第42話 移住者たちに対する脅威の伝授
爽やかな朝が来た。
堅焼きパンに何かしら乗せて食う。
このバリエーションを増やしていきたいところだ。
移住者たちは早起きで、もう目覚めて朝の浜辺を見ている。
何やら感慨深げだな。
朝食は終えたらしい。
「おはようございます、ハイザット様。この国では、皆で朝食をとるのですね」
ジェイドが俺に振り返り挨拶してきた。
「国というか領地だがな。俺は一領主に過ぎないんだ。それと、みんなで飯を食ったほうが一度に準備できるし、効率的だろう。もっと領民の数が増えたら、めいめい食べられるようにしたいな。だが各家には炊事設備がないのだ」
そのためにも、家々のパワーアップは重要なのだ。
「ハイザット様ほどのお方を従える王がいる……!? それはどれほど凄まじいお方なのか……」
「ハハハ」
笑うしかないところへ、ゼータとモネがやってきた。
「おはようございます。おじさまが笑って誤魔化していますね」
「ハイザット様が本国でどんな扱いかなんて、想像もできないよねえ」
話したところで分からないものは分からない。
マルサイ兄上は、俺を従えるほどの偉大で物凄い王様ということにしておけばいいのだ。
「ではみんな食事が終わったな? 行くとしよう。この島が理想郷などではなく、むしろこれから俺たちが切り開いていかねば地獄がどこまでも続く場所であることを、その目で確かめて欲しい」
「またまた大げさな」
「俺たちはあの奴隷商のもとにいたんですよ。並大抵の危険なんか気になりませんよ……」
「ハハハ」
「おじさまがまた笑いました!」
「これは分からせをするつもりだねえ」
「ハイザットさんの笑いが怖い。ラビハ戦慄」
なあに、大したことはない。
移住者の代表であるジェイドも、すっかり安心しきった顔ではないか。
では、彼らを連れてガツッと恐怖体験!
ターミナルの外側に一歩踏み出したのだった。
「うわあああああああ」
「ひいいいいいいいい」
「きゃあああああああ」
「しぬ、しぬ、しぬ!!」
「直接的に命を狙ってくる!」
「奴隷商より怖い!!」
「やばいやばいやばい」
「ああああもうだめもうだめもうだめ」
「ハハハ」
「おじさまーっ、笑ってる場合ではないですー!」
「いや、この島がいかに恐ろしいかを知ってもらえたようで嬉しいよ。ホイホイのホイ」
「ハイザットさん、よそ見しながら次々に巨大な鳥とか空から落ちてくる人食いイモムシとか、地中から飛び上がってくる巨大ミミズとか、動きながら枝を叩きつけてくる人面樹とかを薙ぎ払ってる」
「ラビハもみんなを守ってくれてありがとうな。40人ならぎりぎり行けるか」
「ラビハ、キャパオーバー。ラビハ限界……!!」
さすがに40人はきついか!
だが、移住者たちはこれで存分にルナス島の恐ろしさを思い知ったことだろう。
こんな怪物たち、魔剣がちょっと振動するかな? 程度の大したことない脅威なんだぞ?
うーむ、こういうのにも対応できるよう、村人をそのうち訓練しなければならないだろうな。
このままでは移住者たちが恐怖とストレスでおかしくなりそうだったので、撤退することにした。
「よし、放鷹!」
どがーんっ!!と雑にぶちまけられた剣風が吹き荒れ、怪物たちが『ウグワーッ!!』と消し飛んだ。
よし、今だ!
俺たちはターミナルまで撤退することになる。
その距離、なんとわずか5000ティタ……。
「50メートルですね。ちょっと進んだだけで地獄に変わるの、本当にこの島凄いことになってますよねー」
ターミナルに入ってしまうと、明らかに周囲の空気が変わる。
明るい日差しに、爽やかな風。
湿気はちょっとあるものの、ここまで潮騒も聞こえてくる。
「こ……ここは……どうなってるんですか……!? 人間が生きられる世界から一歩外に出ると、人を絶対に活かして帰さないような恐ろしい場所になるなんて……!」
ジェイドが移住者たちの感想を代弁してくれた。
いいぞいいぞ。
「俺がここに来たばかりの時は、あの海辺の村しか無かったんだ。そこから先は全て、人外の怪物たちの世界だった。そこを一つ一つ取り戻していっている。ルナス領は、今まさに成長中というわけだ」
移住者たちは、俺の言葉を真剣に聞いている。
その目には、もう慢心の色はない。
「そうか……。俺たちの力があれば、この安全な世界はもっと広がっていくんですね?」
「そういうことだ。俺には戦うことしかできない。その後、人が住む世界を広げて安定、運営していくのは君たちの仕事というわけだ」
「ハイザット様は、たった一人であんな恐ろしい世界と戦っているのですか!?」
「いや、ゼータがいなければ石碑を解放できず、そこを人の領域に変えられない。攻略よりも大事な目的がある時は、ラビハにサポートしてもらわないと達成は難しい。俺も一人じゃダメなわけだよ」
おおーっとどよめく移住者たちなのだった。
さて、彼らもそろそろ移住者たちではないだろう。
立派なルナス領の住民だ。
「では諸君、海辺の村に戻ろう! エウゴ菜の調理や、繊維を使った編み物、それに今日眠るための家の増築……やるべきことは幾らでもあるぞ!」
「はい!」
彼らは元気に戻っていった。
うんうん、いいことだ。
恐ろしい世界に囲まれた儚い存在が、あの村だ。
だが、世界は広げていくことができるし、そんな世界を維持、発展させていけるのは自分たちだけなのだということを理解してもらえたのではないだろうか。
「おかえりハイザット様ー。なんかみんなスッキリした顔してましたね」
モネがやって来た。
一回人外の領域まで行って懲りたモネは、絶対に俺に同行しようとしないのだ。
賢い。
「じゃあおじさま、今日はどうするんですか? あっという間に予定も終わってしまいましたし……」
「そりゃあ、彼らの家の建築を手伝うさ。俺のこの図体があって力仕事をしないなんてのはもったいないだろう」
「ハイザット様ってそういうところ気さくですよね。みんながハイザット様を慕う理由が分かっちゃうなー」
「偉い人は自分の手を汚さないって聞いたけど、ハイザットさんは違う。ラビハ不思議」
ということで。
家の増築をしに行くとしよう。
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