第59話 なにっ、口噛みじゃなくても酒になる!?
「これはアレコの実でしょう。クアットロと対を成す、至上の甘さを持つ果実だと書かれていますな。しかし、筆者の仲間たちはアレコの実に入れ込み、食べ続けるうちに体を壊したと」
「やはり! そしてジムニに聞いて大正解だったな」
即座に、この白い実の正体が分かってしまった。
やっぱり栄養豊富過ぎて、体を壊しちゃうやつじゃないか。
「ところで、この果実を使って猿が酒を作っていたんだ。こうくちゃくちゃ噛んで、壺みたいな植物の中にペッと吐いてだな。そして一昼夜置くと酒になってるんだそうだ」
「それは口噛みの酒ですな。つばに含まれる成分が果実の甘みを分解し、これを酒に変えるのです」
「なるほど! では、俺もこれをくちゃくちゃペッとすると酒に……」
「それでは、皆が呑める酒にはなりませんな。ですので、これは口噛みを行わずに酒にします」
「なにっ!? 酒を作るためにくちゃくちゃしなくていいのか!!」
「殿下、そもそも口噛みは最も原始的な酒の作り方ですぞ。今ではその他に、多くの酒造りの方法が開発されております。ちなみにこの果実は十分に甘いため、噛む必要すらございませんな。そう……柔らかく熟したクアットロの実を皮ごと混ぜて潰せば……」
「お任せください!」
「あたしらが酒にしてみせましょう!!」
おっと、来たなお酒大好き夫婦!!
彼らにコレアの実は託された。
彼らは甘味にそこまで興味は無いらしいので、つまみ食いの可能性もない。
酒になるまで、しっかりと見届けてくれることであろう。
……とまあ、任せることにはしたものの、興味が無いと言えば嘘になる。
俺も酒を作る光景を見せてもらうことにした。
「やり方は口頭で聞いたが、実際にはどうするの?」
「酒に必要なのは、果実と発酵させるための酵素です」
「酵素……?」
「私らの故郷では、酒を作るために使われる目に見えないものをそう呼んでいました」
ほう!
ジムニからも出てこない言葉だ。
コウソか……。
「実際には、目に見えないほど小さな生き物が、酵素を使って甘味を分解して酒に変えるとされています。その小さい生き物はどこにでもおり、例えば熟しきったクアットロの実にもいるとジムニ様は考えられたんでしょうな」
「凄い。酒の事になった瞬間に呑兵衛夫婦の知性が物凄く高くなった! ジムニに匹敵するくらい賢そうだ!!」
壺はわざわざ酒のため、彼らが粘土をこねて形を作ってから、専用焼き窯まで作り、そこで完成させたらしい。
凄まじい情熱だ。
これ、何気にこの村で一番大きい壺なんじゃないの?
他にあるのは全部、石を削って作った器とか、木を削って作った器ばかりだもんな。
呑兵衛夫婦が壺を作る姿は、近くにいた領民たちに目撃されていたらしい。
なるほど、振り返ると、領民たちが粘土をこねて壺を作っている。
今まで焼き物をする窯も無かったもんな。
どうやって生きてきたんだ……。
漬物を石の器と石の器で挟んで保存してるのは見た。
まあ、焼き物が完成し、この領地の生活のクオリティがさらに上がるのはいいことだ。
「領主様、これでひたすらかき回します。空気の中にも、酒を作る酵素を出す生き物がいますから」
「なるほど、なるほど……。かき回しても?」
「はい。優しく優しくかき回してください。いつもの領主様のパワーだと全ての果実が回転してどこかに飛んでいきますから」
「なにっ! ……やめておく」
俺は自分の分というものをよく分かっているのだ。
こういう儚いものに触れてはいけない。
夫婦がぐりぐりと、白い果実の詰まった壺をかき回す様を眺める俺だった。
おお、果実が潰れ、ドロっとした液体になっていく。
そこに完熟クアットロをひとつまみっと。
おお、ドロドロ果汁がうっすらピンク色になった。
これをひたすら、ひたすらに混ぜていくのだ。
ずっと混ぜてる。
「いつまで混ぜるの?」
「大まかな形が無くなるまでですかね」
「これから一時間はやりますよ」
「ひえー」
酒造り、あまりに地道な仕事なのだった。
それにアレコの実は、まだ誰も酒にしたことがない。
ルナス領に酒が生まれるかどうかは、この夫婦にかかっているのだ。
とか心のなかで思っていたら、後ろをゼータとラビハを乗せたマクツーが通過していくではないか。
なんだなんだ。
「あっ、おじさまー! みんなを村の人たちに紹介するんですよ!」
「なにーっ! あまりにも突然では?」
「大丈夫。ラビハたちがおサルさんは信頼できるって教えるから!」
自信げに告げたあと、村の方で悲鳴が聞こえた。
大丈夫かあ?
見に行ったら、住民たちが真っ青になって逃げ惑っているではないか。
いかーん。
「鎮まれ、鎮まれー! 猿たちは俺が仲間にしたのだ。この領地の領民である」
「あっ、領主様!」
「怪物たちが領主様に跪いているぞ!」
「なーんだ、領主様が従えたのか」
「じゃあ仲間じゃないか」
すぐにみんな納得したようだった。
「うーん、おじさまの圧倒的暴に対する信頼が厚いです!!」
「これはラビハも予想外の信用度だった。っていうか、ラビハたちの言葉は無力……!」
ショックを受けるんじゃありません。
言葉を届けるには、立場というものが必要なのだ。
「例えば俺は、とても強いのでこの強さで納得度を高めている……」
「私とラビハちゃんには実績が足りないということですね!」
「うーん、難しい~! 信頼されたーい!」
ラビハは、建築関係で力を見せたから、おじさんたちからの信頼は厚いようだけどな。
絶対にラビハを狙ってる男子とかいるだろ。
「いやー、みんな凄いなー。あたしが村でのんびりしている間に、どんどん村が発展していく。あたしにはとてもできない」
「あっ、モネちゃん! モネちゃんはおじさまと結婚するから特別になるでしょ?」
「あたしハイザット様といっしょになるの!?」
「確定事項。ラビハ断言」
決まってない!
何も決まってないぞ!
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