第63話 勝手に試飲をしていたな!?
野菜を塩漬けにした。
味付けに、エウゴ菜とクアットロの実を入れておく。
これ、一緒に漬け込む素材で味が大きく変わる気がするんだよな。
そして水分がいい感じで抜けると、シャキシャキの歯ごたえの漬物になると見た。
うーん、楽しみだ。
壺を村の漬物置き場に安置する。
村は昔からエウゴ菜の漬物を作り続けており、それらはここに置かれることになっているのだ。
クアットロの漬物壺も増えてきたな。
俺の真似をして、みんなが作っているのだ。
「あら領主様! 毎日毎日、今日は何を漬け込もうかって考えてて楽しいんですよー」
村の奥さんが笑顔で言った。
「いいことだ。食材も増えて、領地の食生活もどんどん豊かになってきているからな。近々、凄いものを出すから楽しみにしていてくれ」
「凄いもの……? なんでしょうね? 楽しみだわあ。あ、そう言えば最近、村の男達が何人かでターミナルに行って、変な臭いをさせてふらふらしながら戻ってくるんだけど」
「なにぃ!!」
とんでもない情報を聞いてしまった。
俺はその足でターミナルに向かう。
まだ日が高い時間なので、酒蔵はいつもの呑兵衛夫婦しかいない。
蔵を覗くと……。
「壺が増えてるな!?」
「あ、領主様! そうなんですよ。猿たちがアレコの実を持ってきてくれるんで、どんどん新しい酒を増やしてるんです」
「時間差で醸されていくから、長い間お酒を楽しめますね。試験的に作ったやつはあたしたち夫婦用にいただいてますけど」
「うん、君たちが飲むのは役得だから構わない。問題は……ここに試飲に来てる男たちがいるな?」
「ギクッ」
旦那の方の動きが固まった。
やはり。
「嘘をつくとためにならないぞ。どういうことだ?」
「いや、あの、昔の馴染みの連中が、酒ができたって噂を聞きつけたらしくて。一口くれってやって来るんですよ。みんな酒から離れてすっかり弱くなってるんで、ちょっと飲んだら酔っ払っちまうんですけど」
恐らくそれは、原液のままの酒が強いからでもあるのだろう。
村人たちに飲ませる際には、水で薄めなければなるまい。
それはそれとしてだ。
「酒の存在を村に気付かせるわけには行かないのだ。今日は俺がここで見張り、そいつらが来たらお話をして返してやるからな……」
「ひいー」
「ほらあんた! やっぱり領主様は怒ったでしょう? このお人、お楽しみは来たるべき時まで取っておくタイプの方なのよ!」
正しい。
俺はターミナルで、色々な作業をしている民たちを見ながら時間を潰す。
ブルーキウイが近くに来たので、わしわしと撫でておいた。
おお、毛が太くて短くて、独特の撫で心地だな。
「おやおじさま。何をしてるんですか?」
「勝手に酒を飲みに来る男たちを待っているのだ」
「おお、ついにおじさまは民を手にかけるのですね」
「なんて誤解を招く言い方をするんだ」
「大丈夫、命までは取らないことは分かってますから」
そりゃそうだ。
民は一人ひとりが大事なんだ。
変な死に方をされたら困る。
俺の計画としては、村が手狭になってきたところで、木材を伐採した後のところを新たな居住区とするものがあるのだ。
内陸側の住処というわけだな。
そのためにも、人は増やさねばならない。
酒というのも飲みすぎると、人を増やす害になるというではないか。
酒は俺が管理するからな……!
そんなことを考えていたら、ゼータに少年たちが挑みに来た。
ここに来たばかりの頃より、少年たちも大きくなったな。
なお、ゼータもすくすくと育っている。
神秘的な幼女だと思っていたが、育つんだな。
そして取っ組み合いが始まり、ゼータが次々に合掌捻りで少年たちを投げ飛ばしていく。
なんだその難しい技は。
パワー、テクニック、スピードともに、ゼータは少年たちを寄せ付けない。
「ウキャー!」
「あ、ランチャー! みんな、私には及ばないので、ランチャーが相手をしてくれます」
「な、なにぃーっ!」
「くそ、みんなでかかれー!」
「猿を転ばせるぞー!」
「ムキャキャー!」
おサルと子どもたちが遊び始めた。
うむうむ、なんとも微笑ましい光景だ。
そんなこんなで夕方になり……。
村から、男たちがやって来た。
その数は五人ほど。
何か期待しているのか、表情が緩んでいる。
「今日も一口もらうかな」
「いやあ、この島に来て、酒は諦めてたんだけどさ。まさか出来上がってるとは」
「これが最近一番楽しみなんだよな」
ターミナルへと上がってきた彼らの前に、俺が立ちふさがった。
「待つがよい」
「ひっ」
「りょ、領主様!」
「なぜここに!?」
「それはな、酒は俺が管理し、然るべき機会に領民に振る舞うものだと決めているからだ。だから、勝手に試飲を繰り返そうとする輩は……許せんよなぁ~?」
「ひいいいいいいい」
男たちが震え上がった。
「そう遠くないうちに、公で飲める機会がやって来るから。それまで我慢するように、な?」
「は、は、はい!!」
男たちが真っ青になって頷く。
うんうん、素直なのはいいことだ。
「おじさまに逆らえる人はこの村にはほとんどいませんからねえ」
「領主だからな。その数少ない逆らえる者ってのはゼータだろ」
「分かりますー?」
わかるわかる。
常に俺を調子に乗らせない役割を受け持ってる謎の幼女だからな。
ということで、試飲にやって来る男たちは追い返したのだった。
実際、酒が飲めるようになるまではあとわずか。
俺はその日に、ちょっとしたお祭りをやろうと考えているのだった。
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