第38話 怪しい奴隷船出現
ルナス領にバラカコーン畑が生まれた。
現在は、既に実っているバラカコーンを収穫する段階だ。
みんなで試行錯誤しながら刈り取りを行っている。
根があまり深い植物ではないらしく、みんなで引っ張ると引っこ抜ける。
連作してもいいのかどうかも不明だし、どのように育てていくかは今後考えていかねばならない。
それはそうと、バラカコーンを数日掛けて収穫したら、恐らく一月以上はパンを食べ続けられる量が確保できたのだった。
これでもほんの一部だ。
「とんでもない収穫量だな……」
「ええ。熟したものは、茎を剥いていくと中にびっしりとコーンが……!!」
ジムニはバラカコーンの生態を、粘土板に書き写しているようだ。
紙が無いんだよな、紙が。
そのうち用意してやりたい。
「あまりに不思議な生態だ。だが、お陰でたくさんの食料を得ることができる。増やし方については、ターミナルで実験していこう」
「はいはーい。あたしやります」
「じゃあモネに任せた……。すっかり俺のお付から、ただフリーなだけの娘になってるからな」
「ハイザット様についていったら、命がいくつあっても足りませんもん。あたし、普通の人間なんですから」
毒が効かないだけの普通の人間な……。
「ハイザット様がなんだか不思議な目で見てくるんですけど! ハイザット様の方が絶対おかしいですからね!!」
「俺は毒には弱いと思うんだ、多分」
「普通の人間アピールしないでください!!」
「おー、ハイザットさんとモネちゃん、仲良し」
「私たち三人の中で一番年上ですし、おじさまにくっつけよう計画も立てたいところですよね」
ラビハとゼータが恐ろしいことを言いながらやって来た。
やめるんだ。
「それはそうと、二人とも今日は漁の手伝いじゃなかったのか? どうしたんだ?」
「あ、それですよおじさま! 実は大変なことがあったんです!」
「大変なこと……?」
「沖の方に船が現れたんです。とっても大きな船が!」
「なんだって?」
俺は急行してみることにした。
何故か女子三人もついてくる。
「モネはバラカコーン栽培を調べるのではなかったのかね!」
「今日の今日ですぐ分かるわけないじゃないですかー。あたしは今日は野次馬したいんですよー」
やはり領主に向かってなんとも態度のデカい娘だ。
俺じゃなかったら大変だからな。
さて、桟橋に到着すると、何故かうちの領地に滞在しているリック船長とディア兄弟が、青い顔をしている。
彼らが、漁をしようとしていた男衆を止めたらしい。
リック船長が俺に気づき、
「大変だぜ旦那。まさかあいつらがここまでやって来るなんて……」
「なにっ、知っているのかリック船長! 俺は全く知らないんだ」
遠くに見える、かなり大きいであろう船。
赤い血のような色の帆を張っている。
そして旗がひらひらしているな。
あれはなんだ?
「んー、あの旗は……ドクロ! それが何本も縦線で消されたみたいになってる! ラビハ、見破る~!!」
「ドクロを縦線で? どういう表現だろう」
「旦那、あいつらは奴隷商だぜ!! しかも、怪しい魔術に手を出して、人間をやめてやがるんだ。永遠にあの船で世界中を渡り歩き、奴隷を集めて売りさばくんだ」
「へえー。そんな奴らがいるのか! 邪悪だなあ」
俺は感心してしまった。
いやはや、世界は広い。
船長が男衆を引っ込めた理由も分かる。
彼らが奴隷狩りにあって拐われたら、人員不足の今、我が領土は詰んでしまうだろう。
だとしたらどうする?
切るか?
おっと、向こうから小舟が降りてきた。
こちらにやって来るな。
そして魔剣がブルブル震えた。
ほどよい震えだな。
近づいてくると分かる。
船の上には、船員が六名。
そしてそいつらのリーダーらしき男が一人いた。
全員顔色が真っ青なんだが?
