第56話 紫の亜竜
カメレオンエイプを襲った紫の虫……推定亜竜。
これは島の端にいるらしい。
向かうのも一苦労だろう。
「ゼータ、そういう感じの転送装置とか……」
「転送装置は、パッと見だとどこに行くか分からないんですよね。表示が風化して削れてしまったみたいで」
装置は動くのに、情報が読み取れなくなっているのは不便だな。
『ギャオギャオ!』
「なに、マクツーは場所を覚えているのか。よし、案内してくれ。ラビハ、俺たちをマクツーにくくりつけてくれ」
「はいはーい。ラビハにお任せ! 糸糸糸糸〜!」
ラビハが呼び出した糸が、マクツーの体に俺たちをくっつける。
「さあ運んでくれ。すぐさま状況を始めたいからな。最高速度で移動していいぞ」
『ムギャギャー!』
マクツーは雄々しく吠えると、俺たちを背中にくっつけて跳躍した。
あっという間に、周囲の木々のてっぺんまでたどり着き、そこから樹木のてっぺんを蹴ってその反動で移動する。
「わおー、速い速い! おじさまの移動に比べると、慣性がちゃんと働く移動なので、納得感が高いですね!」
「まるで俺が異常な移動方法をとっているような言い方をしているな」
「ハイザットさん、当たり前みたいに空をスイーッと移動してくるから相手にするとかなり怖い。ラビハ恐怖」
「そうかあ〜? ソードクッションでちょっと空中を歩いてるだけだぞお?」
「おじさま、人間は空を歩かないんですよ。ラビハちゃんだって糸を使ったハングライダーで飛んでるんですから」
「うん、ラビハは飛ぶ。ダイードさんも飛んでる。でもハイザットさんは歩く」
「ええー。いいだろう、一人くらい空を歩くやつがいても」
こんな話をしているうちに、マクツーは目的地にたどり着いたようだった。
実に速い。
船で周辺を移動するよりも、カメレオンエイプの跳躍力で木々の間を飛び渡って行くほうがずっと速いのだな。
『ウギャウ、ギャホー』
「マクツーが警戒するように伝えてきてますね。おじさま……に言っても無駄なので、ラビハちゃん注意してくださいね」
「俺はいいのか」
「うふふ」
ゼータが笑ってごまかしつつ、俺の背中の定位置に合体した。
うーん、この重さがあると最近落ち着くようになってきた。
さて、降り立った場所は白く輝く低木の森。
立ち上がると、俺の頭が上から出るくらいのサイズだ。
そして背の低い木々には、白く大粒な果実が実っていた。
こりゃあなんだろうか。
「もいでみる。ラビハ試食」
『ギャオ! ホウホウホウ!!』
突然、マクツーが警戒音を発した。
もしや紫の虫とやら、この白い果実を手にするものが現れると、それをトリガーにして出現するのか?
俺の予測通りだった。
アドラマントが振動する。
俺はなんとなく、こっちかなと思う方向に剣を抜き放った。
次の瞬間、飛んできた岩石みたいなものが剣に触れて砕け散る。
「いきなり攻撃が来たな」
「ハイザットさん、なんで反応できたの!? いきなり攻撃が来た!」
「なんか来るなって分かるじゃん? ほら、殺気とかそういうのがあるから」
「感じない感じない!」
確かに、低木の森を見回す限り、相手の姿は影も形もない。
だが、俺はカメレオンエイプを知ったことで、姿を隠した相手との戦い方をマスターしたのである。
「ラビハ、あちこちに糸を伸ばしておいてくれ。でたらめでいいから」
「わかった! ラビハ展開〜!!」
「マクツー、石を拾っていつでも投げつけられるようにしてくれ。当たらなくていいからな。お前のパワーで石が投げられてくるぞって相手に思わせるのが大事だ。では行くか」
俺は無造作に、低木の森の中を歩きだした。
剣を左にかざす。
そこから飛んで来た岩石が砕ける。
次に正面。
また砕け散る岩石。
さて、これはどういう攻撃だろう?
「おじさまが予兆なしの突発的攻撃を当たり前みたいに防いでますねえ……」
「そう、それなんだよ。突然空間から、飛来する岩石が生まれるんだ。多分俺が思うに、魔法みたいなものだろう。召喚魔法かも知れない」
『ギャオーン! ウギャギャ!』
「虫が出てくるって言ってます!」
「相手を投石で弱らせてから本体登場ってわけね? なるほどなるほど。ってことはこれは……何らかの超感覚で捉えて石を投げているってことだ。あいつはこっちを視認してない」
俺のすぐ目の前に、巨大な何かが出現する。
紫の甲冑めいたものに身を包んだハサミムシだ。
背中に岩石を乗せていて、これを尻尾のハサミで掴んでは投げつけていたようだ。
どこから現れたのか?
それは、この空間の裏側としか言いようがない。
『キキキキキキキキキ!!』
甲高い声で鳴くハサミムシ。
大顎が俺めがけて繰り出され、
「そいっ」
俺はやつの頭を切り飛ばした。
「あっ、一撃!」
『ギャボ!?』
「ハイザットさん気をつけて! それ影!」
「おう、じゃあこっちもそいっ」
『ウグワーッ!?』
背面に斬撃を浴びせると、何もないところから血しぶきが飛び散った。
紫の巨大な足が一本切り飛ばされ、辺りに青い血が撒き散らされる。
「ラビハ!」
「はいーっ!」
糸が虚空に絡みつく。
そして、空間の裏側に隠れていた亜竜が引きずり出されてきた。
力で引っ張られたというよりは、全身を糸に巻かれて隠れられなくなったというか。
正面にいたハサミムシが空気に溶けるように消え、背後にさらに大きなハサミムシの姿が現れた。
これを目掛けて、マクツーが投石をする。
ガツンと石が炸裂!
『キキキーッ!!』
ハサミムシが怒りに満ちた声をあげた。
「空間を渡り、相手の虚を突く巨大な怪物……! 紛うことなき、ヤバヤバな亜竜ですよおじさま!」
「おう、それっぽいな!」
これはなかなか強いかもしれん。
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