第72話 大嵐は災害竜なのか
宴会が終わり、ルナス領は日常を取り戻したかに見えた。
だが今、新たなる脅威が我が領土を襲っていた……!!
「遠くにすげえ雲が見える……。嵐が来ますよ、領主様」
「おっ、そうか。ヤバそうだったら言ってくれ。なんとかするから」
「はえ~、流石領主様! でも人間が嵐相手に何をできると……?」
「俺は剣技で嵐を切ったことがあるのだよ」
「えっ」
「おじさまがまた領民を困らせていますね。というかおじさまが悩みのある顔をしていましたが、嵐が問題ではなかったのですね」
「俺は自然現象では特に悩むことはないんだ」
「人間としては恐ろしく傲慢な発言ですね!」
「ゼータがいちいち鋭い言葉で突っ込んでくれるお陰で、俺はどれだけ世間とずれているの認識できるぞ。いやまあ、悩んでることは悩んでいるんだ」
「お役に立てて良かったです。悩みってなんなんですか?」
海から離れて、二人でトコトコ歩きつつ話をする。
「ゼータよ。最近、ルナス領の若い女たちを見てどう思った?」
「どうって……お腹の大きくなった人が増えましたよね」
「そう、それだよ。なんと30人!! それだけの数が今妊娠していて、子どもが生まれることになるんだ。つまり30人の領民が増える。これは素晴らしいことだ!
だが引き換えに、しばらくの間30人以上の労働力が消えるのだ!」
「あー、そういう!」
ゼータがポンと手を叩いたのだった。
「確かに、ルナス領は凄い勢いで拡大しましたからね。まだまだ開拓できる島なのに、この頭数だと現状が限界ですし」
「だろ? そこに30人の欠員が出ると、例えば伐採なんかはしばらくお休みして、他の畑に人員を補充せねばならない」
わいわい話をしていたら、モネがやって来た。
「えっ? 赤ちゃんは生まれるギリギリまで仕事しますし、生まれてからすぐに仕事に復帰するもんでしょ?」
「なにぃ」
「おっと価値観の相違!」
俺とゼータ、大いに驚く!
そうか、ルナス島はギリギリの感じで生き延びてきたから、死なない限りは全部労働力だったのか!!
これは盲点。
王都の恵まれた意識で世の中を見ていたようだ。
「だがそれはそれとして、以前より少しだけ妊婦と赤ちゃんに優しい世界を目指したいところだな。母体も乳幼児も死亡しないまま、領民として補充されるのが最も望ましい。そうなると……医療が足りない……」
「機械的判断~!」
どこかからまた移民が降ってこないかなーと思う俺なのだった。
「殿下、殿下。嵐が来ますぞ」
「ああ、来るっぽいな」
ジムニに声を掛けられた俺だ。
そう簡単に移民は来ないということで、考えを切り替えることにした。
明日は明日の風が吹く!
きっと明日の俺は何かいいアイデアを思いついているに違いない。
「あっ、話題を投げましたね? ですが解決のしようがないことをうじうじ考えるのもよくないです。ナイス判断と言っておきます」
ゼータもトコトコついてきた。
「殿下、嵐を切ったことがあるとおっしゃいましたが、それはどのような感じでしたか?」
「おう。凄まじい嵐が王都を襲ってな。それに乗じてマルサイ兄上は反乱を起こしたのだが、まあこの嵐が城下に大きな損害をもたらした。俺はこりゃいかんということで外に出てだな。吹き付ける暴風は剣で切り飛ばせるだろ」
「ジムニさん、おじさまが変なことを言っていますが突っ込まずに聞いてあげてください」
「ほっほっほ、分かっとるよ」
「それで、嵐の中心が王城に差し掛かったんだ。そしたら、嵐の中で猛烈な勢いで回転してるヤツがいたんだよ。目が合った。なので、そいつの首を切り落としたんだ。そうしたら嵐が消滅した」
「災害竜ですぞ!」
ジムニが急に興奮した!
大丈夫か!?
体に悪いんじゃないか!?
「どういうことだジムニ。深呼吸して落ち着いてから話してくれ」
「はい……。すーっ、はーっ、すーはー。落ち着きましたぞ。つまりですな。嵐というものは災害竜が引き起こすものだと昔から言われてきたのです。ですが、恐ろしい嵐のさなかにそれを見上げる者などおりますまい。誰も、災害竜そのものを視認することはできなかったのです。ですが……殿下はそれを見て、あまつさえ、退治してのけた。これは……嵐は止めることができるという証明なのです!」
「あ、そういうこと!! そうかそうか、みんな嵐は止められないと思ってたんだな……。知らなかった」
「おっ、怪物が人間の感覚を少しずつ知っていくような状況ですね?」
「結果的にそうなってしまっている。俺は一体どこに到達してしまったんだ」
とりあえず、これからルナス島に大きな嵐がやって来るという。
俺はこれの様子を見て、規模が大きくて被害が出そうなら止める事にした。
嵐は悪いことばかりではない。
雨がたくさん降るし、空気をかき混ぜて季節を変えてくれたりする。
だから、よっぽどのことが無ければ、俺は嵐を見逃してやっているのだ。
だが、ルナス島に関してはこれが当てはまらない。
何せ、この島は常夏だから季節などない。
そして、スコールがよく降るので水に困っているわけでもない。
嵐はお邪魔なのだ!
「よし、八つ当たりというわけではないのだが、嵐がやって来たら切ろうと思う。俺が決めた。そう決めた」
「おじさま、最近領主らしいことをし続けていたから、フラストレーションが溜まっているのですね」
「ハイザット様も大変だなあ」
モネがしみじみ呟く。
そう、大変なのだ。
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