第46話 倉庫には謎の道具がいっぱい
あちこちを覗いている少年たちを回収し、先に進んでいく。
一人は、やたらと磨き抜かれた浴室を発見しており……。
もう一人はトイレに見とれていた。
「確かに、実際に使われているとは想像もできないほど美しい作りをしているな。王宮のものよりも遥かに凄いぞ」
「作られた時代が違いますからねえ」
「ルナス領のトイレは、ちょっと身を隠すムシロが立てられてて、その裏に穴を掘るだけだからな」
「後で回収して肥料にするんですから、合理的じゃないですか?」
「それはそうなんだが、このトイレはなんというかあまりにも特別な体験過ぎるだろう。カルチャーショックだ」
「今のこの世界の文明では扱いきれませんから、気にするだけ損ですよ」
「なんとなくゼータの言わんとしていることが分かってきたな。確かに、今の俺たちはこれを使いこなすことはできまい。そんな余裕がない」
まだ便器を眺めている少年たちを引っ張って、移動だ移動。
「うおー!」
おっと、声が聞こえるぞ。
残る最後の少年が、何かを見つけたらしい。
「私が灯りをつけているので、居場所をサーチできますよ」
「人間を目印に変える魔法なのか、あれ……! ゼータもなかなかえげつない魔法を持っているな」
「まあ! 私の魔法は人が死にませんからとっても平和なんですよー」
「そう言われるとそうだが」
ゼータに案内されて歩いていく。
途中から、通路の幅がやたらと広くなった。
アガマス号がそのまま通過できそうだと言えば、広さのイメージがしやすい。
右手には、無数の閉ざされた扉があった。
それらは全て、ゼータの一存で封印されている。
まだ俺たちが扱うには早いものらしい。
あのトイレと風呂ではっきり分かったな。
石碑を復活させることで解放される、この島の施設。
これは、俺たち人間が扱える次元を遥かに超えた、超文明とでも呼ぶべき時代に作られた代物だ。
これから斧を開発し、森を伐採するぞーとか、家の建て方を基礎から勉強し、掘っ立て小屋ではなくマシな小屋を作るぞ! という段階でしか無いルナス領には、あまりにも過ぎた道具なのだ。
だが、せめて何か、領地の運営が楽になる道具があればなあと思う俺なのだった。
ちょっとでいいのだ。
祈りにも似た思いを抱きながら進むと、扉が開いている場所があった。
「ここは言わば倉庫ですね! 誰でも使えそうな道具がしまってあるところを解放してあります」
「なるほど……! ここに、領民の暮らしが楽になるものが何かあるといいんだが」
「おじさまが善性に満ちたことを言ってます。この間の奴隷船のこともあって、すっかりおじさまを恐ろしいモンスターだと思っていました」
「何おう!? あんな魔人奴隷商なんかは強けりゃ普通に倒せるだろう。そんなことより、たくさんの人間を食わせ、文化を醸成していくってのはもっと遥かに難しいんだ」
「それは仰る通りですねえ」
うむ、分かってもらえて何よりだ。
さて、倉庫を見てみるとしよう。
少年は……。
うおっ!
崩れてきた資材に埋もれている!
「たすけてーっ」
「無茶をやったな? 少年というのは放って置くとすぐに死にに行くものだ」
俺は彼を押しつぶしている資材の山をどけていった。
おや……?
これはどれもこれも、謎の素材で作られた棒では無いのか。
重さは軽く、手に馴染む。
軽いとは言っても俺基準なので、これがぎっしり詰まった山に突撃して崩し、それに押しつぶされてしまった少年は身動きができなかったらしい。
「この棒はなんだろう?」
「それはですね、おじさま! 倉庫の右手をご覧ください」
「ほうほう……あっ! 黒いブロック状のものがある。そこに穴がいくつも空いているぞ」
近寄って見てみると、ブロックのそれぞれに絵が描いてあった。
こっちは斧、こっちは槍、こっちはさすまたか?
「どれどれ……」
斧のところに棒を突っ込んでみた。
棒の先端が六角形になっており、上手く押し込むとカチッと音がする。
そして引っこ抜くと……。
「うおっ! 棒が斧になった!」
「はい! アタッチメント式の十得棒です! とは言っても、これも恐らくルナス領の文明では使いこなすことが難しいですから、当座は斧として使うのがいいと思います」
棒は消耗品らしく、そのために何本もあるようだ。
斧は一度に三本用意できる、と。
いいぞいいぞ。
この施設を復活させた甲斐があった。
斧をゲットしてしまったではないか。
「よし、目的の一つは果たした」
「はい? 斧を三本手に入れただけではないですか?」
「十分だろう。これで森を切って材木を手に入れられるぞ。ルナス領にとっては大きな一歩だ。素晴らしい前進だ」
「おじさまが謙虚すぎます! もっと凄い技術とか道具が眠っているんですけど……!」
「そういうのはもう少し余裕ができたら手出しをするものだ。等身大でやれることからやっていく。うちはそういう領地なのだ」
はえー、とゼータが声をあげた。
「戦う時は等身大どころか神をも殺しそうな勢いなのに、開拓となると本当にこじんまりと収まりますねー」
「主役は領民だからな。俺は彼らがやりやすいように場を整えるだけだ。ああそうだ。あの光で出来た本だが、後でジムニを連れてくるから、ゼータが読み聞かせてやってくれ。なんならメモできる紙なんかがこの施設にあるなら使わせて欲しいぞ」
「あ、それは大歓迎です! せっかく解放したんですから、使い倒してもらわないと……」
それにしても……と俺は施設を振り返りながら思う。
これは、人間にはあまりにも過ぎた力だ。
ジムニ以外の人間には、侵入を禁じておこう。
過ぎたる力は、絶対に災いを呼ぶからな。
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