第58話 この白い果実はなんだね
「さて、邪魔者はいなくなったことだし、白い果実について調べようと思うが……」
「おじさま息一つ乱してませんね?」
ランチャーに背負われて、俺の横を移動するゼータなのだ。
俺以外の移動手段を入手してしまったな。
「ウキャキャ、ムキャ、ウキャホ!」
「甘く香り高く、それでいてまったりしているとランチャーが言っています」
「語彙が豊富な子猿だなあ」
だが大変興味が湧いてきた。
クアットロの実は酸味に満ちた刺激的な味か、熟してトロットロの甘い感じの二択だが、どうやら白い実は個性的なようではないか。
「俺にも一つくれ」
近くにいた猿に呼びかけると、彼か彼女は恭しく頭を下げる仕草をした後、俺の元に両手で果実を差し出してきた。
そんなにへりくだらなくていいのに。
自然に行こうぜ自然に。
「ハイザットさんはおサルたちを助けた救い神だから、尊敬されるのは仕方ないと思う」
「そうかあ~? そんな大したことした?」
ゼータとラビハがこくこく頷くので、どうやら俺は大したことをしたらしい。
あくまで危険を一つ排除しただけで、重要なのはこの果実がどんな味かとか、どういう使い道があるかとかじゃないの?
手にした白い果実は、ザラッとした手触り。
俺の手の中にすっぽり収まるサイズで、ゼータなら両手で持つのがちょうどいいのではないだろうか?
まんまかじることができるようで、歯ざわりはネットリ。
口の中いっぱいに、濃厚な香りが広がった。
これは何というか……。
「チーズのような……。そうだ、甘いチーズを使ったケーキのような香りだ。果物のそれではないぞ……!! それに……このトロリととろける舌触り。自然の果実がこれなのか!? おい、これ、お前ら食べて大丈夫か? 甘すぎない? おサルたち体壊さない?」
『ウゴゴ、ウギャギー』
「ほうほう、お前もそれが心配だったかマクツー。確かにこれはおやつにはいいのだろうが、主食とするにはあまりにも甘みが強い。しかも中毒性がありそうだ……」
『ムキャ、ウキャキャホー』
「おっ、なんだなんだ? どうしたんだ? 何か教えてくれるのか?」
おサルの一匹が、俺を誘ってくれた。
何か見せたいものがあるらしい。
なお、ゼータとラビハの女子組は、この白い果実が大層気に入ったらしい。
二人で並んで、子猿たちと一緒にニコニコしながらかじっている。
極上のスイーツともなりうるよな。
その果実を、どうするというのか。
案内してくれる猿のあとに続くと……。
おや?
そこには壺状になった植物が?
『ムキョ、ウキャキー』
「ほうほう、匂いを嗅いでみろと? どれどれ……うおっ、いい匂いだな。あれ? これってさっきの果実の香り? ちょっと違う気がするというか、もっと芳醇で膨らみのある感じが……」
『ウキャウキャ、ムキャー!』
「えっ!? 果実を噛み噛みして、この壺形植物の中に? そしてしばらく放っておくと凄くいい匂いがする飲み物になるのか。……それってまさか……酒!?」
『ウキャー!』
中身が中空になった茎を使って、おサルが壺の中の飲み物をすすってみせた。
そして、おサルがほろ酔いになり、ウキャー! と一声あげて大の字になった。
酔っ払っている!
「酒まで発見してしまった……というか。この果実、酒に最適なのか!! 凄まじい甘さと、このネットリ具合。確かにこいつは酒にしやすいだろうなあ……。まさかカメレオンエイプが、これの利用方法に長けていたとは! ありがとうな! これで領民のお願いを聞いてやれるよ!」
俺は寝転がっている猿の肩をポンポン叩いた。
もうこいつ、前後不覚になってて分かってないだろうけどな。
『ウゴゴ、アギャー』
「おう、マクツー! 最高のお返しだ! これを持って一旦帰ろうと思う。しかしここ、白いなあ……。どこかに、ここにつながる白い転送装置があるってことだろう? なあゼータ」
「んお?」
「ゼータ! ラビハ! 帰るぞ! もう果物食べるのはやめてこっち来なさい!」
「えー、あと少しー」
「ラビハ残りたい!」
「だめです! だーめー! 甘いものを食べ過ぎたら食事が入らなくなるだろ! うーん、この果実は危険、大変危険だ! 酒専用とするか、それとも……。しばらくはここに、領民を連れてこない方が良さそうだな」
俺は、ぎゃーぎゃー言って抵抗する二人を両脇に抱え、ソードクッションで足場を作りながら帰還したのだった。
剣を抜かなくても、腰に佩いた剣をスイングすれば剣圧は生み出せるからな。
ちょっと普段よりも時間がかかった程度だ。
「空から領主様が戻ってきた!」
「おかえりなさーい」
とは言っても、帰ってきたのは果樹園だ。
いやあ、この島、広い!
広すぎる……!!
ゼータとラビハを地面に下ろし、甘いものばかりではなく、ちゃんと食事をしないと大変だぞとお説教をする俺なのだった。
「プクプクに太るぞ。コロコロになって、歩くより転がるほうが速くなるんだ」
「な、なんですって! それはいやですー!」
「怖い! ぷくぷくになりたくない! ラビハ戦慄!」
二人とも、太っちょになる恐怖を想像したようで、大人しくなった。
げに恐ろしきは白い果実の魔力。
頼るべきは、ジムニの知識と酒好き領民の力だな。
さあ、ここからは徒歩で帰るとしよう。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




