第68話 宴の最終準備だ
「宴を行う!?」
「ウタゲってなんだ」
「さあ……。領主様が言うんだからいいものなんだろう」
俺の言うことなら疑うということを知らぬ領民たち。
なんというかもう、父親の気分だ。
「いいかお前達。宴というのは、その時間帯は仕事をやめて、ひたすら飲み食いしてお喋りして歌って騒ぐやつだ」
「えっ?」
「歌?」
「騒ぐ?」
「食事中に?」
俺を歓迎してくれた時も、みんなあまり喋らずに飯を食っていたな。
盛り上がる宴というのを知らないのだろう。
「宴の見本を後で見せるからな。では伐採チーム、建築を行う! そこの大部屋を解体し、屋根と柱だけがある宴会場にするぞ!」
うおおおおお!
と男どもが叫ぶ。
「ラビハお仕事の予感? ラビハ活躍~!」
今回の仕事、ラビハが間違いなく肝だからな!
何せ、急造なのだ!
今日作って明日使ってすぐ解体するからな。
まずは、多くの家が完成し、今は使われなくなっている新住民たちのためだった宿を解体するのだ。
わーっと取り付き、粘土をぐりぐり剥がす!
するとバラバラーッと解体される。
「よし、はこべはこべ!!」
『ウキキ!』
『ムキャホー!』
「強い援軍が来てくれたぞ! 猿たちも手伝ってくれるそうだ!」
やったー!と盛り上がる解体・建設チーム。
猿パワーと彼らの機動力は素晴らしく、あっという間に建物は解体されていったのだった。
積み上げられた資材。
そしてジムニが歩み出た。
「この粘土板に、設計図を刻んである! 私も素人に毛が生えた程度だが、これは古代の文献にあったものだ。このヤグラというものを作る!」
おおーっとどよめく一同。
「なるほど、ヤグラか……。さらにこれは一体?」
「これは門ですな。本来は様々な装飾を施すもののようですが、これはしっかりと作り、縁起物なので安置しておきたいと思います」
「いいないいな。みんなで少しずつ装飾していけばいい」
では制作開始ということになった。
ヤグラは難しいから、門から作ろうな、門から。
一番太い柱をガッツンガッツン組み合わせる。
高いところまでは、猿たちがホイホイ登っていって大きな板を置き、これをラビハの糸で固定した。
いいんじゃないか、いいんじゃないか。
「こ……こんな大きな建物ができるなんて……!!」
「建物の形だとそうでもなかったけど、柱っていうのだけ抜き出すと目立つなあ……!」
「村の中央に突然門とかいうのができた!」
ざわついているな。
なお、傍らでは門の斜め後ろにヤグラが組み立てられていっている。
しまった!
どこに建てるか指示してなかった!!
「うわーっ、大変ですぞ! ヤグラが2つ目が建ちつつあります!」
「なんだと!? ほんとだ!! ラビハの糸でくっついちゃうから、思いつきでも作れるんだな!?」
結局、宴会場とされる場所の中央に門、それを挟み込むようにヤグラが誕生した。
これは……これは一体、なんだ?
「混沌ですな……」
「ま、いいか。こんなもんだろ」
「殿下、考えるのをやめましたな?」
「いいんだよ。ほら、なんかみんな楽しそうだし、見てる領民も喜んでるじゃないか」
「ああ、それは確かに……! これほど盛り上がっている彼らを見るのは初めてかも知れませんな」
娯楽が存在しなかった村で、この高速で良く分からないオブジェが出来上がっていくイベントは、凄いアトラクションのようなものかも知れない。
一通り組み上がって、後は細部を仕上げていく段階になった。
途中で崩れないように強度とかな。
ここからは地味な作業だ。
領民たちは、めいめい自分の仕事に戻っていったのだった。
告知はできたし、まあいいだろう。
最後にラビハが糸でぐるぐる補強して、本日の作業は終わり。
あとはみんな、好き勝手に飾り付ければいいのだ。
「ふうー、仕事した。ラビハ疲れた」
「おつかれおつかれ。ラビハのお陰で物凄い速度で建築が進んだよ。長くは使えないだろうが、仮組みが高速になるってのはありがたいな」
「えっへん! ラビハ役立った」
本当にな!
あとは建築チームに任せつつ、俺は漬物蔵へ。
それぞれの漬物を確認していく。
よしよし、いい感じに漬かっている。
クアットロの漬物に、みずみずしい野菜の漬物もいい。
定番のエウゴ菜の漬物もあるな。
どれも、よい酒の友になってくれることだろう。
次に、ターミナルへと向かう。
すでに酒蔵からは酒が運び出されており、呑兵衛夫婦がその濃さを微調整していた。
「どうだ? いい感じの濃さが見つかったか?」
「領主様! ええ。みんな初めての酒でしょう? でしたら酒の刺激が少なく、甘い香りが感じ取れるくらいのバランスがいいと思うんですよね。こんなもんでどうでしょう」
差し出された焼き物の盃。
こんなものまで生産されていたのか!
どうやら、集落の人数分作られているようだ。
酒が収まるくらいの、ごく簡単な作りではあるのだが……。
呑兵衛夫婦が、領民たちに美味しく酒を飲んで欲しいという気持ちが伝わってくるようではないか。
「実はゼータ様がやってきて、子どもたちと一緒に盃を作っていってくれたんです」
「なんと!! ちょっと見ないなと思ったら、縁の下の力持ち的な仕事をしていたとは……」
話をしながら、差し出された酒を飲んでみた。
おっ、かなり薄まって、まろやかになってる。
「いいんじゃない? あまり強くもないけど、口に含むと甘い香りが広がる。こりゃ美味いよ」
「ありがとうございます! では、当日はこれで!」
「ああ。準備は整った。宴会が楽しみだな!」
こうして、ルナス領大宴会の日がやって来るのだった。
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