第3話 元村長にハメられたか?
あの後、俺が近づいていったら元村長と取り巻きたちは愛想笑いを浮かべるだけで、何も答えないのだった。
権力は振りかざしたいが、権威を持つ者には弱い。
人の悲しさを見た気がする。
「あたしをハイザット様のお世話係にしたのはこの人たちなんですけどね。なんか、島の女をお付きにさせてハイザット様を味方につけようとしてたんじゃないですか?」
「ほほーん、何かしら狙いはあったんだな」
だが俺が来るに至って、元村長が期待したようなボンクラ王子ではなく、単身で王国軍に痛打を加えた上、武力では鎮圧不可能だったために講話によって下った闘神みたいな王子がやって来たと。
残念だったな……。
「それにしてもあの人達、女らしいあの子たちじゃなく、なんで体も態度もデカいあたしを選んだのかさっぱり分かりませんけど」
そんなモネは、宴が終わると当たり前のような顔をして俺の家に入ってきて、
「それでハイザット様、どうなさいます? あたしを抱かれます?」
「はあ?」
唐突に何を言ってるんだこの女は。
「あー、その顔はそんな気がない顔ですね。内心ちょっとホッとしてます。ほんと、いらっしゃったのがハイザット様で良かったです」
なんとも食えない顔でそんな事を言う、俺の案内役なのだった。
「それではハイザット様、また明日。大して広くもない村ですけど、隅々までご案内差し上げますよ」
「ああ、頼む。しかし、村の規模に比べてルナス島自体は大きいじゃないか。開拓しようという気にはならないのか?」
「いやあ、それが」
モネが半笑いになった。
「とっっっっっても危ないんですよ。森に住む怪物たちの縄張りがあって、入り込んだものを許さないんです。それに島は地下にもひろーい世界が広がってて、そこにはもっとたくさんの怪物たちがいて……。もう、無理無理無理、です。島の隅っこを人間の縄張りにできているだけで、あたしたちは幸運なんですから」
それじゃ、とモネは去っていった。
やっぱり、王子だった人間に対する言葉遣いではないよなとしみじみ思う。
ま、いいか。
だんだん慣れてきた。
遠島伯となった俺は、もうちょっと砕けた感じでやりあえる関係を目指すのもいいかも知れない。
そんな事を考えながら、俺はハンモックに横たわった。
おお、ちょっと揺れるのが船の上にいるようで落ち着く……。
地面は揺れないから、むしろ揺れているように感じでいかんな……。
傍らに魔剣アドラマントを転がし、俺は大いに寝たのだった。
夜半ころ、アドラマントが共鳴を起こして俺を目覚めさせる。
「なんだ、アドラマント」
この剣は己の意思を持つ。
弱いものが手にすれば、たちまちのうちに剣に食われ、魔人と化してしまうという。
まあ、俺は強いから全く問題ない。
見事己を従えたものには、様々な恩恵をもたらす魔剣なのだ。
例えばこのように、危機が近づくと知らせてくれる。
俺はハンモックから降りた。
気配を感じる。
扉の向こうに二人。
窓の外に二人。
「どれ」
俺は無造作に扉を開け放った。
「うわっ! 起きてやがった!」「仕方ねえ、やっちまえ!」
元村長の取り巻きだった連中だ。
いい年をしたおっさんたちで、体つきはガッシリしているものの、動きはなんとも素人くさい。
手にした斧を、力任せに俺へと叩きつけてくる。
「おっと!」
俺はこいつを余裕を持って躱し、アドラマントの鞘でおっさん二人をぶっ叩いた。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
二人とも、鼻と耳から血を吹いてぶっ倒れる。
当たりどころが悪ければ死ぬ一撃だからな。
お前ら、剣を抜いてなくても俺は強いんだぞ?
左右から、さらにおっさんが出てくる。
手にしているのはなんだ?
筒のようなものだ。
そこから、真っ白い何かが吐き出され、俺めがけて広がった。
網だ!
