第65話 宴には音楽が欲しいよな
「領主様! あちこちで謎の暗躍をなさっていると伺っています!」
「なんて人聞きの悪いことを言うんだ。……君は?」
それは、ほっそりとした男性だった。
いや、細身に見えて腕には謎の筋肉がついている。
剣を握るためのものではない。
「失礼しました。僕は故郷で楽士をやっていた者です。この国には楽器がなく……石や木の板を叩いてリズムを取り、日々を暮らしておりました」
「なんと、音楽で飯を食ってた人間が石や板を叩くしかなくなっていたとは」
俺はショックを受ける。
それは文化を奪われたようなものではないか。
なんてひどい状況だ!
いや、俺の領地なんだけど。
「もしや、俺が音楽も取り戻したいなーなんて言ってたのを聞いた?」
「はい、酒屋の夫婦から」
あの二人の知り合いか。
そう言えば、音楽やってたのが新住民の中にいるって言ってたな。
やはり、新しい血は迎え入れておくもんだ。
様々なスキルを持った人材が出てくるじゃないか。
「俺はな、酒を復活させつつある。呑兵衛夫婦から聞いたと思うが」
「はい。少し前まで、試飲しに行ってべろんべろんになる連中がいましたね」
「そう、それだ。そして酒はもうすぐ、領地の全員に行き渡る量を準備できる。腐らないように強めに作った酒だ。水で薄めて飲むのだが……。これはどうなると思う?」
「領地の皆で酒を飲むのですか。それは……宴ですね!」
「そう、宴だ! 宴となれば何が欲しくなる?」
「音楽です!!」
「そう、音楽だ! 話が早い! 楽器の素材を見つけに行くぞ! ついてこい!」
「はい!!」
「おじさまがすごい速度で話を進めて、新たな目標を見つけましたね」
どこで聞いていたのかゼータがやって来て、俺の背中にぴょんと張り付いた。
定位置というやつだ。
「よろしくお願いしますゼータ様。楽士のメスタと申します」
「これはこれはご丁寧に! ゼータです。おじさまの娘みたいなもんです」
「娘じゃないぞー!」
「それでメスタさんはどういう楽器がメインだったんですか? 打楽器ですか?」
「弦楽器です。僕のいた国では、ウクレレというこういう小さめの弦楽器があり、情緒的な音も軽快な音も奏でられたんです。僕はウクレレのちょっとした名手でした」
「なるほどー! おじさま! おじさま! ウクレレを再現するんですよ!」
「うん、話は聞いていた」
小さめの弦楽器か。
それはかなりの精度が要求されるんじゃないだろうか?
本体は作れたとして、弦はどうする。
「弦はラビハちゃんの糸を使いましょう」
「あ、その手があったな! よし、弦は解決! 本体だな」
「話が早い! やっぱり領主様にお願いして正解でした!!」
メスタが感激している。
なに、我が領地たった一人の楽士なんだ。
これほど文化的な存在を、全面的にサポートしなくてどうする。
材木が立ち並ぶ森にやって来た。
すでに切り出された木材が積み上げられており、水気を抜いてある。
そうなんだよな、これまでの材木は水を抜いたりしなかったのだ。
すぐ使って組み立てたから、後から木が縮んだりして隙間だらけになる。
そこに後先考えずに粘土を詰め込んで固める。
そういう作りをしていたのだ。
これからは、もっと精度を高く家を作っていけることだろう。
……と、いかんいかん。
今回はウクレレを作りに来たのだった。
「おや領主様! それにメスタじゃないか。どうしたんだ? ……ま、まさか」
「そう、そのまさかだ! 領主様が僕のためにウクレレを用意してくださる!」
「なんだってー!!」
どよめく新住民たちなのだった。
なお、もともとの住民は音楽というものをほとんど知らない。
子守唄くらいが継承されているようだが、中身は曖昧だ。
リズムを取るとか、メロディを奏でるという概念そのものを知らないのだ。
それどころではなかったしな。
一応、めいめい適当に石を叩いたりなどはしていたようだが……。
「あっ、石叩き名人さん!!」
「凄く気持ちいい音で石を叩くなと思ってたけど、実は違うものを叩く人だったのかい?」
「いや、叩くのではなく、こう」
「ひくう?」
「ひくって、なんだ?」
概念そのものが伝わっていないな!
その間に、俺は楽器の話をしている。
ゼータが地面に棒で絵を描き、それを見た伐採役の男がうーむと唸った。
「こりゃ、加工が必要ですね。こう……曲面の形に削った板を組み合わせて作らないといけない。接着剤が必要なんですが……」
「ほうほう、ニカワみたいなものがあるといいのか。この島の接着剤は全て粘土だったからな」
「さすがに粘土は音が落ちるんじゃないでしょうか」
「一度やってみましょう! 粘土で作ったウクレレで、音が変だったら後で考えたらいいですよ! 当たって砕け散りましょう!!」
おっ、ゼータの威勢がいいぞ!!
「よし、やってみるか! なお、俺は板を作ることはできるが……細かな加工はできない……!!」
「ああはい、そこは僕がやります!」
メスタは手先も器用なんだな。
大したもんだ。
「では、ここの乾いた材木を使って板だけを用意する。そいっ」
いい感じの大きさの板が何枚もできた。
「なんかカクカクしたウクレレですね? まあつくりやすそうなのでいいでしょう!」
「ゼータが甘めに裁定してくれて助かるぞ」
「はい、僕も領主様が切り出したこれでバッチリだと思います! じゃあ、粘土を使って作ってみましょう……」
作業が始まった。
隙間無く作って、真ん中に穴を開けるんだな。で、この棒みたいなところに弦を張る……。
ふむふむ。
「よーしおじさま! ラビハちゃんを呼びに行きましょう!! 弦を作りますよー!」
「ゼータはやたら張り切っているじゃないか」
「だって私、楽器の音を聞いてみたいんですもん!」
そう言えば、王都まで行った時も音楽を聞いてる暇はなかったな……。
ウクレレ作りに成功したら、ルナス領から文化の大躍進が始まるのではないか。
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