第69話 始まる宴会
ついに当日だ。
今日のために、領民はせっせと働いた。
たくさんのつまみになる食料を作り上げ、今日一日はサボっても明日、明後日飢えないくらいの蓄えを行った。
さらにさらに、新しい食材を手に入れてからせっせとそれを料理し、蓄える……。
酒が生まれ、宴を盛り上げる建造物が次々に建立され……。
ついに今日という日を迎えたのである!
ターミナルの端でずっと音楽を奏でていたメスタは、宴会用の愉快な曲を作り上げたらしい。
楽しみだ。
酒と音楽が無ければ、宴会は始まらないからな。
呑兵衛夫婦が得意げに、壺を運んできた。
他の領民たちは首を傾げながら、彼らの指示に従って大量の壺を持っている。
うちの領地は、お客様なんてのはいない。
全員が動き、全員で準備するのだ。
240名の領民と、俺とゼータとラビハとジムニとモネ、そして何故かまだいる、リック船長とディア兄弟。
全員の前に大量の漬物と干物とパン、そして盃が設置される。
水は井戸からフリーで汲んでくる方針だ。
「この盃……まさかな……?」
リック船長、鋭いな。
「そのまさかだ。さあ、俺が島を駆け回って探索し、手に入れたもので作られた酒を飲んでもらおうか」
盃に満たされるのは、飲酒経験がある人間用の濃いめの酒だ。
アレコ酒は乳白色で、甘い芳香を漂わせている。
なお、飲酒経験がない人たち用の酒は薄めているので、かなり透明に近い色合いになっている。
皆が席につき、眼の前にある見たことのない飲み物、そして初めて見る漬物に目を丸くしている。
「こ……これは……」
「とんでもない数の食べ物だぞ!」
「なんだこれは……なに……?」
元の住民たちは驚いているな。
「これが宴だ。そして、俺がやることをそのまま真似してくれ。こうして盃を手にして、ちょっと高めに掲げて……こぼすなよ? 貴重な飲み物だからな? えー、ごほん」
「おじさまのちょっといいとこ見てみたいですね」
「ハイザットさんがんばれー」
「ハイザット様、やっぱり領主様なんだなあ」
「うむ……殿下、ご立派になられて……」
これが叙事詩ならクライマックスなのではないか?
そんな盛り上がりを見せつつ、俺は領民たちに声を発した。
「これまで、みんな一丸となってルナス領を大きくしてきた! みんなの働きは素晴らしいものだった! 俺はみんなを尊敬しているし、感謝している! だからこれは、俺からみんなへのお礼と……そして新しいルナス領の始まりを告げるイベント……宴だ! さあ、飲み干そう! これは酒! ルナス領に新たな時代をもたらす飲み物だぞ。行くぞー! かんぱーい!!」
新住民たちは、みんな「乾杯!!」と唱和した。
元の住民たちは驚き、少しだけ逡巡してから、次々に「か、かんぱい!」「かんぱーい!」「かんぱいっ!」と声をあげた。
そして、盃の中身を飲み干していく他の者たちを見て、真似をする。
「凄い香りだ!」
「甘い……!」
「喉が熱い!」
「腹がカーっとなって……!」
「なんだろう? 不思議な気分だ……」
なお、ゼータとラビハと子どもたちはアレコを絞ったジュースだ。
これはこれで濃厚な甘さで美味しい。
「あまーい!」
「うまーい!」
「すぐ飲んじゃったらもったいない!」
うんうん、絶賛だ。
モネは贅沢にも両方を並べて、お酒をちょっと飲んで、ジュースもちょっと飲んでいる。
「どっちも取るとは……」
「あたしは体が大きい分、飲み物もたくさん必要なんですよー。おいしー!」
いい性格だなあ。
酒だけでなく、クアットロや、みずみずしい野菜の漬物も大好評だ。
食べたことのない風味と歯ごたえ。
それぞれ、そこまで強い個性がない味だから初めてでも食べやすかろう。
それに、酒に合う。
「うーむ、美味い……。干し魚と合わせるとまた美味い……」
ジムニがしみじみ呟いている。
リック船長はなんか感動したようで、一口飲んでは空を見上げてジーンとしている。
「どうした船長」
「いやな。殿下をここに運んでくるまで、この村はやせ細っていつ滅びてもおかしくないような場所だったんだ。そこがどうだ? こんなに豊かになって、みんな肌艶も良くなってな。初めての酒を飲んで、驚き笑っている。おいおい殿下……。あんたが王様になったほうが良かったんじゃないのか?」
「よせやい。俺はルナス領くらいの広さがちょうどいいんだ。王をやれるような器じゃないよ。不本意にも剣がちょっと上手いだけのただの男だ」
俺は笑いながら、アレコ酒を口にした。
美味い。
香りは甘いのに、真打のアレコ酒は果実由来の糖分が抜けきり、全てが酒精に変わっている。
素晴らしい香りと、喉と腹を焼く強さ。
こりゃ堪らない。
酒飲み殺しの酒だ。
「おじさまがなんか嬉しそうですね? でも、それだけのことをしていると思います。島に隠された秘密はまだまだ少ししか分かってませんけど、それっておじさまが謎解きより、みんなの幸せを重要視してるからですもんね? 私はいいと思います!」
「今日のゼータは甘口なんだな?」
「ジュースが甘いからですかねー」
彼女はニコニコしながら、アレコのジュースをこくこくと飲んだ。
そんな特別な場で、ずっと控えていた男がいる。
酒もそこそこに、ひとまず完成を迎えたウクレレを構え……。
彼は宴の中心に歩み出た。
「来たな、メスタ! 頼むぞ!」
「承知いたしました! さあさあ皆様! 酒のつまみは食べ物ばかりではなし! 楽しい音楽と、愉快な歌もございます! 酒が回って気持ちよくなったら、共にご唱和くださいませ!」
ぽろーん!
ウクレレが軽快な音を立てる。
凄い!
この間作られたウクレレとは別物じゃないか。
楽士の本気を見てしまったな。
かくしてルナス領に、愉快な音楽が流れ始めるのだ。
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