第61話 つまみを作ろう
酒が誕生しつつある。
……ということは、つまみが欲しくなる。
ルナス領の居住地は海が間近だ。
これを利用して、幾らでも塩が採れる。
つまり、しょっぱい食べ物は作り放題というわけだ。
酔っ払ったモネを家まで送り届けた後、俺はつまみについて考えながら村の中を練り歩く。
「今この領地にある食べ物で、しょっぱくして酒のあてになるようなものは……幾らでもあるな。だが今回はエウゴ菜はやめておこう。いくらなんでも擦りすぎだからな」
お前はしばらく休みだぞ、エウゴ菜。
塩漬けにして食べられるもの……。
例えばブルーキウイの卵なんかどうだろう?
時間が掛かりそうだな。
壺に詰めて塩漬けにして何ヶ月とか掛かる気がする。
豊かな食文化のためにはいいつか作りたいものだが、それは今ではない。
「では、クアットロの実の酸っぱいやつを塩漬けに……? いけるか? 水分多くない?」
だが、やってみようという事になった。
「おじさまが何か不思議なことを始めました。果物を塩漬けにするんですか?」
「そうだぞ。王国には漬物という文化があった。いや、こっちもエウゴ菜の漬物はあるんだったな。だが、何もかもエウゴ菜では世界が広がらない。俺はあえて、このクアットロの実で漬物を作ろうとしているわけだ。ちなみに浅漬だぞ」
「すごくこだわりがあるらしいことは分かります!」
クアットロの実を壺に入れ、大量の塩を入れて……揉む。
おお、汁気が出てきた出てきた。
この汁をどうしたらいいんだ?
捨てるのももったいないな。
別の壺に移しておこう……。
「おじさま、何気に作業が細やかですね」
「食べ物は戦いと違って、雑にやってはいかんのだ。いや、雑に美味いものもあるっちゃあある」
「どっちなんですか? あっ、壺に入れた塩漬けの果物を、上から板を乗せて石を重しにして絞るんですね。なるほどー」
「全部説明してくれたな? こんな感じで水気が抜けたところに塩が染み込み……。多分いい感じで浅漬になる」
「本当ですかあ? あ、でも手を離してもいいんですね。それで美味しい漬物ができるなら何よりですよねえ」
ゼータと二人で、まったりしながらしばらく待つのだった。
そしてそろそろ浸かったかな~という頃合いで、重しを取り除いてみる。
おおっ、クアットロの実がしんなりしている。
プリプリの歯ごたえだった果実だが、ここまでしなびていると全く別物だな。
「食べてみるか」
「はーい。あの酸っぱい実がどうなっていることやら……」
二人でかじってみる。
おっ、モリッと言う不思議な食感。
口の中で噛みしめると、キュッキュッと音がする。
独特の強い酸味が抜けて、味わいはまろやか。
塩分が効いており、飲み物が欲しくなってくるな……。
「これはなかなか……いいんじゃないだろうか」
「いいですねこれ! 美味しいですよ! 既存のもので、あたらしい食べ方が生まれてしまいました!」
ゼータはかなり気に入ったようだ。
これをスライスしたら、パンに乗せても美味そうだな。
そのままのクアットロだとあまりにも水分が多すぎるので、単体で食べるか、酸味の強い汁を絞ったものに塩を振ってソース代わりにしたりする。
だが、この水分と酸味を抜いて塩を染み込ませたクアットロは別物だ。
パンに合うことだろう!
ゼータが浅漬を持って村を駆け回ったので、あっという間に新たな食べ物誕生す!! の情報は領民全員に広まった。
たくさんの村人の前で、浅漬の作り方をレクチャーすることになった俺。
これを見て、みんなが「おおーっ」とどよめくのだった。
「時間を掛けなくても、クアットロが食べやすいおかずになった!」
「酸味が強いと、使い所に困ってたんだよね」
「スープにするしか無いのかと思ったら、塩でもんで水を出せばよかったのか!」
作り方も簡単。
みんなすぐにでもチャレンジができるぞ。
ジムニも大いに感心していた。
「これは凄い料理ですな……! 島のことを書いた本にも、一切記述はありませんぞ」
「なんだって。つまりクアットロの浅漬は、俺が世界で最も早く作ったことになるのか」
これは嬉しい。
剣でどんなに強くても、そっちは俺が望んだ結果では無いからな。
こういう生活に役立つものの方がいい。
こうして、全員が浅漬を作るようになった。
さらに、あらゆるもので浅漬が出来ないだろうかという試行錯誤がされるように。
主に魚と卵。
バラカコーンは塩で漬けたら、カリカリしたしょっぱい粒になったそうだ。
これはこれで使えそうだな。
「他に野菜が欲しくなってきたな……」
「エウゴ菜一本でやって来た土地ですからねえ。探しますか、新しいお野菜」
「探すか。酒が完成するまではもう少し掛かるし」
食べ物に関しては、カメレオンエイプたちに聞くのが早い。
転送装置を浸かって果樹園まで行くと、猿たちが果樹の手入れをしていた。
どこからか、葉っぱやクアットロの実を食べようと虫がやってくるので、これを取り除いているのだな。
さらに、空からは実を食べに鳥も来る。
これを追い払うわけだ。
「お疲れ!」
『ウキャ! ムキャホー』
俺が挨拶をすると、猿が会釈を返してきた。
「実はな、頼みがあるんだが」
『ムキョ?』
「そのまま食べられる可食部が大きい植物が無いだろうか?」
『ムホー?』
考え込んだおサル。
周囲から仲間を呼び集めて、相談を開始した。
「色々意見が飛び出しているようですね。どうやら基本的には、外敵から身を守るために固い殻であったり、毒を含んでいたりするようですよ」
「なるほど、上手くは行かないものだなあ」
だが、そのうちに結論が出たらしい。
比較的人間も食べやすいんじゃないかという植物があるらしく……。
『キャホ! ホーウ!』
「ついてきてくださいって言ってますね!」
「おお! じゃあ行くかあ!」
いざ、新たなる野菜のもとへ!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




