第64話 塩作りを見せてくれるだって?
「領主様、新鮮な塩が採れましたのでお納めします」
石の皿に、どっさりと盛り上がった塩!
運ばれてきたそれは、陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「おう、お疲れ様。こいつがなければ漬物も作れないからな。何気に村の生命線だよな」
「ぺろっ、塩辛い! でも今回のお塩、不思議な味がしますね」
ゼータの疑問に、領民が答えてくれる。
「それはですね、こいつは魚と一緒に取れた塩だからですよ。海の水ごとすくい上げて、板の上に広げて魚ごと干すんです。海鳥に取られないようにずっと見張りながらね。そうしたら……魚が干し上がる頃には、板の上の海水が塩になってる」
なるほど、塩はそうやって出来てたのか!!
領民はいつも漁を担当している男衆の一人で、その中でも特に塩作りに詳しい男らしい。
「ゼータ。世の中の酒飲みは塩だけで酒を飲むという」
「えーっ!? 絶対に体を壊しますよ!」
「うん、俺も体を壊すと思う。だけどそれくらい塩というのは重要なものなんだな。特に調味料に乏しいこの領地では、あらゆる料理に塩が使われている。ということで……」
「わくわく」
ゼータが何かを期待して俺を見つめている。
「今日は塩作りを見学に行こう!」
「やったー!」
「おおっ、領主様にゼータ様、塩作りに興味が!? 村には欠かせぬ仕事ながら、根気が重要で地味な作業なので、子どもたちがなかなか継いでくれなくて」
「それは辛いなあ。よし、ここにちびっこ代表のゼータがいる。彼女が村の子どもたちにプレゼンしてくれることだろう。大いに期待していい」
「任せてください!」
「ということで、最近作っている漬物に欠かすことができない塩を調べに行くぞ!」
浜辺へ向かうのだ。
よく見てみると……。
浜辺のあちこちに穴が掘られているではないか。
広く浅い穴の中に、水が入っている。
これは海水か……?
上に被せるための板が周囲にある。
これはスコール対策だな。
「これはまさか……」
「はい。塩を作っています。日差しが強い日はすぐに塩になるんですよ」
「確かに……。この島ほど一日中太陽が照りつけているところはないからな」
「そうなんですか!? 島の外は日差しが弱い!? そ、それじゃあ、どうやって塩を作るんですか……」
「海水を火にかけて煮詰めたり」
「塩を作るために薪を使うんですか!? もったいない!!」
「山の中から岩塩という岩になった塩を掘り出したり」
「山……? 陸地で塩が……?」
山という概念を知らない!!
「すっかりおじさまが教える側になってしまっていますねえ」
いかんいかん。
塩について教わるんだった。
「あ、そうでした。とにかく、水が染み込まないように板を張ってるんです。あとは日干しにして、水がなくなるのを待つばかり……」
「ふむふむ、これをひたすら?」
「はい。漁に行かない間は毎日毎日やってます。親父も祖父もずっと塩を作り続けてきたんで」
なんたること。
この男は、ルナス領の生命線だったのだ!
「じゃあ俺達もやってみよう」
器を使って海水を汲み、穴に入れてみる。
こういうのは何ていうんだっけ。
そうだ、塩田だ。
毎日、この塩田で作り続けられる塩がルナス領を支えている。
「でも最近は壺が出来て、本当にやりやすくなりましたよ。領主様が来てから、どんどん便利になっていって……今の生活なんか、昔を考えたら夢のようです」
「まだまだ質素な生活って感じがするけどな。だが、今までがあんまりにも苦しすぎたんだろう」
「穴に塩水を入れたらやることがなくなりました!」
「あとは見ているだけですよゼータ様」
そう言えば、ゼータが様付けで呼ばれているな……。
領民からすると、ゼータは俺の娘みたいな扱いなので、様付けらしい。
血の繋がりはないのだが、いつも一緒に行動しているからな。
娘ではないとしても、相方ではある。
「これはコツさえ掴めば子どもでもできますねえ。みんなにやり方を広めて、塩をたくさん作れるようにしましょう!」
「そうしてもらえるとありがたいです! そしてこうやって一昼夜、スコールに気をつけて干します」
「スコールが来たらどうなるんだ?」
領民は悲しそうな顔をした。
「せっかく水分を蒸発させたのがだめになってしまうので、またやり直しです」
「それは辛い」
スコール避けの板はあるが、それでも精度は大したものではない。
塩田のうち半分は、上手く塩が作れなかったりするんだそうだ。
厳しい世界である。
「それにしても、天日干しで塩を作れる環境なのだから、もっと素早く確実に雨除けできる設備がほしいな……」
「おじさま! こう言うときこそユニット工法です!」
「おっ。一見すると塩田と関係がなかったようなものが、ここに生きてくるのか……!」
ゼータとともに、伐採用の森に行く。
そこで、塩田の蓋をオーダーした。
「昔と比べると、設計も正確になってきているだろう。何人かで来て、塩田をすっぽり覆い隠せて、隙間から水が入れなくなる蓋を作ってほしい」
俺のオーダーを受けて、急遽新しい道具がこの領地に生まれることになった。
スコールがあっても安定して塩を作れる塩田である。
今までで最大規模のユニット工法で作られた地面部分。
そしてそれをサンドして覆い隠す蓋。
これによってスコールからの水の侵入を防ぐのだ!
より一層の塩の増産が可能になることだろう。
ゼータの説明を受けて、子どもたちも手伝いにやって来た。
彼らのうちの誰かが後継者になれば、塩の生産も安泰と言えるだろう。
「これからさらに塩が必要になる。じゃんじゃん作ってくれ。じきに塩を活かした美味いものをごちそうしてやるからな!」
新しい漬物とか。
「本当ですか!? 楽しみだなあ……。領主様がいらっしゃってから、毎日ちょっとずつ世界が変わっていくんですよ。俺、楽しくて楽しくて」
「おう、もっと楽しくしてやるからな!」
塩の安定供給を得て、酒のツマミ作りも加熱する。
酒が完成したら宴会だ!
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