第54話 領民よ、おサルを紹介しよう
崖際の道を解放したが、ここは通路の他は森になっている。
『ムギョギョ、ウゴウ』
「ボスのおサルは、この森は安全そうだから我々の住処にしようと思うと言ってますね」
「いいぞいいぞ。じゃあここの木は切らないように言っておくからな。そっか、ここに家を構えると、あの花の蜜がいつでも吸えるわけだな? 腹は膨れないが、おやつになると」
「ウキャキャ、ムキャー!」
おっ、ランチャーが手を叩いて跳ねている。
多分、俺の話が正解だったんだな。
今は、ランチャーがゼータを背中に乗せてトコトコ歩いているのだ。
「よーし、ではさらに先に進むぞ。ターミナルから数えて二つの領域を通過するから、そろそろ畑や果樹園があってもいい頃合いだが……」
一つ一つの領域は、重なり合った部分を除いても半ティタン以上ある。
この島が全体長で、20ティタンほどの大きさがあると俺は睨んでいるので、半ティタン強が居住区、ターミナル、伐採林、崖の道と続いたなら、もう2ティタン半はあるというわけだ。
『ムキャ!! ウキョホウ!』
『ホウホウ! ヒョウヒョウ!』
「おじさま、酸っぱい香りがしてきたとみんなが言ってます。酸っぱいということは……」
「ああ。クアットロの果樹園があると見ていいだろう。よーし、突っ込めー!」
俺が先頭を切って、猿たちを率いる。
次なる場所は、やはり森だった。
この辺りは緑の光の領域なので、どこまでも森なのだろう。
こりゃあ、石碑を解放するというやり方を選択できないなら、開拓なんか不可能な島だな。
「怪物たちが出てくるからな。気をつけろ。ラビハ、石碑を探してくれ」
「はいはい、ラビハにお任せ! それにしてもハイザットさん、完全に大きな猿たちを統率してる。おサルのボスみたい」
「おサルも人間もそう変わらん……いや、王国のことを思い出すなあ。プライドとか偏見とかを考えると、猿のほうが統率しやすいよな」
ラビハと喋りながら、俺は襲ってくる人面樹たちを次々になぎ倒す。
『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』『ウグワーッ!?』
猿たちも人面樹に飛びかかり、集団で引き倒したり枝をへし折ったり、樹皮をひっぺがしたり。
いいぞいいぞ。
「何気に、おじさまが初めて軍を率いた戦いなのではありませんか?」
「あっ、言われてみればそうだ! まさかおサルの軍勢が最初の部下になるとはな……」
なお、俺は一人で突っ込んで行き先を示しているだけで、猿の実質的な指揮はボスザルが行っているのだ。
つまり俺の副官というわけだ。
なにっ、俺にとっての初めての副官はボスザル!?
「よし、仮にお前をマクツーと名付けよう。これは俺が子供の頃に城で飼われていた犬の名だ」
「おじさま、おサルに犬の名前をつけるのはどうかと思いますが」
「あんまり名前のレパートリー無いんだから勘弁してくれよ」
『ギャボッ! ホウホウ!』
「ほれみろ、マクツーは気に入ったようだぞ」
「彼はおじさまを上に立つ存在だと認めてるので、全肯定してくれてるんですよ」
いいの。
俺たちが大暴れして人面樹の群れをひきつけるというか、押し込んでいる間に。
ラビハが石碑を発見してくれた。
あとは、石碑の場所までランチャーと彼のママがゼータを運んでいってくれる。
ランチャーはゼータを背負ってて疲れちゃったなー。
今はゼータと並んで、ママの背中にしがみついている。
「運んでくださってありがとうございます! 行きますよー! ミーユ・カム・ユーダビン! 石碑よ目覚めよ!」
これが決め手になった。
森の地形が変化を始め、残った人面樹は大慌てで逃げていく。
あれは一体どういう生き物なんだろうな……。
そして出現したのは、森を横断する道だ。
道のずっと先に、真っ赤な色彩が見えた。
クアットロの果樹園だ!
繋がった!
「おサルたちよ! あそこが、お前たちのもともといた果樹園だ! あの辺りでご飯食べていいからな。その間に、俺が紫の虫とやらを退治してやろう」
俺の宣言に、猿たちが大いに盛り上がった。
みんな一斉に鳴き声をあげ、リズミカルに唱和する。
「なんだなんだー!?」
「歌ってる? ラビハ驚き!」
「これはおじさまを称えていますね! 全てを切り裂く枝と呼んでますよ。これがおじさまの称号なんですね」
「ははーん、おサルには剣という概念が無いものな。しかし称えられるのは悪い気分ではない……」
猿たちを率いて、果樹園に凱旋した。
そうしたら働いていた領民がパニックになった。
「うわー! 怪物だー!!」
「ここは安全だったはずなのに!」
「もうだめだー!!」
「待て! 待つんだ! 俺だ! ハイザットだ! こいつらは俺が従えている話のわかる猿なんだ! 逃げるんじゃない!」
ということで、領民たちと保護色猿の顔合わせを行った。
石碑が排除しなくなった保護色猿は、完全にこちら側の存在……つまりは領民なのだ。
戦力としても使えるから、この島の防衛に役立ってもらおう。
その代わり、人間は彼らの食物にもなる作物をたくさん作って育てると。
共生関係ができるではないか。
「おサルさんたちは、おじさまが分からせたので人を襲うことはありませんよ」
「ひえ~! さ、流石領主様……! 俺たちの想像もできないことをあっさりやってのける……」
「いやあ、痺れるなあ……」
憧れと尊敬の眼差しを受けてしまうのだった。
いかんいかん、このままでは俺は調子に乗ってしまうではないか。
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