「やあやあこれはこれは。歓迎いただきありがとうございます。我らの事はご存知ですかな? 奴隷商ブラーン様率いる、奴隷船サイム号でございます」
真っ青な肌で、いい服を着た男が船から降りた。
水の上に浮かび、スイーっと滑ってくる。
そして俺の眼の前に降り立った。
「ひい、と、飛んだ!」
「他の奴らも飛んでくる!」
船員たちが次々に海の上を滑り、島の上に降り立つのだ。
怖がる領民たち。
ここで俺、ふと思う。
「ここは俺の領土なので、許可を取らずに降りるのはいかんのだが?」
「はい? 何かおっしゃいましたかな? ブラーン様はこの新たなる島に、人間の姿を見つけられました。お喜びなさい。皆さんは我々の新たなる商品となるのです! そしてこの島、人間どもの住まう大陸からちょうど離れています。これもお喜びなさい。ブラーン様はこの島を己の拠点とすることを決めましたよ」
「勝手すぎ! ラビハ怒る!」
「そうだそうだー! ここはあたしたちの島だぞー!」
「ふん、人間の女がうるさいですね! 奴隷の数を増やすのに役立つから活かしておいてやりますが、少し痛い目に合わせてやりましょう。シャオ!」
青い顔の男が、目を見開いて手をかざした。
手が鉤爪を展開してからぐんと伸びて、女子達に向けて……。
「お前俺の話を聞けっての」
俺がその手をストンと切り落とした。
魔剣はもう抜いたからな。
「へ?」
青い顔の男が一瞬、呆然とする。
切り落とされた腕は地面に落ちた瞬間、しおしおと干からびてしまった。
「う、うぐわあああああああ!? わ、わ、私の腕が!! 人間の武器など肌を通らぬはずの、私の腕がああああああ」
「話を聞けっての」
俺は青い顔の男の額に手刀を叩き込んだ。
「ウグワーッ!?」
吹っ飛んでいく青い男。
海に落ちる寸前でピタリと止まり、憤怒の形相で起き上がる。
「ゆ、ゆ、許さん……許さんぞ人間~~!! 下手に出ていればつけあがりおって~!! ブラーン様配下の魔人である我らを、これほど愚弄するとは……!! その事を後悔させてやる!! お前達!」
「おう!! 生意気な人間め!」
「目にものを見せてやる!!」
「不死の肉体を賜った我ら魔人奴隷商!」
「人の剣など何するものぞ!」
「己の行いを後悔せよ!」
「お前に死がやって来るぞー!!」
船員たちが襲いかかってくる。
全員が人間離れした速度で、サーベルを引き抜き、牙をむき出しにしながら俺へ殺到するのだ。
「それはそうとだな。ここは俺の領土なので勝手なことを……するな!!」
俺は剣をスコーンと振った。
船員全員の首と胴が泣き別れになった。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
頭と胴が一瞬で干からびて風化したぞ。
青い顔の男が、唖然としながらこちらを見ている。
「な、な、一体何が……!? 不滅の命を与えられたはずの我らが……不死の魔人である我らがどうして……」
「勝手に領地に入るなって言ってんの。ちゃんと許可を取れ。あと、あの船をどっか行かせろ。漁ができないだろうが」
俺は青い顔の男を指さして叱った。
「いいか? ブラーンというのがお前の主人なんだろう。言い聞かせておけ! お前、俺の領地で変なことしたら今度は本当に切るからな」
「我が部下を一閃で全滅させたあれが、本当に斬ってはいなかった……!?」
あんなもん峰打ちに決まってるだろうが。
俺の峰打ちは技量が足りないと受けきれずに死ぬからな。
「埒が明かないからお前帰れ! ソードクッション!」
俺は男の顔面に、ソードクッションを叩きつけた。
風圧で、男が吹っ飛ばされる。
「ウッ、ウグワアアアアアアアアアアアアアア!?」
「ちゃんと伝えるんだぞー。昼まで待ってやるからな! 答えがなかったらこっちから行って船を帰らせるからな!!」
よし、船に着弾した。
これで問題なし。
小舟は……うちの領地で使わせてもらおう。
「うーん、おじさま、明らかに人間ではないやつを鼻息みたいな感じで一蹴しましたね」
「人間であろうが人間でなかろうが、斬って死ぬなら同じだろう。昼飯を食べながら返答を待つぞ! 全く、漁が一日できないだけで大きな損害なんだからな」
俺はぷりぷりと怒りながら、村に戻るのだった。
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