第60話 お酒を体験してもらおう
ルナス領には、これまで人間が飲む酒は存在しなかった。
アレコの実を使って、カメレオンエイプが作っていたお酒はある。
それが人間の手に入ることがなかったということである。
「酒は飲むと陽気になり、なんか楽しくなってしまう飲み物だ。ぜひ、うちの領民にも体験してもらいたい」
「まだ酒が完成してないって言うのに、気が早いですよ領主様」
ここは、ターミナルにある酒造所。
ユニット工法で急遽作ってもらったのだ。
これでスコールになっても安心。
呑兵衛夫婦は一日中ここに籠り、酒を作り続けている。
頭が下がる努力だ。
思えば、俺も読書と剣をコツコツやっていったもんだ。
あれは他にやれることが無かったせいでもある。
結果、読書の方は並程度の才能しかなかったのだが、剣の方で異常なほどの才能があり、独自に考えた技全てを体現する事に成功した。
個人的には、この才能は欲しくなかったな……。
俺の趣味じゃないんだよなあ……。
だが、この領地を守ったり広げるために役立っているので、怪我の功名と言うことはできるだろう。
「ハイザット様ー」
「おっ、モネだ」
「モネさんと言うと、領主様の奥方候補の?」
「なにっ、どこからそんな話が出ているんだ。俺はモネと全然深い関係になったことはないぞ!」
「えー。だけど元からいる皆さんが、なあ」
「ええ。領民の女で一番、領主様と一緒にいるし距離も近いし、適齢期だしって」
「うわー」
「その声は! ハイザット様! 何してるんですか? うわー、なんだこの匂い!!」
モネも一度に喋るやつだな。
「これは酒と言ってだな」
「んーっ、ハイザット様、これ毒です!!」
「それはそうなんだけどな」
呑兵衛夫婦がグサッと傷ついた顔をしているじゃないか。
言い方というものを考えねばならない。
「酒の進捗どう? ちょっとは酔えるものある?」
「上澄みなら……。全体はあと二日は掛かりますが」
「それでいいや」
小さな焼き物の容器に酒の上澄みだけもらってきた。
甘い匂いと、発酵で生まれたなんとも言えぬ豊かな芳香が混じっている。
「確かに飲みすぎれは毒ではあるんだが、これはこれで王国では重要な役割を果たしている飲み物なんだよ」
「毒がですか!?」
「毒ではなく酒という」
「あ、これがお酒……」
ちょっと興味が出てきたようだ。
モネも王国に滞在している時には、酒を飲む人々の姿を見ただろうからな。
「君は毒に強いんだし、ちょっと飲んでみたらどうだ」
「そりゃ、あたしは毒は平気ですけど……。じゃあいただきますね。なんだかアレコの実がすっごく熟したみたいな匂いだなあ……」
王国で主に飲まれているのは、ビールとワインだ。
ワインだと飲めるようになるまで二ヶ月くらい掛かるが、ビールなら三週間ほど。
つまり、アレコの実の酒はビールに近い日数で完成する酒ということになる。
「どれどれ……? あ、あっまーい!! 以外……。これ、美味しいですねえ」
「そうなのか? ちょっと一口もらっていい?」
「どうぞどうぞ」
モネが口をつけた器で、俺も飲ませてもらう。
あー、こりゃ甘いなあ!
この酒ならきっと飲みやすいだろう。
だが、喉にカーっと来る。
強い酒だ。
甘いのが苦手な年令になってきたら、もっと酒を熟させてから飲めばいい。
酒が強くなったら水で薄めればいいしな。
「どうだ? 毒って感じしないだろ」
「しないですね、これ……。ピリピリは来てるんですけど、それよりも甘いのが先に来て……。みんなこれ好きになりますよ」
「よしよし。まあ、飲みすぎると体を壊す毒があるから、少しだけ飲むものだがな」
「それですよ、ハイザット様。体に悪いのにどうして飲むんですか?」
「そうだな。モネ、酒を飲んでみて、何か感じないか? ちょっと体が暖かくなるとか、頭の中がぽーっとしてくるというか」
「言われてみれば……」
上澄みの酒とは言っても、量はジョッキほどもある壺に半分は注がれている。
甘くて美味しいからと、モネはこれを飲み干してしまっていた。
ぐびぐび行くタイプだね君。
「なんか、顔が熱くなってきたような……!」
「そうだ。そして思考に軽くモヤがかかるような感じにならないか?」
「なんだか頭がボーッとするかも……」
「それだよ。それが酒の効能だよ。これによって細かいこととか不安が曖昧になり、陽気になって楽しく騒げるんだ。そして酒はこのへんで止めておくと一番いい。翌日にも残らない」
「残る……!?」
「毒が残って、頭が痛くなる」
「だめじゃないですかそれ?」
「だからちょっと陽気になる程度で止めておくわけだ。どうだ? 村の毒見役としては」
「ええと……これなら多分大丈夫かなーって。あたしにもなんかふわふわーっと効いちゃう毒ですけど、そんな強くないですし……」
「よしよし。諸君、村の毒見役の許可は取り付けたぞ」
「やりましたね領主様!」
「ですけど領主様なら、命令で酒を広めることもできるんじゃないですか?」
「そりゃあもう、全員が納得の上で酒を飲みたいじゃないか。俺はな、みんなで楽しく酒を飲んで宴会がやりたいんだ。ルナス領最初の宴会だぞ。慣れてきたらお祭りをやっていきたい」
「あー、そりゃいいですね!」
「私らの仲間には、音楽ができるやつがいるんですよ。今は楽器が無いんで、多分暇を見て楽器作ってると思いますよ」
「ほんと!? じゃあちょっとそいつを探しに行こう……」
「ねえねえハイザット様! お酒もうないんですか? もうちょっと飲みたいなあ」
いかん!
モネが酒にハマりそうだ!
「いけません。お酒は飲んでも飲まれるな。俺が許した量しか飲んではいかんぞ」
「えーっ」
不満げなモネなのだった。
酒の管理はこの夫婦と俺が行うからな!
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