第6話 村の窮状について
村人がわさわさと集まってきた。
どうやら、朝になって俺の小屋に来たモネが、周辺で死んでいる村長の取り巻きたちを発見。
俺と元村長の姿はなく、慌てて村人を招集してみんなで探していたということなのだった。
「襲ってきたんでな。一撃では死なないように金属の鞘で頭部を殴打したんだが」
「即死してましたよ!!」
「一般人は脆いんだな……。すまんかった」
モネと村人たちに謝っておいた。
村人が減ってしまったし、年寄りとは言え男手だっただろうからな。
「まあ、嫌な人たちだったんであたしは構わないんですけど。元村長はどうしたんです?」
構わないのか。
「俺と一緒に暗闇の中に飛んでいって、頭がおかしくなって一人でどこかに行ってしまった。多分死んでいる」
「あー」と村人たちから声が上がる。
誰も俺を責めたりしないな?
「まあ、今はこの村の指導者はあなたですからな。かの暴君が権力の座を追われた後、二度と返り咲けなくなったというだけで村にとっては行幸です」
穏やかな口調で告げたのは、王都から島流しに遭った元役人だという老人だった。
名前はジムニ。
子どもたちに勉強を教えていた男で、俺から王都の話を聞いて喜んでた人だな。
「そうか。じゃあ、まあ良かった! 俺も襲われたことだし、今回のことは水に流し、ゼロベースで関係を作っていこう」
俺の言葉に、村人たちが頷いた。
「殺されかけたというのに驚くほど寛大ですねえ……! ハイザット様が恐ろしく強いのは本当だってみんな分かりましたし」
「そうなのです!」
モネに返答をする声が、俺の腰辺りの高さからあった。
みんな一斉に注目する。
そこには、俺が連れてきたゼータがいた。
「……ハイザット様、この子はなんですか?」
「暗闇の中に石の棺があってな。そこに眠っていたのが彼女だ。あまり自分のことを覚えていないようだから、俺がゼータと名付けた。暗闇の中の扉を開き、そこに描かれていた魔法陣を起動して俺達を村まで送り届けてくれたんだ」
「そうなのですよ」
えへんと胸を張るゼータ。
モネの腰までの背丈しかないな。
おーっとどよめく村人たち。
疑うことを知らぬ純粋な人々だ。
その割には、俺の戦果についてとかを疑ってたようだが。
「ハイザット様が戦で大暴れした話は、あまりにも荒唐無稽過ぎるんですよ。なんですか、たった一人でマルサイ王軍の三割を倒したって」
せいぜい千人弱なんだから大した数じゃないだろう。
それに大多数は骨を折ったりして戦えなくしただけで、死者はほんの百人程度だ。
彼らは骨折しても魔法を使ってくる連中だったから、戦闘不能にするには息の根を止めるしかなくてね。
死んでなお呪いを発動してきたりするから、呪いを片っ端から叩き切った。
こんなこともあろうかと、幽霊や呪いの類を切り捨てる技、闇鴉を開発しておいて良かった。
「おじさまは『あれ? 俺何かやっちゃいました?』っていう顔をしてますね」
そんな顔はしていない。
「ゼータちゃん? ゼータちゃんはハイザット様の事をおじさまって呼んでるの?」
「はい。私を無限の眠りから目覚めさせて、外の世界に連れてきてくれた素敵なおじさまです! パパって呼びたかったんですけれどやめてくれって言われちゃいました」
「あーね」
「さもありなん」
モネと元官僚の老人がなんかこっちを見ているのだった。
俺が発見された、良かった良かったということで、村人たちは各々の仕事に戻っていった。
主に、漁と畑仕事だ。
村の奥に続く森は危険すぎるため、基本的に入り込むことはしない。
限られた範囲で、村人は食料を調達する必要があるわけだ。
昨夜の宴で、謎の葉野菜と魚ばかりだった理由がよく分かった。
「何気に貧しい食生活だったりするのか? モネとかかなりいい体格だが」
「あたしはなんか毒とかに強いんで、捕れた魚で毒ありのは全部もらってるんですよ。お陰でこんなに大きくなりました」
割と背が高めの俺と、目線一つしか変わらない長身の女だもんな。
「なるほど。では、村としては元村長一派が減ったことで食い扶持が減り、少し楽になったとも言えたりする?」
「しますねえ。偉そうな顔して、畑仕事なんかやらない連中でしたから」
「そういうことです、ハイザット殿下。この村は、常にいつ食えなくなるのかに怯えながら過ごしているのです。貴族としてこちらにお越しになられましたが、贅沢はできぬものと思ってくだされ。私もできることなら、せめて子どもたちには腹いっぱい食べさせてやりたいのですが……」
ジムニが後ろを振り返った。
そこには、今日の勉強を待っている子どもたちがいる。
みんなボロボロの服を着て痩せており、体もあまり大きくない。
「ふーむ」
俺は唸った。
そしてゼータを見る。
健康的にむちむちした幼女だ。
彼女も俺を見ていた。
「おじさま! 島を開拓する時ですよ!」
「暗闇の部屋でゼータが言ってたやつか。君を連れて島のあちこちを巡ると、そこの機能が蘇る的な」
「はい! それに、解放された地域は転送の魔法陣に記録されます。そうしたら誰でも行き来できるようになりますよ!」
「そりゃあいい。ゼータに会った時は乗り気じゃなかったが、領民を食わせていくためなら幾らでも仕事ができる。というか俺、誰かの命に対して責任を持つというのが初めてでな……」
「どこかに行くんですか、ハイザット様? ゼータちゃんが背中によじ登っていってますけど」
「ああ。俺と彼女で、ちょっと島を開拓してくる。住める場所や、畑を作れる場所が増えるぞ。この村の領主として、俺はお前たちを満腹にさせることにしたのだ」
俺はそう告げると、朝飯代わりの干し魚をかじりながら、森の奥へと向かうことにするのだった。
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