第41話 移住者に対する手厚いフォロー
村の中心には大きな井戸があり、常に水で満たされている。
元々は海水らしいのだが、不思議な力で塩分や汚れだけが濾され、そのまま飲用できる綺麗な真水が湧いているのだ。
これは村の始まりとなる人々が住み着いた時には、既にあったと言う。
これがあったからこそ、人々は長い間生き延びて、俺がここにやって来ることができたというわけだ。
そんなきれいな水で……。
元奴隷の移住者たちをゴシゴシ洗います!!
「こ、こんなきれいな水で水浴びを!? そんな、海水で十分……」
「いいんだよ! 幾らでも水は出てくるから! それよりも清潔にするのが大事!」
移住者たちが村人に洗われている。
男女でスペースを設けて、女たちは汲んできた水を使い、家々の向こうで体を洗っているようだ。
石鹸まで使ってすっかりきれいになったジェイドが、呆然としていた。
「驚いた……。こんな歓迎をされるなんて思ってもいませんでした」
「こればかりはルナス島がもともと持っていたものだ。島の底力というやつだな。そしてこれから君たちにあげるものは、ルナス領になってから生まれたものだ。最近ようやく手に入れた、我が領土の豊かさを体験してもらおう」
俺の指示で焼かれていた堅焼きパンが、エウゴ茶とともに提供される。
エウゴ麻で編まれたゴザの上に、木製の器が並べられ……。
卵とエウゴ菜の漬物が載せられた堅焼きパンを食べてもらうのだ。
うーん、エウゴ菜、大活躍過ぎる!
お前、どこを見渡してもいるな!!
なお、この食事は元王族である俺からすると質素もいいところなのだが、穀物に卵、そして野菜にお茶で水分と、必要なものをすべて満たしている。
移民たちは大いに感激し、ガツガツと食事を平らげていった。
そこまで量は多くないのだが、奴隷ぐらしで胃腸が弱っているかも知れない。
ここは少しずつでいこう。
「凄い……。思っていたよりもずっと豊かなところなんですね、ルナス領は」
ジェイドが感動していた。
「もっと貧しかったんだ。だが、みんなの力で少しずつ島を開拓し、こうしてそれなりに美味いものを食えるようになって来た」
「開拓は主に、おじさまと私の仕事でしたけどね!」
ゼータが俺の背中をよじ登り、肩口からひょこっと顔を出した。
「それと、島はとぉぉぉぉ~っても危険です! おじさまと私がいない時は、許された地域外に行くと死ぬので注意してくださいね!」
「死ぬ……!? そんな大げさな」
ジェイドが半笑いになり、他の移民たちも頷いた。
だが、元の住民たちが誰一人として笑っていないのを見て、彼らの表情がこわばった。
「ほ……本当なんですか?」
「本当だぞ。明日はこの島の恐ろしさをちょっと見るだけのツアーにご案内しよう。だが、今日はこのままゆっくりしていってほしい。みんなー! 彼らのための家を建てていくぞー!」
おおーっと男衆から声が上がった。
木材を使って、簡易な建物を組み立てていく。
雨風をしのげる最低限でいい。
ひとまず形にして、後から隙間を埋めたり床をいいものにしたりでグレードアップしていく。
そもそも、この島は木造の簡素な建物以外存在しないのだ。
夕方ころになって、男衆が俺のところに来た。
「大変です領主様!」
「どうしたんだ」
「やっぱり短時間だと一軒もできません!」
「あ、やっぱりかー。家は一朝一夕じゃできないんだな。いい勉強になった」
これは、アガマス号がいた洞窟を使ってもらうしか無いか。
そう思ったところで……。
「ふふん、ラビハにお任せ」
「おお、ラビハがいた!!」
現れたラビハが、糸を使って次々に家を組み立てていく。
糸による建造物固定で、スピーディに組み立てが完了するのだ。
「うーん、凄い能力だ。まさに汎用性……」
「一軒できた! ラビハ迅速!」
男衆が「すげー」と感心している。
あれは超人だからな。
それに、糸を使った接着は一時的なものだから、明日以降はしっかりと固定していくのが手作業だぞ!
こうして、男性用、女性用に仮組みされた建物で寝てもらうことになった。
それぞれの家に20人ずつなので、ぎゅうぎゅうで済まんな……!
「いえいえ! 奴隷船から解放され、腹いっぱい食事もでき、心穏やかに潮騒を聞きながら眠る……。俺たちは久々に人間としての生活を取り戻したんです。途中で死んでいった仲間たちのためにも、生き抜かねば!」
ジェイドがナイスフォロー!
「そう言ってもらえると助かる! じゃあまた明日な……」
俺は背中にゼータを乗せ、横にラビハを従えて家に帰る……。
「領主様の奥様とお嬢さんか……?」
「いや、奥様にしては若すぎる」
「後妻なのかも知れないな」
「二人とも娘だろう」
妙な詮索はやめたまえ移民の諸君!
「そもそもラビハはいつまで我が家にいるんだ」
「ハイザットさんのとこが一番広い。ラビハお気に入り」
もはや監視という理由を忘れたか!
「そりゃあ領主の館だからなあ」
寝室しか存在しないような建物だが!
「なるほどー。建築技術も今後は考えていかなければですねえ。ジムニさんも今はご自宅に一人で心配ですし」
ジムニはほんと、孤独死してないか毎朝ハラハラするよな……。
「それはそうだよな。移民を定着させたら、次は住環境の改善に取り掛かるか。何もかも俺が手を付けて変えていくの、なかなかエキサイティングで楽しい」
「私も楽しいですねえ。な~んにもなかったところに、いろんなものができていってるんですから!」
「ラビハも楽しい! ハイザットさんとゼータちゃんとモネちゃんといると退屈しない!」
そりゃあ何よりだ。
「明日からはもっと楽しいぞ。島のヤバさを体験してもらうんだからな! いやあ楽しみだ楽しみだ。張り切ってやっていこうな」
「おじさまがいつになくハッスルしてますね!」
「こういうハイザットさんはちょっと怖い気がする!」
怖いとな……!?
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