第71話 宴の後
残った酒を飲みながらまったりしている。
ジムニも弱い方の酒をちびちびやりながら、
「いやあ……実に、実に楽しかった! まさかこの島に来て、宴会ができるとは思ってもおりませなんだ。これで心置き無くいつでも死ねますな」
わっはっはと笑った。
「それは困る! 俺はまだ、ジムニにはやって欲しいことや教えて欲しいことがたくさんあるんだ。後は持ってる本の読み解き方を誰かに伝授してから死んでくれ」
「殿下はこう、正直すぎるきらいがありますな……!」
すまんな。
隠し事とかあまりできない性質でな。
「まあ、私も殿下のお子を見るまでは死ねぬと思っておりますが、そう遠くないのでは?」
「バカな、相手もいないのに。酒の席だからと言って俺を乗せようとしてもそうはいかんぞ」
「そこで酔いつぶれて、殿下の膝に足の裏を乗せて伸びているモネがいるでしょう」
「あ、こいつな! 俺、仮にも王族なのにすげえよこの態度。なんか最初からこの女、俺に対する敬意を感じなくて毎度毎度びっくりするんだよな」
「それくらいがちょうどよいでしょう。必要以上に殿下を恐れず、かと言って無鉄砲でもなく、多少は人並み外れたところがあり、基本的には善良。良い娘ですぞ」
「言われてみるとそんな気がしてきた……。だが子どもを作ったらジムニが死ぬだろう」
「わっはっは」
「笑って誤魔化したな」
とにかく、ルナス領の賢者が死ぬ前に色々対策を建てていかねばなるまい。
俺は酒を飲みながら考えるのだった。
やがて、寝転がっていた村人たちがスッキリした顔で起き上がってきた。
みんなめいめいに、さっきの宴がいかに楽しかったか、新しいものに満ちていて、刺激を受けたかを語り合っている。
そして俺にペコペコと頭を下げて、その日の仕事に戻っていった。
勤勉な人々だ。
「殿下が結婚か! こりゃあいい!」
「俺等も式には呼んでくださいよ!」
「豪華な式にするには、また色々準備しなきゃですねえ」
リック船長とディア兄弟が色々言ってきた。
「随分先のことになるぞ。それまでずっと島に残ってるつもりか? そろそろ先立つものがないだろ」
「それが実は、この島にいると金を使う場所が存在しないので、俺たちの懐は全く寒くならないんだよ」
「言われてみれば……!!」
自給自足の島だった。
こいつら、畑や漁を手伝いながら、島に居着いてしまっているんだよな。
住みよくなったもんで、下手に大陸に行くよりもずっと過ごしやすいらしい。
「しかも音楽がやって来たじゃないですか。こりゃ、俺達も楽器を作ってもらって船乗りの歌を聞かせるしかねえな兄弟」
「おうよ。船乗りの楽器といえば……楽器といえば……なんだ?」
ディア兄弟の方はちょっと酒が回ってて考えがまとまってないな。
だが、彼らもまた大陸の分化を知る人間たちだ。
領地に取り込んで、文化を吐き出させるべきだろうな。
さあ、食べるものも全て食べ、酒も全部飲んだ。
「よし、俺はヤグラを解体するかな」
「殿下、あれだけ飲んで全くフラフラしてねえのはすげえな……」
「ほっほっほ、殿下は他の男たちとはモノが違うからな」
驚くリック船長に、ジムニが何故か自慢げだ。
まあ、酒には強い方だからね。
あと、酔っ払ってても剣の腕はさほど鈍らないんだ。
「双飛燕!」
門の下に立って、飛燕を双方向に同時に撃ち出した。
二つのヤグラが一瞬で粉砕され、バラバラに崩れ落ちる。
これで薪にもしやすいだろう。
後は門だが……。
「すみません領主様! 門なんですが!」
やって来たのはジェイドとメスタだ。
「これ、このまま残すわけにはいかないですか?」
「村のシンボルみたいな感じで残して、いつでもここで歌う場所みたいにしたいんです」
「えっ、この門を!?」
俺は門を見上げ、周囲を見回した。
明らかに、村の他の建造物よりも大きく、そして門扉すらない三本の丸太を組み合わせただけの簡素な門。
これをシンボルに!?
「いや、別に構わないが……。本当にこれをシンボルにするの? そうなの? じゃあ任せるけど」
「殿下が不思議そうな顔してるぜ」
「ああ見えて常識的なお人だからの」
「あれでいて、常識外れな敵が出てきたらサクッと片付けるんだもんな」
「相手が理外の輩の方がやりやすいのだろうな。そういうお方だ」
なんか色々言われてるなあ。
戻ってきたら、足元にモネがいてむぎゅっと踏んでしまった。
「むぎゅう」
「あっぶね! ずっと転がってるの危険だな! ちょっと家に寝かせてくる」
「いってらっしゃーい」
「仲良くするのですぞー」
そういうことはしないよ!
俺はモネを担いで家まで行き、床に転がしておいた。
よし!
ここなら危ないことは無いだろう。
そして外に出る。
何故か遠くから、船長とディア兄弟が猛烈にブーイングしてきた。
うるさいぞ!!
さて、ゼータがちびどもと何をしているのか見に行くとするか……。
ターミナルに向かうと、漬物の残りを巡ってブルーキウイたちが走り回るとんでもない状況になっていた。
なに?
レースしてるの?
「おじさま! 今私たちの間では、ブルーキウイレースが熱いんです!」
「お、俺が知らない間に、島には全く新しい娯楽が誕生していた……!!」
宴の終わりに、俺は新たな衝撃を受けるのだった。
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