第66話 楽器的なものの完成
「ラビハ呼ばれた」
「来た来た。楽器の弦を作ってほしいんだ」
「ラビハの糸で、楽器の弦を!? いきなりとても難しいことを言われた!」
やって来て早々、考え込むラビハなのだ。
だが、ここには楽士のメスタがいる。
「弦の感じは僕が詳しいです。体の一部になるほど触ってきた楽器ですから。糸さえ出してもらえれば、強度とか張り具合はこちらで伝えられますから」
「分かった。ラビハやってみる」
作業が始まったぞ。
楽器の箱の部分は急造ではあるが完成。
そこに弦を張る作業が今というわけだ。
ラビハは生み出す糸の太さ、張り、頑丈さをコントロールできるらしく……。
「あまり硬すぎると楽器が壊れちゃう。柔らかいと引いていて切れちゃう」
「そうですね、これくらいの強さがいいかも……」
「分かった。その糸をたくさん出す!」
作業が進んでいくのだ。
俺とゼータで、感心しながらこの光景を眺める。
「楽器とかさっぱり分からないからな」
「おじさまは日頃から文化的とか言っていますから、楽器をしたら良かったではありませんか」
「バイオリンをやったらへし折ってしまってな……」
「文化を愛するのに文化を破壊することしかできない悲しきモンスターじゃないですか」
なんて言い方をするんだ。
全然間違ってないけど。
太鼓を叩けば太鼓をバチで切断し、バイオリンをへし折り、ピアノを圧壊させた俺だ。
なんかこう……文化への情熱が籠りすぎて、力の加減が効かなくなるみたいなんだよな。
ナチュラルボーンモンスターかも知れない。
悲しいことだ。
その分、俺は文化人を厚遇することにしているのだ!
頼むぞメスタ!
音楽をこの領地にもたらしてくれ!!
俺の願いがどこかに届いたのか、弦が張り終わったようだった。
強すぎもせず、弱すぎもしない強度の弦がピンと張り詰めており、メスタが軽く爪弾くとポロンと軽やかな音色が飛び出した。
「こ、これは……!」
「不思議な音だ!」
「聞いたことがない……」
弦楽器というものに初めて遭遇する領民たち。
樹木の加工作業をする手を休めて、みんな寄ってきた。
「メスタ、どうだ?」
「はい。ウクレレとは随分違いますし……音の響き方も癖がありますけど。これならなんとかいけそうです」
メスタの言葉が心強い!
頼むぞー!
「では皆さんに一曲。大いなる海の歌」
ポロンポロンと奏で始めた音楽は、確かに波の音のよう。
寄せては返し、やがて高くなり、また引いていく。
それに乗って、メスタの歌声が響いた。
「うるわ~しき海~。寄せては返す波~。潮騒を聞きながら~ハンモックでごろ寝~。近くに成ってるバナナをもいで食べるだけの生活~。毎日が最高~。今日も昼寝したら日が暮れてた~」
おお、なんとも異国情緒漂う歌だ!
俺には分からない言葉だから、メスタが生まれた地域の歌なのだろう。
「割とろくでもないこと言ってますよ」
ゼータ分かるの?
「俺たちの故郷は、ここと似たような温かい島国でしてね」
伐採役の一人が教えてくれた。
「常に平和ってわけじゃなかったんですが、いつもああやってみんなで歌ったり踊ったりして暮らしてたんですよ。懐かしいな……」
その島国は、魔人奴隷商によって滅ぼされてしまった。
もはや存在しない国の歌は、ルナス領で歌い継がれていくことになるのだな。
なお、その魔人奴隷商は俺が滅ぼしたな。
世界はこうして巡っているのだ。
歌が終わり、初めて歌を知った領民たちが呆然として動けないでいる。
どうだ、歌は凄いだろう。
これが文化だ。
俺がこの島に広めたいと思っているものだ。
「ルナス領は、徐々に生活がしやすいようになってきているからな。つまり、腹を満たしやすくなった。家だって技術が上がり、快適になった。服は……まあそのうち新しい素材を探そう! 衣食住がこうして満たされたわけだが」
「おじさま、服は重要ですよ?」
「後でやるって言ったでしょ! ともかく、生存のための欲求が満たされたら、次に必要はのは心の栄養だ。それが文化というわけだ」
領民たちに説明する。
「さっきの歌、どうだった? 良かっただろ。ジーンと来ただろ。あれをみんなが享受できるようにするんだ。仕事をしながら歌って、仕事終わりには火を囲んで踊ったりして、たまにみんなで休んでゆったりしながら、文化に浸る。俺が目指す世界はそこにある」
「ほえー」
「領主様はすごく先が見えてるんだなあ」
「腕っぷしだけじゃなく、考えまで凄いお人だあ」
彼らの言葉には、新住民たちも同意らしい。
「またメスタの歌が聞けるとは思いませんでしたよ。感謝します!」
「いやいや、全ては繋がってるんだ。俺一人だとほんとね、武力制圧しかできないからね。全部誰かに頼らないと作っていけないからね」
ルナス領は、持ちつ持たれつなのだ!
さて、ウクレレのプロトタイプが完成したメスタ。
これを手にして、持ち上げて下から眺めたり、ぐるぐる回したりしている。
「どうしたんだ?」
「僕の知るウクレレに徐々に近づけて行こうと思いまして。試作品をどんどん作って、より良い音楽をみんなに届けたいんです。食べ物にも住まいにも関係がない僕ですが、こうやって音楽に集中してもいいですか、領主様」
「もちろんだ。メスタは妥協無く、音楽を追求してくれ! そしてメスタに、あと数日後に重大な任務を任せることになる……」
「そ……それはなんですか!?」
「酒が完成した後、ルナス領最初の大宴会を開く!! 君はそこで、全領民の前で音楽を披露してもらいたい!!」
「うおおおおおおおおお!!」
文化的な見た目のメスタが、なんか雄叫びをあげた。
目がギラギラ輝いている。
「僕に!! そんな誇りある役割を!? やります!! やらせてください!! 最高に盛り上げてみせます! うおおおおおやるぞおおおおお!!」
「おー、これは期待できそうです! おじさまは士気をあげるのが上手いですね」
「ああ、人間、自分の得意分野で褒められたいもんだろ。なお、俺は得意分野で褒められてもそこまで嬉しくない」
「ひねくれてますねえ」
こうして宴の日ギリギリまで、ウクレレづくりと音楽の調整は続くのだった。
そこまで、ラビハは弦の作成担当だな。
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