第55話 おサルを襲った脅威とは
猿たちが、領民と打ち解け始めた。
基本的に、お互いが完全な異物ではある。
猿にとっては、俺とゼータとは違う、小さくてあまり強そうではない人間がたくさんいる光景。
対して領民からすれば、巨大で恐ろしい怪物のような猿だ。
だが!
ここに俺というエッセンスをひとつまみいれることで、関係は実に良好なものになるのだ。
猿は俺に全幅の信頼をおいており、いうなれば俺は彼らの大ボス。
そして領民は俺に従う仲間であり、猿からすると同じ大ボスに仕える存在なわけだ。
で、領民からしても、俺が従えているのだから大丈夫であろうという考えになる。
ということで……。
「この果実は収穫するんだ」
『ムキャ?』
「そうそう。そうやってカゴに入れてくれ。上手い上手い」
『ホウホウホウ!』
領民が猿にクアットロの実の収穫方法を教えている。
保護色猿は頭がいいので、これをすぐに覚えて作業をもりもり進め始めた。
「あとで美味いスープを作ってやるからなー」
『ムキャキャ?』
「なんだかんだで上手くいきそうですね! 一時はどうなることかと思いましたが、おじさまが上手くやってしまいました。力こそパワーなのですね」
「なんだその格言? どちらも俺を信用してるだろ。だったら、仲間なんだからすぐ仲良くできるだろうと考えたのだ」
「ハイザットさんが圧倒的に強いからこそ可能な作戦。ハイザットさんの前だと、ちょっとくらい強さに違いがあっても無意味だから。ラビハ感心」
そうだろうそうだろう。
異常な強さを眼の前にしたとき、人は細かいことなんかどうでもよくなるのだ。
猿もだ。
子猿たちは、領民から果実を分けてもらい、美味そうに食べている。
乳飲み子のいる母猿も、果実をもらっているようだ。
みんなハッピーになるのが理想形だな。
「ウキャ」
「おっ、どうしたランチャー。なに? マクツーが話がある?」
「今、おじさまが私を介さずにナチュラルにランチャーと会話しましたね」
「ハイザットさんが何をやってもラビハは驚かないかなー」
なんだと。
俺にだってできないこともたくさんあるんだぞ。
『ウゴウゴ』
「どうしたどうしたマクツー」
『ウゴゴ、アギャアギャ、ギャオー』
「ゼータさん」
「はいはい。紫の虫が、島端にある果樹林に陣取ったそうです。それは海の底からやってきた恐ろしい虫で、おサルさんたちでは勝てなかったそうです。オスが何匹も犠牲になったので、慌てて撤退してきたということですね。マクツーさんはサブリーダーだったのですが、ボスがやられたので後を継いだのだそうです」
「なるほどなあ……。それを俺にどうにかして欲しいと」
『ムギャ』
「よしわかった。やろう。だが今日はもう遅い。明日やろうな」
『ムギャー、ウギャ、ギャホー』
納得してもらえたようだ。よきよき。
こうして収穫を終え、荷物を持った者たちは転送装置で。
手ぶらの者は本日繋がった通路を使って帰ることにする。
「ほえー、道が繋がってる!」
「あの不思議な装置で移動しなくていいのか!」
「こいつは便利だなあ……」
一部の猿たちも、後をついてくるのだ。
おっ、カゴを抱えてくれてるのがいるじゃないか。
完全に仲良くなったなあ。
こうして、崖際の通路を抜けてたどり着いたのは伐採用の森林。
ほとんどの領民は村に戻っていたが、ごくわずかに居残りで斧の練習をしていた者たちがいた。
彼らが保護色猿を見て、
「ぎええええ」
と腰を抜かした。
すぐに他の領民が説明をし、猿たちと握手したりしてみせる。
保護色猿は、見た目がかなり強烈だからなあ。
森を抜けて、ターミナルへ。
ちょうどジムニがおり、
「おおーっ!! 殿下、また新たな領民を迎え入れましたな!?」
一瞬で理解するジムニなのだった。
そして彼はなんと、保護色猿の存在を知っていたのだ。
「カメレオンエイプという怪物でしょうな。主に果実や草、昆虫を食べる猿ですぞ」
「ほほー。大型の動物は食べないのか?」
「食べませんな。平和的な生き物ですが、縄張りに入ってきた者に対しては激しい攻撃を加えるとされております。かの文献を読み解いたら先日出てきましたぞ」
「なるほど……! じゃあこいつら、ブルーキウイとも共存できるんだな」
初手でこいつらの仲間を殺してしまったのは悪いことをしたな。
これは、紫の虫とやらを退治して、埋め合わせをしてやらないといけない。
ここで、ほとんどの猿たちは森に帰っていく。
領民たちが彼らに手を振ると、それを見た猿たちも真似して手を振り返すのだった。
そして、一匹だけ残っているのだが。
「マクツーの連絡役?」
『キャホキャホ』
「よし、じゃあ明日の待ち合わせの時間とかを伝えようと思うのだが……その前にジムニ。このカメレオンエイプたちは、紫の虫に追い立てられて果樹林から逃げ出したそうなのだが、この巨大な猿を一方的に追い出すような虫で、紫で、海から来るものの心当たりはあるか?」
「さて……。それだけではなんとも言えませんが。ですが、推測はできますな」
「ほう、それはなんだ?」
「カメレオンエイプの群れが対抗できないほどの強大な怪物。それは亜竜でありましょうな」
「亜竜か!」
亜竜というのは、一匹で一軍にも匹敵する、常識はずれに強大な怪物を呼称する呼び名だ。
その中でもピンキリなのだが……。
紫の虫は恐らく、強い方であろう。
「なんとなく理解した。よし、明日戦いに行く」
「なんと!? 殿下、亜竜との戦いの経験は?」
「ないなー。今まで人間とか小さめの怪物としか戦ってなかったんだ。ベヘモスとも戦わずに済んだしな。だから、ここらでデカいやつと戦うのは運命だったかも知れないな」
「なんという自信……!」
これをゼータに通訳してもらい、連絡役の猿が満足げに頷いた。
そして去っていくのだった。
明日は期待していてもらいたい。
「なんだか話が大きくなってきた? ラビハ出番の予感!」
間違いなく、ラビハの手も借りるだろうな。
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