網を固めた物を、射出する筒なのか。
見たことも聞いたこともない。
柱を巻き込みながら、ぐんぐん伸びて俺へと迫る。
「刃が通らぬ不壊の網だ! おしまいだぞ第三王子!」
「そういうものなのか。どれ……?」
俺はアドラマントを抜き放った。
網を十文字に切断し、鞘に納める。
なるほど、プレートメイルよりも切断しづらい手応えだった。
「そ、そんな……! 森の化け物たちですら拘束できる網だぞ……!? たった二つしかないうちの一つを使ったってのに、ば、化け物だあ……」
おっさんがへたり込む。
俺は手加減はしない。
鞘でおっさんの頭をぶん殴っておいた。
いや、手加減はしてるな。
いちいち、一人ずつ丁寧に相手をしてやっているんだから。
「俺は一応、国から任命された遠島伯だ。傀儡に出来なさそうな領主が来たからって、俺を下してまた村長に返り咲こうなんてのは虫が良過ぎはしないか?」
振り返りもせずに声を掛けたら、元村長の呻く声が聞こえた。
「こ、この島は……! 俺の……俺のものなんだ……! 俺の一族がずっと支配してきたのに……! どうして、どうして今になって王族なんかが来るんだ……!」
「それはな、マルサイ兄上が反乱を起こしてそれを見事に成功させたので、俺が大変邪魔になってこの孤島へと送り込んで帰ってこれないようにしようというだな」
「説明とか! 今は求めてないだろ!! むきーっ!! お、お、お前は許さん! 村長である俺の誇りを掛けて、お前を葬ってやる! この転送装置を使ってだな……」
ただならぬ響きに振り返ると、元村長は金属がごちゃごちゃと絡まった、不思議な道具を手にしていた。
それが唸りを上げ、緑色の輝きを放ちつつある。
「おい、なんだそれは」
「ふひゃひゃひゃひゃ! こ、こいつはな! 俺のご先祖様が遺跡に潜って手に入れた道具なんだ! こいつで気に入らないやつを飛ばしてしまえる! そいつは二度と戻ってこなかった! これは最後の一個だ! これでお前を飛ばして、俺はまた村を手に入れる……」
遺跡……?
この島に遺跡があるというのか?
つまり、この島には村人が住み着く前に文明があったことになる。
モネが言っていた、怪物たちが縄張りとする世界、島の地下の世界という話が脳内をぐるぐると巡る。
この島、どうもただの島じゃなさそうだな……?
次の瞬間だ。
緑の光が周囲に放たれたと思ったら……。
俺と元村長は暗闇の中に立っていたのだった。
「ひっ!? こ、ここは!? 暗い! 何も見えない! なんで俺までこんなところに!? 話が違う! これは気に入らない奴を吹っ飛ばす装置じゃ無かったのかーっ!」
どうやら転送装置とやらは、俺と元村長をいっぺんにどこかへ送り込んでしまったらしい。
「使い方を間違ったんじゃないか? だが、効果は確かだった。俺とあんたは、どこなのかも分からないところへ飛ばされてしまったわけだ」
一筋の光も刺さない闇の中で、俺は思う。
例えばここが、元村長の言っていた遺跡だとしたら?
あの金属塊は、どこにいてもここに戻ってこれるようにする装置だったとしたら。
あり得る。
「そんな……! そんなバカな! どうして俺がこんなことに……! ああーっ、誰か助けてくれーっ! 誰かーっ!!」
元村長は混乱し、暗闇の恐怖に何か叫びながらふらふらと歩いていってしまった。
なんという無謀であろう。
途中で「ウグワーッ!!」と叫びが聞こえて、それっきり元村長の声は途絶えた。
まったく、暗闇には暗闇の歩き方があるというのに。
俺はアドラマントを抜き、鞘と打ち合わせた。
共鳴音が鳴り響く。
この振動が空間に広がり、存在する壁や生物にぶつかって戻ってくる。
これを剣と鞘で受け止めて感じ取ることで、俺は暗闇でも見えているかのように行動ができるのだ。
ソードソナーという、俺が考え出した技だな。
暇つぶしで作ったのだが、役立つとはな……。
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