさい。できる範囲でかなえてあげよう」
「えっ!? チョッロ」
「なんか言った?」
「あ、申し訳ございません今室温が一気に下がった感じがしました私まだ死にたくないです」
「あんまり失礼なことを言うもんじゃないからな?」
「はい……。それで本題に行っていいですか? 行きますね? 実は先日、子どもたちが大挙して大地母神の神殿を訪れまして」
「あっ、倉庫の一つを改造して神殿にしたんだっけ? みんなそこで雑魚寝してるんでしょ? そこに子どもたちが……。いっけね、あの転送装置開きっぱなしだったわ」
子どもたちが大地母神教団を!
これ、大陸でそんな話が流れたら大騒ぎになるからな。
だが女神官たちは基本的に成人男性しか相手にしないんだぞ。
「はい。お陰でかわいいお客様がいらっしゃいまして。彼らに、私たちは腕によりをかけた料理を用意したんです」
「おお、料理を! 何を出したんだ? この領地で作られてる食べ物は色々教えたと思うが……」
「焼肉です!!」
「やきにくぅ~っ!?」
俺は衝撃を受け、座っていたというのにひっくり返るところだった。
こ……この女司祭、何を言っているんだ!?
肉、しかも焼肉だと……!?
ルナス領ではまだ、肉食は発達していなかったはずだが……。
「肉はもしかして」
「はい。私たちで未開の大地に繰り出しまして、死闘を繰り広げて肉を確保しました」
「あーっ、大地母神の神官は普通に強いんだった!」
そう、強いのである。
一人ひとりが不老の化物みたいなやつで、敬虔な大地母神の信者であり、健全な肉体に性的な力が宿るを合言葉に日々肉体を鍛錬している。
戦闘力と、信仰をベースにした魔法と、そしてチームワーク。
これこそが大地母神教団の強さなのだ。
だが、彼女たちは産んで増やして地に満ちたいだけなので、戦いで人を殺めることはしたがらない。
だから大人しく追い出されるわけだな。
ただし、標的が人間でなかった場合は、彼女たちの強さがいかんなく発揮される。
「何を狩ったの?」
「巨大モグラでしたね。巨大ミミズは料理に工夫が必要そうでしたので。モグラも臭みがある肉でしたので、薄切りにしてから私たちが発見したハーブをまぶして焼きました」
「ハーブまで発見した!?」
あまりの衝撃に、今度こそ俺は後ろに転んだ。
こ……この女たち……、あっという間にルナス領の食文化を進化させてしまった……!!
そもそも、ハーブがあったことが驚きなのだ。
そんなもんあったか……?
いや、俺には雑草とハーブを見分ける目がないだけだと思う。
生まれて初めての焼肉をご馳走になった子どもたち。
最初は抵抗があったようだが、女神官たちが美味そうにガツガツ食べるのを見て、試しに口に含んでみたらしい。
そうしたら、癖のある味だったが思ったより美味しかったとのことだった。
そうかそうか。
ゲテモノの肉だったから、肉食にハマるまではいかなかったか。
「じゃあちょっと俺も覗きに行く……」
「どうぞどうぞ! 今回は領主様に来ていただいて、私たちの料理の有用性を村に広めてもらいたいと思っていたんです。むしろ、救貧院で貧しき者たちを救うことこそが私たちの本分! 決して男女の秘め事だけがメインではないのですよ」
「言われてみればそうだな」
ヒャクシに連れられて、俺が転送装置まで向かっていると……。
なんか新住民の女たちがひそひそ話をしながらこっちを見ているのだった。
「別にそういう事ではないからな? 全く、下手に物を知っているヤツらがいると面倒くさいな。おーいゼータ」
「はいはーい。なんですかおじさま」
「あっ、ランチャーも来てたのか。これから大地母神の神殿に行って美味いものを食うぞ。来るか?」
「行きます!!」
鼻息が荒くなるゼータなのだった。
ゼータとランチャーを連れて行くとなると、俺がいかがわしい目的を持っていないことが分かるのだろう。
女たちはバツが悪そうな顔をして「すみませんでした」と謝ってくるのだった。
基本的に下らない諍いとか許さないからな?
「おじさまは時々本当に怒りますよね。怪物相手には全く怒らないのに」
「あれは悪意と言うか野生だからなー。人間関係の悪意なんか、こんな小さい領地だとあっという間に社会を壊しちゃうからな。俺はその気になったら強権を振るうぞ」
「やりそうですねえ」
「領主様、穏やかな方だと思ってたら、かなり怖い方じゃない?」
ヒャクシがゼータにひそひそ話をしている。
「そうですよー。たまたま人間の目線に合わせて優しくしてくれているだけで、調子に乗ったら跡形も残らないですからね」
「ひぃー。せめて美味しいものを食べてもらって、私たちの有用性を実感してもらわねばならないわね……!」
「たくましいですねえ。それで美味しいものって?」
「焼肉だったんだけど、そこのおサルさんは菜食主義なんでしょう? だったら……救貧院で数々の貧民を唸らせてきた、私たち独自のスープを口にしてもらうわ!」
「ほほー。楽しみにしていますよ……!」
『ムホホ? ウキャー』
「うんうん、ゼータとランチャーがいてくれて助かるよ。ランチャーは人間の料理いけるのか? やってみなきゃ分からんか。無理だったら言うんだぞ」
こうして俺たちは大地母神の神殿という名の、港湾施設倉庫へ。
ルナス領の料理を進化させてしまった彼女たちの腕前を拝見することになるのだ。
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