第5話 暗闇を脱出せよ
暗闇の中を、ゼータを背負いながら徘徊する俺。
薄明かりに照らされたソードソナーの動きを、ゼータは不思議そうに見つめている。
「この時代の人間は目と耳だけではなく、通常の可聴域を超えた音波をも感知することができるのですね。進化しましたねー」
「これができるのは俺だけだと思うよ」
「ということは、おじさまは進化した人間なのですね?」
「違うと思うな。これは俺が自己流に開発した剣術の延長……。それとおじさまって呼ばないでね」
「おじさまが嫌なら……そうだ、パパ! パパでどうでしょう!? パパの開発力は凄いのですね! 私、尊敬しちゃいます。流石パパ!」
「もっと状況が悪くなったぞ!! おじさまとパパの二択なの? じゃあおじさまでいいよ……」
この状況下で、同行者と仲違いをしても仕方がない。
例え足手まといだろうが、一人で暗闇を彷徨うよりは話し相手がいる方がよっぽど気持ちが楽だ。
「私の記憶は薄れてるんですけど、多分ここは……私の封印が置かれていたから、神殿の中心に当たる設備のはずなんです」
「あ、つまり謎の洞窟ではなく、ゼータが過ごしていた施設なのか。そう聞くと緊張感が薄れてくるな……」
その割には、暗闇に紛れて襲ってくる怪物がいるようだが。
明かりに照らされると、こいつらが超巨大なコウモリの化け物だと分かる。
翼の生えた前足をも使って、音を立てずに這いずり回り襲ってくるのだ。
『もがーっ!』
まあ吠えてたら台無しなんだが。
「そいっ!」
不意打ちだろうと、ソナーで方向が分かるから、そちらに斬撃を飛ばせばいい。
この飛ぶ斬撃。
俺が開発した技の一つで、飛燕と名付けた。
『ウグワーッ!?』
飛燕を喰らって、怪物が叩き切られた。
「何が起こったか分かりませんが、おじさまが魔法みたいなことをやったのは分かりますよ」
「魔法ではなく純粋な技術だぞ」
「そういうことにしておきますね」
この少女、俺の言う事をあまり信用していないな?
「おじさま、超音波で周囲の地形が分かるなら……ええと、ええと、こういう形の。こーんな感じの形をした扉みたいなのないですか? ええと……多分、あまりにも経過した時間が長すぎて、鍾乳石みたいなので覆われちゃってると思うんですけど」
ゼータが空中に何かを一生懸命描いたら、薄い光の扉みたいな絵になった。
これこそ魔法じゃないか。
「扉か。それっぽい形は……」
反響音を周囲に放ってみる。
扉……扉……。
あ、ここの反射してくる造形、扉っちゃー扉だな。
「あそことか……?」
「おじさま、暗闇で何も見えません」
「仕方ないなあ。手を貸して。あ、君、手がちっちゃいなあ。こっち。こっちだよ」
ゼータの指先を、扉へ向けさせてやる。
そうすると彼女は、
「ありがとうございます! この方向なら……。アクセス! 開門の言葉を唱えます! ミーユ・カム・ユーダビン!」
謎の呪文を唱えたのだった。
俺は魔法を使えるわけではない、ごく普通の人間だ。
この呪文で何が起こるのかなどさっぱり分からない。
だが、ありがたいことに視覚的な変化という意味で、結果が訪れてくれた。
ミシミシ、バキバキとなにかが砕け、崩れる音がして……突然、暗闇に光が差し込んできたのだ!
強い光だ!
闇に馴染んだ俺には眩しすぎるー!
「ウグワーッ! 目が、目がーっ!」
「わ、私も眩しくて何も見えません! おじさま助けてー!」
「この事態を招いたゼータまでなんで眩しいんだよ!」
二人でしばらくのたうち回った後、光に慣れてきた。
どうやら、壁が開いたらしい。
岩で覆われていた壁面の奥にあった、扉。
それは表層の岩を砕いて展開し、中にあるものを明らかにしていた。
何と言えばいいのか。
人が二人くらい乗れるサイズの、台座である。
台座の上に、同じサイズのリングが浮かんでいた。
これが光を放っている。
台座の中には、光を受けて魔法陣が輝いていた。
「これはもしや……」
「思い出してきました。これは転送の魔法陣です。私が封印されていた神殿から、これを使って島の各所へと飛ぶことができるんです!」
「なるほど……。飛ぶ……? 空を?」
「飛ぶというか、瞬間移動すると言った方が正しいかも。行ってみましょう、おじさま! 転送魔法陣が動いているということは、移動先があるということです!」
「そうなの? 変なところに飛ばされたりしない?」
「たぶん」
「多分~っ!?」
いや、でもここで魔法陣に乗って移動できれば、少なくとも現状よりはマシになるのではなかろうか。
それに、何かあったら戦えばいいのだ。
よし行こう。
俺は決断した。
「行くぞゼータ。しっかり掴まっているんだ」
「はい、おじさま!」
むぎゅっと俺の頭にしがみつくゼータ。
これで落っこちる心配はないな。
俺は彼女を乗せたまま、魔法陣の上に足を掛けた。
頭上のリングから降り注ぐ光が強まり、魔法陣も輝きを増す。
俺達をどこかへ運ぼうとしているのだ!
一体どこへ行くんだーっ!?
ちょっとハラハラドキドキしながら、俺は腰の剣をいつでも抜ける状態に保った。
あまりの眩しい光に、何も見えなくなる。
と思ったら、光は急激に弱まった。
足元の感覚が、安定した台座のそれではなく、もっとゴロゴロガサガサとした不安定なものになった。
これはなんだ?
どこに到着したんだ?
「……外です。外ですよ、おじさま!」
ゼータが俺の頭をぺちぺち叩いた。
叩くのはやめなさい。
ようやく、眩しいのから目が慣れてきた俺は、状況を理解した。
そこは、朝日に照らされる村だった。
昨日見覚えのある家並みが広がり、振り返ると、俺がもらった小屋がある。
そして、村人たちがポカーンとしながら、俺とゼータを見つめていた。
「か、か、か、帰ってきたー!? どこから!?」
眼の前にいたモネが、素っ頓狂な声をあげて驚くのだった。
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