第70話 ルナス領初の演奏会
まずは前奏。
軽快なメロディが打って代わり、ほろ酔いの住民たちの心を穏やかにさせるような、そんな優しい音が流れてくる。
なんというか、潮騒みたいな感じだな?
ゆらゆらと揺れ始める元の住民たち。
なんか気持ちよくなって来ちゃったな?
「音楽ですねー。凄く穏やかな感じですけど」
「これはな、音楽というものにそもそも慣れていない住民たちを、いきなりアゲアゲの愉快なダンスできるやつでびっくりさせたら大変だろ? 受け入れやすいところからスタートしたということだ」
「ほえー、色々考えてるんですねえ! 流石は楽士……」
「実は俺が入れ知恵している」
「えーっ、おじさまが?」
こういうのは俺が詳しいからね。
楽士だと、音楽の可能性を信じていきなり俺の考えたいい音楽を聞かせちゃったりする。
だけど、そういうのはあまりにも難解なんだな。
本と同じで、色々な要素を知っていることを前提にしたものは、仕上がりは素晴らしいだろうが初心者には届きにくい。
だから順を追って音楽を分かってもらう必要があるわけだ。
「あっ、年嵩の住民さんは寝ちゃいました!」
「いいのいいの。ほろ酔いに気持ちいい音楽で眠くなるのは自然自然。それくらい、この音が彼らに受け入れられたってことだから」
俺はメスタに大きく合図した。
彼はちらっとこっちを見て頷いた。
「今、何の合図をしたんですか?」
「そろそろ仕掛けろ! だ。初心者向けは大事だが、それはそれとしてここまでルナス領を盛りたててくれた新住民たちを労うのも大事だからな! それに……祭りと言ったら愉快な音楽だろ!」
「えっ!? さっきと言ってることが」
「君子は豹変すというだろうが」
「なんでおじさまがその言葉を知ってるんですか!? この世界の巡りには存在しないはずの言葉なのに! というか使い方おかしくないですか!?」
「いいのいいの」
段々と音楽の毛色が変わっていく。
寄せては返す波のようだった音楽が、最初のような軽快でリズミカルな音に変わった。
まだ起きている住民たちが、びっくりしてメスタを見る。
メスタは立ち上がり……。
「さあ、ここからは盛り上がって参りましょう! 知っている方は歌っても踊ってもよろしいです。初めてご覧になる方は、やってみたくなったらご自分でも体を動かしてみて! 楽しんで行きましょう!」
来た!とばかりにテンションを上げた新住民たちが、次々に立ち上がる。
食器を蹴倒さないようにぞろぞろと移動して、ヤグラの一つの周辺へ。
ヤグラの上には、本来打楽器なんかを設置して、誰かがドンドコ叩いてリズムを刻んだりするらしいのだが……。
初の宴会である今回、そこまでやれる余裕は無かった。
いや、余裕は設けていたんだが、テンションが上がった領民たちがヤグラを二個作ってしまったので、そこで余裕が消えたのだ!
次からは一個にしようねえ。
流れ始めた、軽快でリズミカルな音楽。
それに乗せて、メスタが歌い出した。
歌い方というものをきちんと分かっている、プロの歌声だな!
異国のリズムなんだが、なんとも心地よい。
新住民たちは、これに合わせてステップを踏み、肩を組んで踊る。
中には声を合わせて合唱し始めてしまう者も。
元の住民たちはびっくりだな!
「いやー、びっくりですねえ」
「モネは全然驚いてない風では?」
「いや、驚いてますよ? でもこう、お酒というのがいい感じで体の中でぐるぐるしてて、心の底からびっくりすることはないと言いますか……」
「酔っ払ってるなお前。よし、俺も踊ってこよう」
「ハイザット様がんばれー」
「ラビハもラビハも!」
「じゃあ私も」
「おれたちもー!」
ゼータと子どもたちが参加だ!
音楽に合わせて、めいめい勝手に適当な感じで踊るぞ。
まあ、祭りなんてのはそんなもんでいい。
今は振り付けだとかそんなのを考える必要なんかないのだ。
俺もわちゃわちゃと楽しく踊っていると、元の住民たちも一人、また一人と立ち上がった。
こっちにやって来るぞ!
みんなめいめい勝手に、適当にデタラメに、しかし楽しく踊りだす。
元の住民からすると、生まれて初めての音楽に乗った踊りじゃないだろうか?
そうしたら、メスタがウクレレを奏でたまま、板の上に載せられて担ぎ上げられた。
こっちに運ばれてくる。
そして、櫓の上に……!
なんか祭りになってしまった。
酒とつまみと音楽!
この豊かさが、住民たちをトリップさせている。
この場はまさに非日常!
そして何よりとんでもないことなのだが……。
まだ!
昼なのである!!
めちゃくちゃに盛り上がっているが、ルナス領はようやく昼を回った辺りなのだ!
みんなでめいめい、音楽に乗って歌って踊ってわいわい騒ぐ。
およそ30分も続けていると、元の住民たちが疲れてきて座り込み始める。
ここでアップテンポなダンスが終わり、またゆったりとした波の音のような音楽が流れ始めた。
新住民の女子達が、故郷の踊りなのであろう、波のように揺れる踊りを見せて俺たちの心を和ませる。
いいものだなあ。
「あれはあたしもできそうー」
「モネも教えてもらえばいいよな」
「うんうん、覚えてたら教えてもらう……。今はもう、眠い……」
酒の力である誘眠効果が発揮されているな。
ゆったりとした音で、次々に撃沈していく元の住民たち。
薄めた酒とは言え、初めての酒精は堪えたようだな!
だが、あの量なら二日酔いにならないだろう。
夕方ころに目覚めて仕事を始めるに違いない。
「よし、ではこれにて、宴は終了! あとはめいめい楽しんでくれ!」
俺の宣言で、ルナス領の第一回宴会は終わるのだった。
なお、まだまだ元気いっぱいの子どもたち。
ワイワイとターミナルへ飛び出していった。
むしろ、いつもよりも良い物を食べてエネルギーに満ち溢れているかも知れないな……!
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