第4話 謎の少女……幼女? を発見した
ソードソナーを使えば、暗闇と言えど色々なものが見えてくる。
地面や壁面、天井の凹凸とか。
そこに住む生き物たちの形とか、大きさとか。
おっと、俺が発していない振動が鞘から伝わってくる。
音を使って他を認識する、この暗闇に住む生き物がいるということだろう。
それが近づいてくる。
音を立てないように接近しているようだが、超音波で相手を認識している以上、俺に伝わらないわけがないのだ。
よし、切っ先の届く範囲。
「ほっ!」
「ウグワーッ!?」
切り裂いてみたら、思ったより分厚い皮の感触。
相手の大きさはかなりのものだ。
つまり、通常なら脅威となりうるサイズ。
俺はそれを判断した瞬間、剣を素早く振り抜いてから持ち方を変え、傷口を目掛けて斬撃を飛ばした。
「ウグワーッ!?」
叫び声が響き、それが左右真っ二つに分かたれて消えた。
よし、両断した。
障害物は消えたので、このまま真っ直ぐ行ってみよう。
空間は大した広さだ。
剣を振り回せる程度の余裕はある。
鍾乳石らしきものがあちこちから飛び出ているので、これを叩いたりして音に変化を与える。
そうしないと飽きてしまうからな。
俺が何か大きな生物を倒した事に驚いたのか、頭上を多くの小さい生き物が飛んでいくのが分かる。
コウモリだろうか?
だとすると……彼らが飛び出せる、外に通じる穴があるということではないだろうか。
俺はコウモリたちの後を追った。
すると……遠くに点のような光が見えてくる。
俺はひたすらにそこを目指す。
音だけではなく、目でも目的地を認識できるようになったぞ。
光はどんどん近づく。
周囲は薄明と言った光の具合だ。
「やれやれ、助かったか」
そこは、鍾乳石やコウモリのフンに覆われた、ホール状の空間だった。
岩と一体化した、太い縄のようなものがあちこちに広がり、出っ張った壁面や床に繋がっている。
異様な形状をした空間だ。
そしてその中心に、棺があった。
いや、パッと見は岩の塊にしか見えない。
だが、よくよく確認すると、そこだけがくっきりと棺と言える形をしており、なんだか分からない物ではなくなっているのだ。
俺は棺に近づきながら、頭上を見上げた。
遥かな上方へと、穴が空いている。
円筒形の天井があり、その左右に外へとつながる隙間が空いているようだった。
「ほうほう。ここからなら、なんとか脱出も叶いそうだな……。いや、地の底とかじゃなくて本当に良かった。外が見えるところで良かった」
俺はホッとしながら、棺らしきものに腰掛けた。
「さて、どうやって頭上まで登るかだが……。斬撃で壁を砕いて、上り坂を作る所から始めるか……?」
ぶつぶつ言っていたら、尻の下の棺がほんのり暖かくなった。
えっ? と思って見てみたら、光っているではないか。
そして棺につながる縄のようなものが、ブゥン……という音をあげている。
耳にはっきりと聞こえる、何かが動いている音だ。
「なんだなんだ?」
俺は棺から降りると、魔剣を構えた。
ちょっと斬ってみるか……?
そう思っていたら、声が聞こえた。
「目覚めて早々ですが、やめてください死んでしまいます」
「なんだなんだ!?」
今度は明らかに人の声だった。
それも、子どもの声だ。
どこからしたのか?
眼の前の棺からじゃないだろうか。
その証拠に、棺がゆっくりと動いていく。
蓋が縦に開いていくのだ。
「書物で読んだ……ヴァンパイアとか、ノーライフキングというやつか……? 確かに、コウモリが出るような洞窟だものな。ありうる……。斬るか」
「やめてください、私はそういう伝説上の生き物ではありません」
そんな声がして、空から降り注ぐ光の中でそいつが立ち上がった。
もこもことした服を着て、フードを目深に被った小柄な人物だ。
怪しい。
俺が剣を振りかぶったので、そいつは慌ててフードを脱いだ。
そこから、銀色の髪が流れ出る。
「……子ども……?」
「はい。私は一応、あなたと同じ人間……のようなものです」
白い肌に、スカイブルーの澄んだ瞳。
かなり整った顔立ちの子どもが、俺をじっと見ていた。
「ただ、記憶の大半は失われていて、私が誰で、ここがどこなのか分からないのです。あなたがその気になったら、私が死んでしまうということだけ分かります。なのでやめてくださーい! 死んでしまいまーす!」
「お、おう、分かった」
俺は剣を収める。
相手には明らかに害意が感じられなかったし。
もし向こうが何かをやる気ならば、その時に対処すればいいだろう。
「一応、私の中に少しだけ記憶が残っているのですけれど……。ここはもっと、素敵な場所だったはずなんです」
「素敵な場所とな? 具体的には?」
こんな真っ暗闇の洞窟が素敵なはずないだろう。
「花が咲き乱れ、あちこちで様々な設備が存在してたはずなんです。私が長く眠りすぎて、たくさんの記憶がなくなってしまっていますけど」
「そうだったのか。普段なら信用できないところだが、君は棺から出てきたからな。ありうるのかも知れない……」
俺は唸った。
そして嬉しくなった。
文化的ではなく、退屈になるであろうと思われた島流し生活。
それが突然、面白くなってきたからだ。
こんなこと、城の中にいたら体験できなかっただろう。
マルサイ兄上には感謝せねばな。
向こうはいつ俺が首を取りに来るか、戦々恐々としているのだろうが。
「ひとまず、私があなたを案内します。うろ覚えですけど、頭上のあそこを抜けるより、もっと安定したルートがあるんです。あったはずです、多分……。私だけだと、この状況になった施設を移動することは困難なので」
子どもはバッと両手を広げた。
「なんだなんだ」
「おんぶしてください」
「なんだって!」
「私は魔法の力で、あなたの後ろにくっつきます。支えてもらわなくていいので」
「ふむ……。子どもの足でちょこちょこ歩かれても困るか……。よし、じゃあくっつけ」
「ありがとう! じゃあ遠慮なく!」
俺が背中を見せると、彼女がぴょんとジャンプした。
俺の背中にむぎゅっと抱きついてくる。
「それで、私はあなたを何と呼んだらいいでしょう? おじさまとか?」
「俺はおじさまと呼ばれるような年齢ではない……」
多分……。
世間一般では子どもがいてもおかしくない年齢ではある。
あるのだが、気持ちは若いのだ。
「俺はハイザット。この島を任された遠島伯だ」
「ハイザットおじさまですね」
おじさまじゃないと言うのに。
「君は、自分が誰かという記憶がないんだったっけ」
「はい、曖昧です。なので、呼び名を決めてもらえると」
「では……書物に出てきた、大地母神に仕える知識の女神の名を。君の名はゼータだ」
「ゼータ! はい、私はゼータです、おじさま!」
「おじさまはやめてね」
こうして、俺とゼータによる洞窟探索がスタートしたのだった。
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