第62話 みずみずしいだけの野菜!? それだ
『ムキャキャ、ウキャー』
「ふむふむ、そうなんですね!」
「ゼータ、翻訳してくれ」
「おじさまは私なしでも意思疎通できたり、できなかったり。どっちなんですか?」
「なんとなくニュアンスで掴んでるだけなんだよ。知識面の話になると全く分からん」
「なるほどなるほど。彼女はですね、こう言ってます」
メスだったのか。
「この奥に、凄くみずみずしい野菜があるそうです。たくさんの動物の水分補給のために使われているそうなんですが、それでも食べ尽くされないくらいあちこちに実っているんだそうです」
「なんだって!?」
『ウキャ、ウキャ、ムキャホー』
「ふんふん、だけど、全然味がしないんだそうです。本当に水分補給のためだけに食べる感じで、あとは歯ごたえがシャキシャキしてて楽しいんだそうです」
「漬物になるために生まれてきたような野菜ではないか」
「そうなんですか?」
そうなんだよ。
これは期待できるぞということで、森の奥まで連れて行ってもらった。
なるほど、森の奥深く。
川などはなく、地面はカチカチ。
樹木は高く、枝葉で覆われた空からは陽の光があまり降ってこない。
「下草も少ないし、貧しい森みたいなところなんだが……。この木、多分材木に最適だな。真っ直ぐで太くて……」
『ウキャウキャ!』
「ここを解放するのはやめてって言ってます! この森は、島の色々な生き物たちの水飲み場なんですって」
「そうだったのか。確かに全てを人間の領域にしたら、暮らしていけない生き物は絶対に出てくるもんな」
だが、この殺風景な森のどこが水飲み場なんだろうか。
みずみずしい野菜は一体どこに!
『ムキャ!』
「ここです! だそうです」
「ここ? あ、言われてみると……。あちこちの木に蔓草が絡まってるな。これ、木の枝じゃなくて、寄生植物なのか!」
蔓草にしか見えないその半ばから、幾つもの楕円形のものが垂れ下がっている。
大きさは俺の手の中にすっぽり収まるくらい。
「これがもしや……」
『ウキャー!』
「それです! って言ってますね」
「これかあ」
一個もいでみる。
おっ、触れると柔らかくて、強く握りすぎると潰れてしまいそうだ。
そして幹とのつながりがまあまあ強い。
俺でなければもぎとれなかったな。
触れた瞬間に繋がっているところに剣気を飛ばして切断するのだ。
「おじさま、手にした瞬間に野菜が蔓から外れましたね?」
「うむ、ちょっとコツがあってな」
「そのコツの話はしなくていいですよ。絶対真似できませんから。私の分も取ってくださーい」
「はいはい」
そろそろゼータのいらん一言には慣れてきたぞ。
慢心する王に囁きかけて我に戻させる道化みたいな幼女だ。
こいつがいないと、俺はどこまでも増長する可能性があるからな……。
おサルのぶんも取ってやり、三人で並んで食べてみた。
ザクッと行った。
皮と実の区別が曖昧だなこれ?
そして確かに……みずみずしい!!
口の中に水分が溢れ出す。
おサルは無味と言っていたが、ちょっと青臭い風味を感じる。
噛めば噛むほど口の中に溢れ出す果汁!
いや、野菜汁か?
「ほえー、なかなかいけますねこれ! でも全く甘くないです。不思議……!」
「皮が破れると、あっという間に悪くなってしまいそうだな。あ、種がある」
ザクザクした実の中に、物凄く小さな種が幾つも入っている。
ヌルっとした被膜に覆われていて、歯で噛み潰そうとするとつるりと喉の奥に流れていってしまった。
「これは……ひたすら実を食わせて、種を運ばせるタイプの植物か! そしてフンに混じって出てきた種が、樹木に寄生する形で育つんだな。ということは……この水分は、樹木が地下から吸い上げた水ということか! ほえー」
「おじさまが凄く賢そうなことを……! 何気におじさまって頭がいいですよねえ」
「本はたくさん読んだからな。死蔵されていた知識や思考が、この島にいると活性化していくようだ。楽しいぞ」
「ちょっと見直しました! ジムニさんがいなくても、いいところまで行けるのでは? いえ、あの書物を解読できないと難しいですね」
「上げて落としてきたな。そういうことだ。だからこそ、ジムニが倒れる前に後継者も育てたい」
「急務ですよねえ」
ということで。
この野菜を幾つかもいで、持ち帰ることにしたのだった。
森の中は石碑の効果が及んでいないと言うのに、見かける生物たちは誰も争っていなかった。
水飲み場であるこの森で争うことは禁止という不文律が出来上がっているのだろう。
生き物たちの関係も面白いものだ。
森から果樹園まで戻ってきて、そこから転送装置を使ってターミナルまで移動。
この野菜がすぐ悪くなってしまいそうなので、大急ぎなのだ。
そして一つは種をほじくり出して、辺りに埋める。
俺の思いつきなのだが、これをクアットロの幹に寄生させると水分などを吸われるので、擬似的に貧栄養状態を作れるのではないか?
つまり、みずみずしい野菜と同時に甘く熟したクアットロを採取できる可能性がある。
これまでは熟したクアットロは、できたりできなかったりだったのだが……。
狙って作れるようになれば最高だ。
「領主様が不思議なことしてる」
「木になすりつけてるそのヌルヌルしたのは何?」
「これは種なんだぞ。上手く育つと、村に食べ物が増えるからな」
俺の言葉を聞いて、子どもたちがワーッと喜んだ。
これ単体だと味は無いが、それはつまりどういう味付けもできるということだ。
これからが楽しみである。
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