第76話 女神官が出てきたぞ
難破船はかなりボロボロになっているのだが、見た感じ船そのものは新しい。
さっきの嵐に出会い、めちゃくちゃになってしまったくさいな。
「中身はみんな死んでいたりしないか?」
「可能性はありますね、それ」
「わーっ、あたし大量の死体とか見たことないんですよ」
「モネちゃんがウキウキしてます」
「ウキウキしてはいかんものだぞ。まあ俺は大量の死体を作る側だった時があるので偉そうなことは言えないのだが」
談笑しながら階段を下っていく。
金属製の階段はしっかりとしていて、実に歩きやすいな。
というかもともとこの船を構成していた木材が、ほとんど金属に置き換えられてないか?
なんで金属の船が海に浮いてるんだ……?
沈まないの?
こわ……。
「おじさまがまた余計なことを考えてます」
「俺は黙っていると脳内で一人会議を開始してしまうんだ。だから孤独に強いぞ」
「かわいそう」
ラビハはなんか同情をにじませた声で呟くのをやめなさい。
船底まで降りきると、難破船がよく見える。
船内だというのに照明があり、暗くないからな。
「どれどれ、船を破壊して中身を取り出してみよう」
「おじさま、気をつけないと中までバッサリ行きますからね」
「大丈夫、上だけちょっと剥ぐから……。飛燕!」
バシッと斬撃を飛ばして、破壊された外壁の一部を切り取ってみた。
そこまで登って覗いてみると……。
「ひいー、光が! 光が突然!」
「何が、何が起こったのですか!」
「おお神よ、私たちに助けの手が差し伸べられたのですか!? それともトドメを刺しに来たのですか!」
「なーんかわあわあと騒いでるんだよな」
凄く賑やかな声が聞こえるのだった。
どうやら中の人は無事らしい。
壁をざくざく斬って行くと、船の中からこぼれ落ちるように女たちが転がり出てきた。
「あひー」
なんと情けない声をあげるのだ。
そして彼女たちを見て、俺はハッとした。
「あっ、お前ら、大地母神教団か!」
俺の声に、女たちもハッとした。
「司祭様! こいつあたしたちを知ってます!」
「もうだめだー! 新天地を探すのも失敗だー!」
女たちの代表らしき、金髪の大柄なやつが立ち上がって天を仰いだ。
「なんということでしょう!! ちょっとばかり、地に満ちようとしただけで国を追われた私たち!! 殿方は複数を相手にできるのですから、ちょっと寝取るくらいいいじゃないですか! おお、血も涙もない世界です! 皆さん、祈りましょう! きっと大地母神は私たちを見捨ててはいません!」
「ああ~」
祈りだした。
「なんですかこいつら?」
ゼータがきょとんとしている。
ラビハも首を傾げているな。
うんうん、二人には難しいよな。
モネは完全に理解したようで、背伸びして俺に耳打ちしてきた。
「もしかして……他人の旦那さんに手を出す常習犯だったから国を追われた人たちですか?」
「そうだぞ。大地母神教団は基本的にちょっと特殊な性癖の女たちで構成されている。まあ、子どもを作ることに成功すると落ち着くんだがな。アースユニ王国でも、邪教として排斥されていた。明らかに世の中に不安をばら撒くからな。主に夫婦仲のみに」
「うわー。でも、うちの村だと問題なくないですか? 生まれた子どもはみんなで育てますし」
モネがポロっと漏らした言葉を聞いて、女神官たちが一斉にこっちを見た。
うわーっ。
ろくでもない気付きを得たな?
なお、ゼータとラビハはまだ理解していない。
まだ早いもんな。
金髪の司祭の女が、俺のところまでダーッと走ってきて一瞬で跪く態勢になった。
そして俺を見上げながら、
「あなた! この巨大な船の持ち主で、権力を持った方だとお見受けします! どうか! どうかこの、寄る辺を失った哀れな信徒たちに安住の地をお与えくださいませ! どうか! どうか~!」
「うーん」
俺はちょっと考えた。
女神官たち全員がははーっとひれ伏している。
大地母神教団は、生き残るためならなんでもする。
プライドなどというものはない。
何せ、信仰の大本である大地母神からして、命を礼賛する神だからな。
「普通の国であれば、お前らがいると家族とか国の規律が乱れる。よろしくないことになるだろう。だが、うちは今絶賛人を増やし中だ。それにお前らはやたらと体つきがしっかりしてるから働けるだろう。そして大地母神教団は、子を生んだ女を癒す術に長けていると聞く」
「はい!! それこそが私たちの信仰の見せ所!! もしや、あなたの土地で子が生まれるのですか? す、す、す、素晴らしい!! ぜひ赤児の誕生を手伝わせてください!!」
鼻息が荒い!
演技ではなく、新たな命がたくさん誕生しそうと言う話に興奮しているのだ。
そして俺も、この一言が決め手になった。
「よし! 受け入れよう! 俺の領地に混乱をもたらさない限りは滞在を許すぞ!」
「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございます~!! みんなー!! 私たちの安住の地ができたわよーっ!!」
「うおおおおおおおお!!」
盛り上がる女神官たちなのだった。
なお、彼女たちの数は女司祭を含めて十名。
他の乗組員はみんな嵐で死んだらしいが、生き残った彼女たちは生命を操る魔法に長けているそうだ。
それで我が身を守ったんだな。
ルナス領では、医療関係が心もとなかったのだ。
これで、そっち方面が大いに満たされるに違いない。
あと、こいつらは妊娠してようが臨月だろうが、迅速に行動するからな。
俺は彼女たちの逃げ足を噂に聞いたことがある。
つまり、何があっても働ける労働力としても期待できるということだ。
「よしよし! じゃあついて来てくれ。村のみんなに君たちを紹介しよう! ところで君は」
「はい! 私は当代の大地母神教団で大司祭を努めております。ヒャクシと申します!」
金髪の女はそう告げて、なんか俺に蠱惑的な視線を送るのだった。
やめろやめろ。
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